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出会いB

それはともかく、とアピールを続けるアレスだ。身寄りもない見知らぬ街で一人で仕事を探すのは大変だろう、ここで会ったのも縁であるし話に乗ってみないか。言い含めるように訴えるアレスの必死さに何を感じたのだろうか。ヘカーテは僅かの間の後にこれを了承した。
「わかりました。よろしくお願いします」
「何なら俺に依頼してくれても」
「それは結構です。あなたはまだ経験が浅そうだし」
確かに経験豊かとは言い難くまだ生業として間もないのは事実だが、言い方というのはあるかと思う。何とも言えない面持ちでアレスは席を立った。
「まあ…そう決まったんなら、出ようか」
「そうですね。では行きましょうかガロア」
…ガロア?
そう疑問に抱くと同時に背後でゆらりと気配が動いた。恐る恐る振り向き見上げた先には、いつからそこにいたのだろうか巨大な男が立っていた。アレスは自身の赤髪が逆立つ感覚を覚える。
彼も人並み以上の背丈をもつのだが、土気色の肌を持つ男はふた回り程大きく見えた。その高さから見下ろされ、黒衣とも相まって凄まじい威圧を感じる。
いや、見下ろすというのは語弊があった。ガロアというのだろう彼は装飾の施された布で両眼を覆っており、実際にアレスが見えているとは考えにくい。しかし表情は動かず目隠しまでされているにも関わらず、威圧と敵意がガロアの全身から溢れ出ているのがわかった。先程の鋭い空気もきっと彼だったのだろう。
「アレスさんでしたっけ?こちらはガロア、いつも何かと助けてくれる友人です」
ローブをひらめかせ椅子を降りるその影はやけに細身で。釘付けになる視界の中で、ふわりと微笑み、ヘカーテは口を開いた。
「私、両腕がないんですよ」

出会いA

話題:創作小説

「で、どうして一人で飲みに来てたんだ?」
「……この街に来て初めて目に入った酒場がこちらでしたから」
二人は改めて酒を注文した。アレスはモルト、女はシードルを。女はシードルのカップにストローをつけるように頼んでいる。この地域ではあまり見かけない風習だ。
女の名はヘカーテといった。所属していた組織を離れ、各地を転々とした後にこの交易都市ライテルバーグまで流れてきたのだそうだ。この街は自治領であり国の中でも自由度が高い都市のひとつであるから、と。
アレスが聞き出せたものと言えばこれくらいの事。組織とは何か、これまで何をしていたのか、出身は、好きなものは。思いつくままに問い、話題を振ってみても彼女は言葉少なにそれをはぐらかしてくる。厚いローブに隠されたままの両腕同様に、ヘカーテは最低限の情報しかもたらしてはくれなかった。酔いが回ってきたのか赤らんできた眼差しもアレスと直接絡んではこない。
「交易が盛んな場所だと色んな種族が集まってくるでしょう。特にここなら仕事が見つかるんじゃないかと思いまして」
「なるほど」
淡々と話すヘカーテにアレスは頷く。様々な人種、亜人、もはやヒトではないものまで多くが集まるここならば、確かに他の街よりも職は見つかりやすいだろう。彼女をひっかける、もとい交友を深めるにあたり実に都合のいい口実もそこにあった。
「なあヘカーテ、俺の宿に来ないか?」
「あら、いきなりど直球ですね?」
言葉足らずであった。初めてまとめに絡みあった視線にはあからさまな侮蔑が浮かんでいる。殺気も漂ってきたような気もする。アレスは慌てた。
「私は高いですよ」
「いやいやいや、仕事探してるんだろ?!うちの宿なら冒険者が集まるから誰かしらに職探しの手伝いを依頼できるし、泊まるところも確保できるって意味で!」
「あなた冒険者だったんですか」
何食わぬ表情に戻り、ヘカーテは背を丸めシードルのストローに口をつけた。指先すらも頑なに隠す彼女にアレスは苦笑するほかない。
「始めに名乗ったんだけどなぁ」
自分はこれまでになく面倒な女に声を掛けてしまったようである。

出会い@

話題:創作小説

印象に残る瞳であった。
いつものバールでふと目に入ったそれにアレスは目を奪われる。好みの女ではない。厚いフードに覆われた顔は化粧っ気がなく、今まで夜を過ごしてきた女達とはまるで対極にある。闇に溶けそうなその風貌は普段のアレスであれば鼻にもかけていなかっただろう。酒と香水の匂いが充満し、熱気のこもったこの場には些か場違いなようだ。
しかし鮮やかだった。薄暗いバールの中、数席離れていてもわかる程の、あまりにも鮮やかな瞳を彼女は持っていた。冒険者になり様々なものを目にしてきたつもりだが、あのような不思議な輝きを見るのは初めてだ。もっと近くで見たいと思った。アレスはふらりと席を立つ。
「お姉さん」
声を掛けると女は僅かに視線を上向けた。やはり、いやアレスの想像以上の華がそこにあった。濃紫色の縁取りから紫、青紫と中心へ向けて移っていく虹彩は朝方の空や菫の花を想起させる。そして先程は地味に思えた顔立ちに一房だけ溢れた黒髪も、ふんわりと曲線を描き、色白の肌を引き立たせていた。アレスは思わず息を飲む。
しかし見上げてくる視線はとても冷ややかだ。
「私にご用ですか?『お兄さん』」
お兄さん、と強調する口調からやんわりとした拒絶の色を感じるがアレスはめげない。今まで声を掛け、また掛けられた時に作ってきた笑顔で言葉を続けた。
「こんなところに一人でいるなんてどうしたのかと思って。もし良かったら隣いいかな?」
女は目を丸くし、ためらうような素振りを見せる。やはり簡単に誘いに乗るタイプではなかったか。諦めかけたアレスだが場を離れようとした間際、どうぞ、という小さな声を確かに耳にした。声音から少しばかり強張りが解けているのはアレスの気のせいだろうか。失礼、と声を掛け彼女の隣へ腰掛ける。
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