ふと、ゾンビ映画ってやつを観ようと思ったんです。

ブギーマンやレザーフェイスみたいな怪人系でなく、吸血鬼や幽霊でもなく、ゾンビがいいなあと思ったんです。


なんか馬鹿馬鹿しそうで騒がしそうで、楽しめそうだなと思って。お祭り騒ぎみたいな感覚を求めてたんです。


そこで最高に馬鹿馬鹿しそうなやつをみつけたんです。その名も『ゾンビ・ナース』世の男性の下半身とゾンビ好きににモロに訴えるような、直接的でこれ以上の説明不要なタイトルとジャケット。すごくいい。絶対馬鹿馬鹿しいに違いない。その時はそう思いましたね。


ところで『ゾンビ・ナース』ってタイトルからストーリーを思い浮かべろと言われて、ゾンビと化したナースを思い浮かべない人はまずいないことでしょう。

手にしたパッケージの上で、半乳晒した赤いネイルの金髪ナースがどんと構えてニタニタ笑ってた日には、なおさらですよ。


※ここから先はゴリゴリにネタバレしつつの感想です。
















まさかナースのゾンビが一切出てこないとか、まったく夢にも思わないよね。


世に出回るゾンビ映画と鮫映画は酷い作品が非常に多いらしいですけど、この映画の詐欺な所はナースの役所が主役ではなく脇役、しかもゾンビですらないという所です。

金髪ナースの役所を簡単に説明すると、怪しい病院に勤務する好血症のレズビアンって所です。

なぜ吸血鬼じゃなくて好血症かっていうと、病院に運ばれてくる患者から毎日ちょっとばかりの血を抜き取って、その僅かばかりの血を美人ナース三人組でおっぱい丸出しでいかにもプレイのついでって感じでちょびちょび分け合うそのスケールの小さい様子は、吸血鬼と呼ぶにはあまりにも……あらかわいいねえ、と表現する他ないというか……化け物というより、雰囲気に酔って恍惚としてる人間って感じで全然怖くないんです。


この映画の真の主役はナースではなく学校の先生(スクールカウンセラー?)の女性です。夜な夜な怪しい病院の夢にうなされる金髪美女です。

彼女は本編開始十分くらいの所で恋人にプロポーズされる幸せ者ですが、あまり乗り気ではありません。その過去には何か暗い陰が伺える模様。とりあえずプロポーズの続きは後でと、恋人を置いてさっさと出勤してしまいます。


主人公が今頭を抱えているのは、モンスターの悪夢に苛まれ、夢で見た醜いモンスターの絵ばかり描き、モンスターが現実にもいると思い込んでいる女子生徒のこと。

この女子生徒、謎が多いながらも凄い存在感なんですけどなんと無名時代のクロエ・グレース・モレッツです。すごい人っていうのは有名になる前からやっぱりすごいんだな、と思いました(小並感)

彼女とのやり取りもそこそこに、仕事を終えて学校から出てきた主人公を恋人が迎えにやってきます。

乗り込んだ車の中でのやり取りによると、彼女が結婚に後ろ向きなのは彼女の父親のことが問題な様子。それはやがて作中で、主人公が過去に父親になんらかの罪を働いたからだと判明するのですが……。

軽い口論の末、恋人からの仲直りのキスの途中で、悲劇が起こります。運転中の前方不注意による車両接触事故です――というか、運転中に思いっきり真横向いてキスとか恐ろしすぎです。そら事故る。

やがて足を負傷して運転席から出られない恋人を、救急車が運んでゆきます。

あわてて付いて行こうとする主人公に対して、救急車側は『規則なので』と乗り込みを拒否。搬送先すら教えてくれずに行ってしまいます。

途方にくれる主人公。なにしろ彼女は病院が大のトラウマで、病気の時すらわざわざ往診を頼むほど。それでも震える足でなんとか最寄りの病院の受け付けまで辿り着きますが、なんと恋人はそこには搬送されていなかったのです。

ここではないならいったいどこに?狼狽える彼女に病院の受付は一帯の搬送先のリストを差し出してくれるのですが、結局恋人はどこの病院にも運び込まれてなどいなかったのです。


同じ境遇に見舞われた接触事故の相手の同乗者とも協力しあい、例の学校の少女の手助けもあり、やがて主人公は遥か昔に焼け落ちた筈の、ある怪しい病院の名を知ることになるのですが、謎の驚異が『お前は手を引け』『お前も俺たちと同じ悪魔なんだ』『実の父親によくもあんなおぞましいことを』とかなんとか実にしつこく彼女の邪魔をするのです。果たして彼女とその恋人の運命は……?


