・「秋の牢獄」
女子大生の藍は、11月7日を何度も繰り返している。毎日同じ行動、同じ話をする友人。何をしても、朝にはリセットされる世界。たった一人繰り返す孤独な世界の中で、彼女は自分と同じ「リプレイヤー」と呼ばれる存在に出会った。彼らの間で語られる北風伯爵の存在と、次々と消えていくリプレイヤー。
同じ一日をループする話というのは、作品中で紹介されているようにたびたび取り上げられるテーマなんだろう。
終わり方が曖昧で、なんだかオチが弱いというか、最終的に主人公がどうなったのかを書いてほしかったなあとモヤモヤが残ったけれど、一冊読み終えてから思ったのは、この終わり方でよかったんだなということ。この本の流れなら、ハッピーエンドにもバッドエンドにも分類されないラストが正解な気がする。
・「神家没落」
はじめは「秋の牢獄」のあらすじに惹かれて借りたけれど、それよりも個人的にツボだったのが二作目の「神家没落」。
ある春の日、主人公は不思議な旧家に迷い込んだ。人の気配はあるけれど、どこか周りから取り残されたような雰囲気のある家に彼は違和感を覚える。やがて彼の前に現れる面をかぶった老人。「とうとう代わりの方が現れてくれた」。老人はそう言った。
こういう話を思いつく人ってどんな頭してるんだろうと思いながら読んでいました。中盤まではファンタジックで穏やかな雰囲気。このままラストまで行くんだろうなーと思っていたら、まさかの展開。急に現実に引き戻されたような気分になる。でも主人公が淡々としすぎていて、感情移入するには少し難しいかもしれない。
人間の生々しい欲望と、「家」を利用した利己的な生き方。この展開には、「こういう使い方もあるのか」と主人公同様感心した。
一度知ってしまった平穏を求め、なんとかしてそれを取り戻そうとする主人公。非日常から抜け出したあとの色褪せた日常。読み終えたあとは、まるで長い夢から醒めたような、そんな気持ちになる。
・「幻は夜に成長する」
主人公のリオは、森の中で祖母とひっそり暮らしていた。彼女のもとを訪れる人間はごく少数で、彼女は外の世界を知らない。祖母は小石を鼠に変え、自らも虎に変身する。祖母は、練習次第で「私」にももっと大きな力が宿ると言った。
幻術に翻弄される少女の話。主人公だけが知り得る心の闇と、周囲に理解してもらえない歯痒さ。能力を打ち明けた人々は、しだいに彼女から離れていく。内に秘めた闇はやがて大きなものとなり、「怪物」と呼ばれるまでに成長する。
やっぱり心理描写が淡々としている印象。自分しかもたない能力をどのように生かすのか。彼女の恐ろしさを知らない周囲の人間に、彼女はどんな復讐を果たすのか。私の好みの話ではなかったけれど、こういう不気味なラストは好きです。
三作とも、何かに囚われた主人公の話。
恐ろしいけれど、なんだか自分もこの世界に入りたいと思えるような、独特な雰囲気のある作品でした。