それは 小学4年生の時
同級生のKanさんに
特別な気持ちを持っていた
まだ 恋なんて 言葉も意味も知らない
でも 彼女が気になり
自分のものにしたい
と はっきり思っていた
ある時 男子の間で
「誰が好きか」を言い合う 遊びが行われた
その時に居合わせた人が
順番に 好きな娘の名前を言うだけの 他愛ない遊び
順番に発表される中に 彼女の名前が出ない事を祈りながら
順番を待っていた
結局 Kanさんを好きだと言ったのは
僕だけだった
彼女を好きなのは 僕だけ
嬉しかった
みんなに 好きな事を発表した恥ずかしさより
僕だけだった嬉しさが 勝っていた
みんなに 好きな娘をバラしてしまうと
それなりに 楽な事もあった
音楽の授業は 音楽室に移動する
すると 周りの男子が
彼女の隣に座れる様に誘導してくれた
それぞれが融通して
音楽の授業の時 男子はほとんど 好きな娘の隣に座っていた
ある日 音楽の授業で
僕の筆箱を いじっているKanさんに気づいた
「何してんの?」
その問いに彼女は答えず
ただ 照れくさそうに 筆箱から手を離した
あの時の彼女の顔は
今でも はっきり覚えている
そして僕は
「Kanさんも 僕の事が好きなんだ」
と直感的に理解した
放課後
西日でオレンジに染まる教室で
帰り仕度もせずに 少し遊んでいた
掃除当番の子が全員帰ってしまうと
静けさだけが 教室を支配していた
僕は 彼女の席に
座ってみたい衝動に突き動かされ
彼女の席まで行ったが
「誰かに見られたら…」
と 怖くなり
机に触れただけで 椅子に座る事はしなかった
翌日
「僕とKanさんは好き同士」
と噂が流れた
筆箱の一件に気づいた男子が居たのだ
はやしたてられると もう上手くはいかない
急に恥ずかしくなって 意味もなく噂を否定してしまった
あの時
もっと素直になれていたら
その後
高校卒業位まで Kanさんの事は気になっていたが
友達以上には ならなかった