舞台やドラマの脚本家をしている俺は、書き出しが決まらず〆切ばかりが目に入り、行き詰まっていた。仕事場の窓から見た若い女性が、町を行き交う人々を観察し、その人を模写していると気付く。彼女をヒントに書き始めた俺は、彼女のその後を見なかった。

幼い頃から周りが全て演劇の道を歩いていて、自身も子役としてそのレールに乗ってきた東響子。周りが何を求めているかを感じ取り先回りして、相手の求める自分を演じてきた響子は、自分の将来に迷っていた。
演じる事に終着点はない、演じる事にのめり込み外れていく事が怖いと思っていた響子だが、アイドルと共演した事で、嫉妬心に火が点く。

そして何十年振りに舞台を作るという素晴らしい作家のオーディションに、共演したアイドルは呼ばれ、自分は声すらかからなかった事にショックを受けたが、何とか直談判したいとオーディション会場へ向かう。断られたが響子の為になると言われ見学する。

そこで女優達の演技を見て納得した響子に、二次オーディションの相手役をしてほしいと作家から頼まれる。
そこでアイドルを負かし、素晴らしい演技を見せる。演技にのめり込む覚悟が出来た響子に作家は、相手役は誰が良かったか?と聞く。響子は既に役として決まっており、その相手役をオーディションしていたのだと知り喜ぶ響子は、芝居を始めたばかりで自分がない大学生を指名する。

それは脚本家がヒントを貰った、人を観察し真似る女性だったのだ。

『チョコレートコスモス』
著者 恩田陸
発行元 毎日新聞社
ISBN 4-620-10700-X

モノマネは動きと表情だ。