『抱いてくれてありがとう』


けんちゃんは、何も言わずに抱きしめてくれた。

もう少し、このままいたい…
けんちゃんの腕の中でしばらく目を閉じていた。

なんてあたたかで、安らげる場所。




『私たち、
初めは好奇心で付き合ってたよね。』

『まぁ… そうですね。』


『けんちゃんの名前が息子と同じって知った時、ほんとビックリしちゃった(^◇^;)』



取り留めのない思い出話なんかして、

本当はどうでもいいことなのにね。




急にけんちゃんが静かになったから、

彼の顔を見上げたら、
私の方をジッと見つめてた。


『そんなに見られたら、
恥ずかしいじゃない(^^;)』



それでもけんちゃんは視線を外さない。


この辺で、踏ん切りをつけないと…




『けんちゃん、そろそろ私…』



突然強く抱きしめられた。


友達に戻ろうって言ったのは
けんちゃんなのに。




帰り際、
いつもしてたみたいに、

ギュッとハグをして、
kissをした。



『また、ご飯でも行きましょうね。』


『えっ?     …うん!』




日付が変わる前に、
けんちゃんちを後にした。


7年間通い詰めた部屋。





『ご飯でも行きましょう』


あの言葉は、

何日も眠れず、ご飯もあまり食べていなかった私を
安心させるための配慮だって、知ってるよ。





けんちゃんは、
最後まで優しかった。





あの時

ガリガリ掻きむしった手の傷は、

やっとカサブタが取れて、

少し褐色の傷痕になった。



この痕が消える頃には、

心の傷も癒えるだろうか。




もう、
あんな恋は二度としないな…


私にとって、
けんちゃんは最後の『大切なひと』



そう思ってた。


あの時は…