あれは
僕がバイクに乗り始めて1年位経ち

何度か走行会に参加して 「走る」事に慣れ始めた時だった



いつもの様に 近所の峠へ行った帰り

前方を走る一台のバイクに追いついた



SS系のバイク


ひらり ひらりと

連続するコーナーをクリアする姿が 綺麗で

後ろから見ていて飽きない



巧いなぁ



そう思いながら

しばらく追走していた




腰をズラす

スッと 制動



バイクが 曲がる方向に傾き始めると

ブレーキランプが消える




バンク角が一気に増えて

コーナーに吸い込まれて行く



パタンと寝た車体が 起き上がり始めると


スルスルと車間が開く

離される無い様に
大きくスロットルを開け


また 次のコーナーに備えて

腰をズラして 制動




この繰り返し




何度も通い
慣れた道


先の様子が判るので

ただ 楽しい




しかし


そこに落とし穴があった



下りの 回り込んだ左コーナーに入った時



下りコーナーが苦手な僕は

減速し過ぎて リズムが狂った



積極的にバイクを動かせず

ただ コーナーをやり過ごす



立ち上がりで 相手との距離が 離れたのを埋めたくて

必要以上に アクセルを開けた


次の右コーナーが迫り

相手が ポンという感じの 軽いブレーキで進入していく




追いつきたい




その一瞬の欲に負けた



軽く右に腰をズラして
ブレーキを掛けたが

速度が乗りすぎていた



バイクを傾けられず

あっという間に コーナーの外側にあるガードレールが近づく


その外側には
山側から流れる水の排水溝と 濡れた崖



脳裏に フロントタイヤが ガードレールに刺さり

車体の前方に投げ出される 自分の姿が浮かぶ



背中から 崖に当たり

そのまま 排水溝に落ちて行く






それだけは 嫌だ





次の瞬間


僕はバイクを捨てて

右前方の道めがけて 飛び込んだ




四つん這いの状態で 道の上



前を走っていた相手が 次のコーナーに消えていくのが見えた





ガードレールの下の隙間に挟まったバイクを 引きずり出し

路肩の空き地に止めて


損傷を確認する



ガードレールの支柱に当たったフロントフォークが曲がり

ネック部分のペイントが割れて
フレームが逝った事が判る



バイクの損害のわりに


僕自身の怪我は無く

多少の打ち身だけ




ただ 恐ろしく感じたのは


全くぶつけた感触の無いヘルメットの

額の部分に 何か尖った物が当たった様な
4センチ位のキズがあった事だった