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チーズと塩と豆と/江國香織ほか


話題:本の感想

 

短編集を探していて見つけた一冊。かわいらしい装丁に惹かれ、図書館から借りてきました。
角田光代、井上荒野、森絵都、江國香織という、四人の直木賞作家が書き下ろしたアンソロジー。みんな有名作家さんだけど、こうやって手に取るのは初めて。
読みやすく癖のない文体で綴られる、人々の心の揺れ。どことなく寂しい雰囲気のなかで、こちらの心までも揺さぶられる。
ゆったりとした時間が流れるような、そんな素敵な話。テーマが食事のせいもあり、読んでいるとお腹がすいてきます。

四作とも舞台はヨーロッパ。むっと匂い立つような緑、見渡す限りの田園、からからに渇いた土の色。夏の生ぬるい空気、そして人々をつなぐ異国の料理。まるで自分自身がヨーロッパを旅しているような、そんな色鮮やかな光景が目に浮かぶ。
作品名のような、凝らない素朴な料理の描写は、人々の心をそのまま映すよう。うまく言えないけど、すごく良かった。

個人的に洋名の人物ってちょっと苦手なんだけど(覚えられない的な意味で)、登場人物が少ないせいかそこまで気にならなかった。どうでもいいけど、短編ひとつ読み切るたびにものすごい脱力感が。人物に感情移入しすぎなのか。

一番のお気に入りを挙げるとしたら、やっぱり「神さまの庭」かな。初っ端から引き込まれる。
母の死をきっかけとした父との衝突。田舎の因習に辟易し家を出た「わたし」に、父は何かと「ちゃんとしたものを食べろ」と言う。
世界中を飛び回る長い旅路の途中、人との出会いを通してその言葉の意味に気づく「わたし」。
何のために食事をするのか。そして誰かとともに食事をすることの意味。これまでいろいろな話に取り上げられたテーマだろうけど、そんなごくありふれたことに気づかせてくれる話。

作者の他の作品にも手を伸ばしてみたくなるような一冊でした。
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