話題:今日見た夢


小さな山の上にある病院に暮らす老医師に会いに行った。

老医師が暮らしているのは明治大正時代辺りに建てられたような造りの洋館で、くすんだ白い外壁には枯れた蔦が所々へばりついていた。
手入れのされていない曇った窓硝子に、玄関ポーチに溜まっている枯葉を見るにこの建物が現役の病院である事や、人が暮らしている事など信じられそうにもなかった。

見た目の割りに軽い扉を開け足を踏み入れた建物の中は広く、床には色々な物が纏められた状態で積み上がっており、乱雑に敷かれた色のくすんだ絨毯や雑誌や新聞を束にしたもの、足元を転がる無数の埃の塊は此処が廃墟である可能性を強調している。

玄関から入って正面にある大階段を見上げると二階の天井が抜けていて、其処から日の光が射し込みスポットライトのように一階のホールを照らしていた。
階段を上ると火事でもあったのか一部が黒く焦げており、瓦礫が散乱していた。
火災で天井が落ちたからか、大きな石の塊があちらこちらに転がっていて、階段を上りきった先へ行く事は無理だった。

階段を降り、一階に戻ると老人が居た。
白衣を着ているので、この老人が私が会いたかった医師なのだろう。
彼の『おいで』という言葉に、何処かへ向かって歩きだしたその後を追った。

案内された洋館の奥には部屋が一つあり、其処は綺麗に掃除されていて清潔だった。
様々な器具や薬品やカルテのようなものが収納されている棚が並ぶ部屋は、理科室のようなツンとした臭いが漂っている。

『座りなさい』と用意された椅子に座っていると、老医師はよく磨かれた窓から外を眺め、こちらに背を向けた状態で喋り始めた。


この洋館の二階が無い理由。
彼が此処で医師をしている訳。
私の病気の事。


長い話だった。
ただ幾つかの事を喋る毎にその声は小さくなっていき、最後の方は耳で捉えられない程になっていた。


そして話し終えた老医師がこちらを向く。
その表情は窓から射す光で影になり伺う事は出来なかった。


『僕はこの家が好きなんだ』

『だから朽ちるまで居るつもりさ』

『此処を訪れる人は家に呼ばれているんだ』

『だけど君が此処に来るにはまだ早い』


そう彼が云うと突然、目の前のものが崩れ去り目の前が目映い白い光に包まれた。
老医師の姿が光に溶けて、消えていく。




ふと気が付くと自宅の寝室に横になっていた。
日付が変わってさして経っていないのを確認すると、私は再び目を閉じた。

彼に再び会える事を期待して。