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変わらぬもの。



貴方の総て、この身で愛しさを漲らせていたのなら、

私は今でも、

貴方の傍で、




笑えていたのだろうか。










〔愛しさ〕は何故、均衡を保てずに、徐々に廃れていくのだろう。


あの時は本当に好きで愛しくて、
確かに貴方のその温もりに、永遠にしがみ付いて行こうと誓っていた筈なのに。



如何してあの温かな想いは、薄れ消え失せていってしまったのか。
月日の経った今では、其れを確かめる術はない。





「……どんな顔していたっけ」


空中に白く漂う珈琲の湯気と、煙草の煙を見詰めながらふと呟いてみる。
そういえば吸い出したのもこの頃からだった、紅く色付く煙草の先に視線は釘付けになり、私は苦笑いをした。





本当に好きだったのか。
〔愛しい〕と感じていたのか、其れすらも危うい。





現実と無意識の曖昧な境界線。
幾度の季節を迎え、歳を重ねても不鮮明さは変わらぬまま。



「変わらないもの……」



煙草を口元に持っていく様は、吸う度に様になるようになった。
最初はなかなか上手く肺に吸い込む事が出来ず、其れでも自分の物にしようと躍起になっていたのかもしれない。



慣れる度に、上手に煙を口元から吐けるようになる度に……、愛情も吐き出されて消えた錯覚もあった。





変わらないものなんてあるのだろうか。



環境も変わる。
見た目も少しずつ、考え方も、何もかも。



目に見えるもの、見えないもの総てが変化するのは当然のこと。



……だから少しずつ、愛しさも失くした。



「何考えてるんだか」



そんなこと仕方ないのに。



遣り切れない感情を流し込むように珈琲を一気飲みし、短くなった煙草を思い切り吸い込む。
何故突然こんな事を真剣に考えてしまったのだろう。私は無性に自分が嫌になった。










「……あ。」




苛立ちを現すかのように灰皿に煙草を押さえつけながら、ぽつりと呟く。
思い出すかのように視線を天井を移し、私は再び言葉を発した。











「煙草の銘柄だけは変わってないや」











少しだけ、嬉しくなった。






***************
思い出したら、これだけは変わっていませんでしたというお話。





必然。




《愛しさ》に理由など無かった。
ひたすらに貴方という、唯一の存在を見つめ続けて、




《恋しさ》を募らせていた、ただ其れだけ。











恋愛は頭でするものではない。
今更ながらに考えさせられる日々に追われ、付き纏う嫉妬心と懐疑心で気が狂いそうになる。


貴方は特別な人。


何が特別で、何がきっかけとなり恋心が生まれたのか、今ではその記憶さえも朧気だ。
だけどこれだけは本物、それは心と頭の中は貴方で満たされているという事。


瞬間的に喜怒が駆け巡りそして、哀楽をも受け取る。
その度に私は生きているという実感を受け入れまた、感情の豊かさを膨らませる。







貴方に出会えた事は《運命》ではなく、きっと《必然》だった。











貴方という愛する人と出会え、私は人間らしさを忘れずに生きていける。

スカイ。




澄み切ったあの空が、こんなにも恨めしいと思った事は無かった。
其れはどうしようもなく、苛付きを増幅させ、
堰を切ったように、衝動的に私に憤怒という感情を触発していくのだ。












「例えば、」



寒気が大気を覆い尽くす季節の、午後。
心通い合ってから、幾つもの四季を重ねてきた最も大切な人から出た例え話。





「例えば、君が」





その日の空は美しくもあった。
だが、妙に青々とし過ぎていて……それが逆に気味悪くもあった。



普段さして気にも留めない為に、生ずる違和感なのかもしれないが。







「例えば、君があの空の様に手の届かない存在になってしまったら」




綺麗なものは好き。
日に翳せば光り輝く、装飾品のように、
あるいは、煌くガラス玉でもいい。










だけど、己の浅ましさを掻き消そうとする綺麗事は、何よりも嫌いだ。









「君は僕には勿体無い女だ」









その浅ましさに何時までも気づけなかった私もまた、愚かな生き物だ。
一体目の前にいる男の、何を見てきたのだろう。



”恋は盲目”とは、人の性質を見抜いた素晴らしい格言だ。
今更ながら、納得するばかりである。







「今まで、有難う」









視線を交わす勇気もなく見上げながら告げた一言は、どうにも心を込めて言えずにいる。
その瞬間飛び込んだ、高く広く映り込んだ其れは、私に腹ただしさのみを与えてくれる。




特別な思い入れもなかった空が、その時から嫌いになった。









……その考えが既に、愛する人への未練を彷彿させているのかもしれない。













世界。




何れ訪れる終焉であっても、

私には其れだけが救いの材料だった。


「さよなら」を紡ぐには、残酷で、

「永遠」を誓うには、脆く、

ただ、過ぎ行く時を無常に、

感じていく術だけが、私に与えられていた。






愛しいと何度想った事たろう。




私の生活は何時だって貴方次第で、貴方の些細な言葉、表情に一喜一憂を強いられる日々。


悲しみに打ちひしがれた過去も、一つの幸福として息付いて居られた。



総ては「愛してる」という、形無いものに捕らわれて離れなかった。



「もう、疲れたんだ」



強い想いは当事者は深い愛情と確信していても、其れは貴方にとって束縛となり、重い枷となって苦しめる。



愛は何時でも不均等。
互い平等な愛情を持ち、互いに支える可能性は無に等しい。



貴方の去り行く様は、永き時を経ても褪せる事はない。
其れは今でも貴方に愛しさを感じているから。




……悲しい残像は脳裏を駆け巡り、消え失せる選択肢は無い。



「……だって愛していたのだもの」



愛情を計りに掛けて、適度に放つ器用さなんてなかった。
私は貴方を常に求め、片時も離れたくない衝動に駆られて…コントロールなんて出来る筈もない。



セーブ出来る愛なんて、偽物の感情にか思えないでしょう。






「……眠い」





眠る時間が長くなる。


眠る事で精神の安定を計り、貴方との幸せな時間を、何時までも色濃く残していきたいから。



視界に入るものは夢で、この朧気で断片的なものこそが、今訪れている現実世界なのだ、と。



そうして心の均衡を計っている。










「さよなら」を言葉にしたら、何もかも終わってしまう気がした。


この世の幸福は、貴方を中心に廻っていて、

其処で生き、死ねる私は、






世界で一番恵まれていると、今でも信じてる。

狭間。



住み慣れた其処には何も無く、

どうやら、生温く何時冷めるのかも予想出来ぬ、

短くも充実した”幸福”に、感覚が麻痺してしまったようだ。

幸せとは何とも恐ろしく、

確実に多く見舞われるであろう、”不運”よりも、

その力は絶大で、

一度味を占めれば、更なる甘美な幸福感を得たい衝動に駆られてしまう。



愛しき人。

穏やかな生活。

優しい貴方。

微笑む私。




押し寄せる、不安。



余りにも自然に貴方と周囲に溶け込んで、

逆に其れが私を臆病にさせていく。

幸せは本当に脆く、壊れて消滅し易く、

其れを感覚で知っている私には、

猛烈な恐怖と、時の流れへの憎悪が膨れ上がり、

悶々とした感情が襲い掛かって来る。




尽きない笑い声。

溢れる微笑み。

引きつる口元。



零れる、泪。



理性も、感情も、感覚も、総て。

不要な程この身に漲って、

私という一人の人間を形成していくのだ。
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