話題:今日見た夢
山の中にある博物館を訪れていた。
長いドライブの果てに辿り着いた其処をふらふらと歩き回っていると、四方を硝子で囲われている広いフロアへ出た。
足を踏み入れると天井が吹き抜けになっており、硝子の向こうの景色がよく見えたが何も無い所為か何処か寒々しい空間だった。
否、よく見ればフロアの隅に小さな家が建てられている。
恐らく明治や大正時代辺りの木造の一軒家を模して造られたその家は、子供がままごとで遊ぶような小さなものだったが造りだけは精巧に出来ており、建っている家をそのまま小さくしたようなリアルなものだった。
窓から中を覗いてみると、外観と同様に室内も良く出来ており、畳の敷かれた床には火鉢や座布団、小さな円卓が置かれている。
その奥に鮮やかな色の着物を着た白い蛇が眠っているのが見えた。
一体、これは何なんだろう。
何か説明があるのではないかと思い、家の外側に目をやると入口に掛けられている表札が目に入った。
それには『月所』と書かれている。
つきんじょ…
振り仮名が振られている訳ではないが、何故か自然と口に出してそう読んでいた。
その声に反応したのだろうか。
家の中に居た蛇がいつの間にかずりずりと身体を這わせ、家の外へと出てきていた。
『つきんじょさん？』
そう訊ねると、大きな身体を持ち上げてゆらゆらと揺れながらこちらを見る。
黒曜石のような黒い円らな目がとても可愛らしかった。
名前を読んだことでなつかれたのか、つきんじょさんは私の側から離れなかった。
一方的ではあったが言葉が通じるらしく、話し掛けると嬉しそうに目を細め、身体をゆらゆらと揺らす。
爬虫類は感情が読めない生き物だが、つきんじょさんはとても表情豊かだった。
ふと気付くと硝子張りの窓の向こうが暗くなり始めている。
そろそろ帰らなければいけないなと考えていると、静かな館内に喧しい声が響いた。
驚いて身を縮めるつきんじょさんを宥めていると、四人組の女が喧しく騒ぎながらこちらへやって来た。
やたら濃い化粧に露出の多い服を着た、如何にもギャルですといった風体の彼女達の出で立ちに『何でこんな場所に居るんだ？』と不思議だったが。
そんな彼女らが、つきんじょさんを見るなりわざとらしく悲鳴を上げ『気持ち悪い』と、遠巻きに罵詈雑言を浴びせ始めた。
それは聞いているこちらも気分が悪くなるような言葉の嵐で、つきんじょさんはぶるぶると震えながら涙をぽろぽろと流していた。
その四人組の内の一人が何を思ったのかこちらへと向かってくる。
そして私の前に立つと
『そんな気持ち悪いのの相手してるとかあんたも気持ち悪いー！』
嘲るような口調でそう云うと笑う。
気付くとその女を殴っていた。
少なくとも似合わない服を来て、原型留めてない化粧してるお前らなんかより、つきんじょさんの方がずっと可愛いよ。
見てくれで物事を決め付けるなら、まず自分を直した方が良い。
お前達の方が気持ち悪いし醜いよ。
そう相手に捲し立てたような気がする。
そこから私と四人組との悪口の応酬になった。
何が相手にとって一番効く言葉なのか、考えてぶつけていく。
私自身もなかなか酷い事を云われたが頭に血が上っていたからか、それとも言葉で攻める事に快感を得ていたからなのか何も感じる事は無かった。
一人、また一人と言葉で攻め落としていく内に喧しかった四人組の声は、いつの間にか啜り泣きに変わっていた。
終わったな…そう思いながら、つきんじょさんに向き直る。
小さな丸い目から涙をこぼしながら擦り寄る彼女を撫でると『ごめんね』と声が出た。
我ながら自分の性格の悪さが滲み出る夢だったと思う。
つきんじょさんは可愛かった。
また会えたら良いな。
