走行会の申込みを躊躇っていると Kumが僕にこう言った

「キャンセルの時はお金取られるの?」

「8日前までならキャンセル料無しだよ」

「じゃとりあえず申込みしなよ」



キャンセルを前提とした申込みをするのは嫌いだ


たぶん そんな僕の事を見越したKumは

申込みしたら よほどの事じゃないとキャンセルしない

そう思ったのだろう



その夜 僕は走行会の申込みを完了した



いざ申込みを済ませると 僕はもう完全に頭の中が走行会モードになった

バイクの準備は特に無い

先日オイル交換をしたし
ブレーキも問題なし
タイヤはたぶん この走行会で終わる


本人の体力は心配だが まぁ気合いでなんとか



メットは普段のを使うとして
その他のライディングギア…

そう グローブにブーツ スーツの準備をしなければならない



クローゼットの奥からスーツを引っ張り出す


ぐへっ と思う程重い


こんなに重かったっけか
約10年ぶりに手に取った最初の感想



いやいや それよりこれ
着れるのか?
多少スレや痛みはあるものの スーツ自体は問題なし


もしスーツが着れなかった時は
急いで買うか レンタルする事になる


僕自身も この10年 あまり体重変化が無いから 何とかなるはず



恐る恐る 片足を突っ込む


ライディング用のスーツ
いわゆる革つなぎは 転倒の時の安全性を考慮して かなりタイトな作りになっている
しかも バイクに乗って居る時に適した形に立体裁断されているので
スルスルとズボンを履いたり ジャケットを羽織る様にはいかない


ぐいぐいと引っ張って 膝の位置を合わせ もう片方の足を通そうとしたら 足が上がらない

仕方なく やっと履いた片方を またズリ下ろし
両足いっぺんに突っ込んで ヨタヨタとよろけながら 壁にもたれ スーツを腰まで上げた


次は腕だな


方袖に腕を通して 反対も通そうとしたが 足の時と同じで 通らない


年齢に伴って 身体が硬くなった


仕方ない

これも両袖同時に通す事にした が
重く堅いスーツに なかなか肩が収まらない

しばらくジタバタしてやっと肩がスーツに納まると じっとり汗をかいていた


よし じゃチャックを閉めるぞ


体の正面 股間付近にある
YKKの文字の刻まれた 少しゴツいタブをつまみ一気に引き上げる


ぐぐっ…


一瞬 腹の辺りでつかえたが 何とか閉まった


走行会までもう時間が無い

腹筋をして 腹を引っ込めなきゃ
でも装備が問題なくて良かった





それからまた ジタバタ ヨロヨロ とスーツを脱ぐのに四苦八苦したていると

その物音で起きてきたKumが


「へぇ 着れたんだ
凄いじゃん」

と 少し棒読みで言った