昔聴いていた音楽を今改めて聴いてみると、思い出芋づる式過ぎて、もはや釣り上げられてデッキの上でビッタンビッタン悶える鮮魚状態という話。

それが当時長いこと流行ってたアーティストのベストアルバムとかだったりした日には、下手するとその一枚でほぼ全ての青春が網羅されてしまったりなんかしたりもしてもう言葉にならない。

これが『自分の好きなアーティストやアルバムベスト3』とかに入るようなやつだったりすると、ちょっとまた違ってくるんですよ。

死ぬほど好きとか言っちゃって差し支えないほど好みの曲の場合、だいたい全力でその曲を聴いてしまうので、主に思考は曲そのものに向き、そこに纏わる思い出も多くはその歌手関連のことになるので、そこにメロウだったりナロウだったり激しくロウだったりするおもひでがぽろぽろするよな余地は、そんなにないのです。


確かに、友達とこのバンドのライブ行ったなー楽しかったなー、という思い出もしっかりと存在するのですが、そこに懐かしさやら過去の悲喜こもごもが胸にグサグサくる感じはなくて、もっとある意味限定的でライトな感覚です。ライトっていうのは大した思い出ではないと軽んじているということではなく楽しさ一辺倒でさっぱりと明るく、かつ腫れ傷的にじくじくとノスタルジーを引きずったりはしない、次の瞬間にはさっと頭の中から退場して、いい気分だけを残していってくれる――だいたいそういう感じの、おおざっぱに言えば『いい思い出』ということです。


デッキの上の鮮魚状態に陥る音楽というのは、たいてい『物凄く入れあげてた訳ではないけれど、なんだかんだでよく聴いていた、というくらいの温度で好きだった曲』というのがポイントな気がします。


好きのレベルが小躍り大興奮レベルではないから、楽曲と過去の経験が結び付く思考の隙があるというか。わりととるに足らないけど生っぽい思い出がモロモロ涌いて、よきにしろ悪きにしろ懐かしくて死ぬ勢いです。


たとえば小学校の給食室の憂鬱な匂いとか、旧校舎と第2校舎を繋いでいた日の差さない渡り廊下の、ひやりとした冷たさとか。友達の着ていたスカートの色とか眼鏡のフレームとかそういうどうでもいい感じのやつから、休みの日にダラダラ遊び倒したとか、誰かの誕生日会やったとか、ケーキ焼いたら大喜びでペロッとたくさん食べてくれたとか、わりといい感じのやつまで、小学校から高校の修学旅行くらいまで、さらにそれ以降と芋づるゴロゴロ大漁一本釣りで一気に思い出してしまう。いかに音楽というものがみんなのものであると同時に、個人的なものであることか!


私の学生時代はもっぱらMD(金銭的にリッチな人はウォークマン←勿論今の十代に『ウォークマン』もしくは『iPodじゃない方』と言って通用するであろう方のやつ。デジタルメディアプレイヤー的な名前の、今も使われているアレの最初の方のやつ。中には音にこだわりありのCD派という猛者も)を使っていたので、休み時間に友達と気軽に新しい音楽を交換したり共有したりできてたんですよね。軽くて複数持ち運べるから。このCD よりも音質の悪い感じもノスタルジーに拍車をかけてる感じ。当時のMD というものの音質がそういうものなのだから、別に誰が狙ってそうなったという訳でもないのに、狡いっすわー、あざといっすわー! と、TVの芸人みたいに誰にともなく言いたくなります。正気を失っているとしか思えない。


そのMDも次第にアルバイトなりなんなりで資金を得て、各々iPodなりウォークマンなりに変わっていくので、必ずしもMDだけがそうであるとは言い切れないのですが、やっぱり私はあの小さな四角いメタリックボディと数枚のカラフルなディスクのワンセットに青春の香りを感じます。そこに別にいい音はしないけど、デザインがものすごく凝っててかわいいイヤホン(おおむね1000円〜2000円で買えるようなやつ)がついてくると完璧。


あの録音の面倒さとか、CD よりはずっと小さく軽いとは言え、ウォークマンなどに比べてかさ張る体積、別のアルバムを聴きたくなったらいちいち取り出してディスクを入れ換えるという僅かな手間がかかったりする。だけどタイトルや曲名を、リモコンでディスクそのものにちょいちょいと入力できたりするというデジタルな一面も持っている。そのちょっと前時代的でローテクとハイテクの間に佇んでいる感じが、余計に懐かしさを醸すのかも知れません。


ウォークマンと言えば、昔のエヴァの映画でカセットのウォークマンが印象的な使われ方をしていたと思うんですけど(序破Qのやつはまだ観てませんが、そっちでもカセット使ってたりするのでしょうか。ところで式波って誰なのwというのは冗談で、とにかく他にカセットが登場する作品をよく知らないし、私自身の生活にもカセットはあんまり馴染みのないものだったので実体験の引き出しもなく、唯一覚えてるエヴァを選んでみました)カセット、CD、MD、そしてiPod筆頭のデジタルメディアプレイヤー的なやつ、スマホ、モノは変われど、制服を着るような年齢の女の子や男の子が、バスや電車の中でそういうものを身に付けて物憂げな顔をしてるのを見ると、ああ、いいなあ、青臭いなー、と思わされる。この感じはきっと世代問わず共通だよなと思いました。


あれくらいの年齢の子とポータブルプレイヤーって、なんか絵になるんですよね。なんなんでしょうね。

結局なんの話してたんだっけ。