あまりに暑い



それでも 直したバイクには乗りたくなるもので




ガラガラと車庫のシャッターを開けると バイクを引っ張り出した



9年前の秋

友人から譲り受けたカフェスタイルのシングルバイク

当時 £2450程の言い値を 勢いで払うと その日の内に名義を変えた


名義変更を見届けた友人は 心なしか寂しそうだった




車検切れから軽いレストアを経て やっと公道復帰


自宅前でエンジンを掛けるのは憚られ
表通りまで数百メートル バイクを押す


低い位置にクリップオンされたハンドルバーは
実際の車重以上にバイクを重く感じさせる


一歩 また一歩


表通りに着く頃には 全身汗だくになっていた

走り出せば この汗が冷えて涼しくなる

そう信じて エンジンに火を入れる準備を始める



燃料コックを開け
軽くチョークを引き

アクセルを軽く 半開程まで煽ると
デコンプレバー操作して
セルフスタートスイッチを押す

セルが勢いよく回ると デコンプレバーを戻した


グボッ バババ…

呆気なくエンジンに火が入る

流石に 調整が取れているバイクは楽だ


ダダダダッ
ダダダダッ…

と 何度かレーシングをして 早々に走り出す事にした



調子良くアイドルするバイクに跨がり 走り出そうと アクセルをガバッと開ける


シュ…バン!


エンジンが止まる



嗚呼



久しぶりに直動キャブの洗礼を受けた

やれやれと再始動すると 今度は慎重にアクセルを操作して 走り出した




走り出して感じたのは 楽な事

以前感じた不調は完全に消え どの回転域からでも 想像通りの加速をするのが楽しい



そうして バイクの加速と音を楽しんでいると
信号がそれを邪魔する


グッグーッ…

古い割には良く止まる



シングルエンジンの鼓動を感じながら 信号が変わるのを待っていると
白い煙りが 風に乗って僕を追い越した

ん?

僕の他に信号待ちの車は居ない



この煙り…
オイルでも回ったかな
いや それにしては白い


何かが燃えている


直感的にそう確信した


信号が変わると 直ぐにバイクを路肩に寄せる


シートの下辺りから もうもうと煙りが出ているのが見える
火災か?


シート周りは 燃えやすい硝子繊維が使われている

その直ぐ傍には アルミタンク
キャブも近い


ガソリンに引火したら もうお手上げ



一瞬 全焼する光景が頭に浮かぶ




祈るような気持ちで シートカウルを開けると

水分補給用に持参したペットボトルの水を 発煙場所に目掛けてぶちまけた




シュ〜…


音を立てて 煙りが怪しい白から 明らかに湯気のそれへと変化した




調べると レギュレーターレクチファイアーが焼けている




これでまた このバイクにはしばらく乗れない



代替品 見つかるかなぁ