というのが大体の概要なんですけど、もうなんとなくわかってると思いますがこの映画、ゾンビ映画ではありません。

邦題『ゾンビ・ナース』の原題は『Room 6 』病棟の6号室という意味です。この6号室というのが彼女の過去に深く関わっているわけです。というか、この映画のキモは最初から最後まで彼女の過去に何があったのか?というそれ一色です。


一応ゾンビは出てきます。恋人が搬送された怪しげな病院の中で一応患者のゾンビ的なやつの集団は軽ーく出てくるんですけど、スプラッタ的なやつではなく、攻撃性のない絶対安全ゾンビとでも言うか、あーうー呻きなから主人公の女性の身体にソフトタッチしてくるだけの『どこにも逃げられない感』を演出する動く背景程度の役割しか担ってません。


この映画でのゾンビの登場は本当にこれだけです。後は悪魔と怪しげな病院のサイコな医師、ボストロール系婦長、好血症レズビアンナース×3だけです。


ゾンビなナースによるパニックものを期待していたら、いかにもキリスト教的な感じの、主人公の犯した過去の大罪の清算と、魂の救済を懸けた悪魔との攻防の一部始終、やがて審判の時が……!みたいな内容の映画だったというオチです。

こうやって書くとすごく壮大で厳粛な雰囲気でしょう?でも全然そんなんじゃなかったです。綺麗に終わったなー、と見せかけて矛盾いっぱいの非常に力業な反則オチです。


恋人を無事助けだし、燃え盛る病院から逃げ出す主人公に恋人は意味深に『本当にいいんだな?』と聞きます。頷く主人公。扉の先には真っ白な世界が広がって――場面はあの事故現場に遡ります。ただ冒頭と違うのは、怪我をしているのは恋人ではなく主人公であったということです。それも骨折などではなく、どう見ても生命に関わるような瀕死の重傷です。


目を覚ました主人公は全てを悟ります。『私はテストに合格したんだわ』恋人からしたらうわごとにしか聞こえないこのセリフですが、つまり彼女の人生がここで終わることは決まっていたことで、事故以降の出来事はその生前の深い罪(後述)を清算することなく、地獄に落ちて悪魔の仲間になるか、過去のトラウマや恐怖に打ち克ち行動を起こし、恋人を救うことで罪を清算し天国にゆけるかという魂の救済を懸けたテストだったということだと思います。


全ては事故に遭遇して生死の境をさ迷っていた主人公の長い走馬灯でした、で片付けられそうなラストでした。

ただまあ、なんと強引な……。


ぶっちゃけると、主人公の犯した罪は父親殺し(どっちかというと自殺幇助?)なのですが、悪魔にまで『お前も俺と同じ悪魔だ!』とか『おぞましい』とか言われちゃうような大罪とはとても思えない……。

キリスト教もそうであるように、父親殺しが最大の罪っていうのはよく聞きますけど。


物事をよくわかっていない子供が、半身不随の父親に懇願されるがままに生命維持装置のスイッチを切った。そして結果として父親は死亡し、娘は自分でもよくわからないうちに直接的に父を手にかけ、親殺しの罪を背負った。それが行われたのがある病院の6号室だった……というのが主人公の過去の真相です。


その過去の罪を見つめた上で、今度は愛する人を見捨てない、みたいなのがテスト合格のキモだったんでしょう。おそらく。


この程度といったらおかしいですけど、本物の悪魔がこのくらいで主人公をおぞましい悪魔呼ばわりとか、お前ら悪魔の癖にどんだけクリーンな感覚してるんだよと思わず突っ込まずにはいられないというか……。


謎いっぱいの少女役のクロエちゃんとか結局なんなのかよくわからないままですからね。


彼女は最初の事故のシーンと、ラストの事故のシーンにも登場するのですが、ラストシーンで主人公と恋人が野次馬に紛れる彼女をみつめて
『あれは誰だ?』『さあ……以前はメリッサ(クロエの役名)と呼んでいたけれど、もしかすると彼女は私の守護天使だったのかもしれないわ……』という言葉で彼女の存在はぼかされるのです。


確かに主人公の心の闇を知っているような口振りだったり、誰も知らない怪病院の名前を知っていたり、不思議ちゃん全開ながらも終始彼女は主人公の手助けをしていました。しかしそれはあまりにも……強引じゃないか?


強引と言えば、全ては主人公の走馬灯の中で起こったオカルトな現象であり、現実にはなんの変化や影響もないみたいなオチであるというのなら、話の視点はあくまで主人公だけの視点で語られるのが普通なのに、作中では何故か恋人がメインの視点や心理描写がいっぱい入っていたということ。後から気づいてあれっ?ってなりました。


以上、何度目だアルバトロスという話でした。ゾンビ映画の話をしてたはずなんですけどね。不思議!


あの配給会社の詐欺ジャケに、いちいち騙される私も私なのですが、わかっていても騙されたいっていう。突っ込み所満載の酷くてショボい映画を楽しみたいっていう。どうせなら手酷く裏切られたいっていう。そういうなにか後ろ向きの期待をB 級映画には求めたくなるんですよね。


話題:今日観た映画