おがふる前提成長したベル+ラミアin魔界(ほんのり古←ラミ要素有)
「ベルゼ様、お伝えしたいことがございます。お時間、宜しいでしょうか。」
背丈も伸び、声も変わった自分の様にラミアも美しく成長した。少々高飛車ではあるがフォルカスの助手も立派に勤めているらしい。そんな彼女が無躾にもこんな夜分に王子の自室に訪ねてくるなど珍しいこともあったものだ。当然、ヒルダは軽く眉根を寄せ、窘める。
「ラミア、どうしたのだ。こんな時間に訪ねてくるなど非常識だぞ。」
「解っています。無礼は承知です。けど…、今でなければいけないのです。」
「それほど急ぐことなのか?私が、」
「ヒルダ。いいから。ラミア、それは俺だけが聞いたほうがいいこと?それともヒルダも聞いてもいいこと?」
言い募るヒルダを制し、魔族の王子、かつて人間を親としたカイゼル・デ・エンペラーナ・ベルゼバブ4世が辛そうに顔を歪めるラミアを見つめた。
「…出来れば、人払いをお願いします。」
「判った。ヒルダ、頼む。」
「坊っちゃま…!」
「大丈夫だよ、ヒルダ。このラミアは本物だし、ラミアが俺に危害を加えることもない。だから頼むよ。」
ベルゼのお願いにヒルダはぐっと言葉を詰め、やがて脱力した様に深い溜息をつき、「…少しだけですよ…」と重厚な扉の向こうに姿を消した。その姿に、なんとなく彼の人を見た気がした。遠ざかる足音を聞きながらベルゼはラミアに此処に来た理由を問うた。
「で、どうしたの?珍しいじゃん、こんな夜中に。」
「…今日、薬草調達及び調査の為にバティンの庭園に行きました。」
バティンの庭園とはウ"ラドの魔境の奥深い場所で、その昔バティンという悪魔が住んでいたとされる危険区域だ。樹海の最深部は少しずつ調査が進んでいるとは言え、まだまだ未明の土地であった。
「え、1人で?危なくね?」
昔その区域に入ろうとしてヒルダにこっぴどく叱られたのでよく覚えている。
「いえ、調査隊と一緒でしたので大丈夫です。…ベルゼ様、」
一度言葉を切り、きゅ、と綺麗に揃えられた膝の上で両手を握りしめる。そして、意を決して震える口を開く。
「古市に、会いました。男鹿とは話しませんでしたが、共に居るようでした。」
ベルゼが三白眼気味の目を見開く。喉が震えて声が詰まる。けれど伝えなければ。これが私が古市と男鹿の為に出来る最後の罪ほろぼしだ。
「古市から伝言があります。…『ごめんな』…だそうです。」
何に対しての謝罪なのか。そこに込められたいくつもの想いに泣きそうになる。謝るのはこちらの方なのに、憎悪も憤怒も侮辱も全て背負って彼らは消えた。本来ならばそれら全ての矛先は自分であったのに、誰にも自分が恨まれることのないように傷つくことがないように彼らはわざわざ裏切り者となったのだ。どこまでも優しい、俺の両親。
「ラミア、飲もう。飲んで全部、酒のせいにしちゃおうよ。」
俺が泣くのもラミアが泣くのも酒のせいなんだ。
どこからくすねてきたのか小さな琥珀の瓶の中で酒が波打つ。もう決壊寸前の情けない笑顔だ。私もベルゼ様も。味も分からず飲み干した酒に喉を焼かれ、少し笑って、二人して、泣いた。
優しい2人の人間を想って、泣いた。
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バティン…ソロモン72柱第18位30の軍団を率いる蒼白公。悪魔にしては珍しく愛想が良く、召喚者に薬草、宝石の知識を授けたりする。蛇の尾を持つ人の姿で青い馬に跨がって現れるという。
「裏切り者」となって姿を消していたおがふる。成長したおがふるの「子供」のベル坊と古市が初恋だったラミア視点で。好きのベクトルは違えども確かに好きな人達だったんだ、と何年か越しにやっと泣けた二人。