進学校である北高には毎年、伝統となっている行事・夜間歩行がある。朝8時から夜8時まで2日間、前半はクラス毎の団体歩行をし、後半は誰と歩いても良い自由歩行により、母校を目指し80km歩き続けるのだ。

西脇融は親友・戸田忍と歩いていた。自分とキャラクターの違う忍と仲良くしている融は、忍にすら言えない秘密がある。
融は同じクラスの甲田貴子と異母きょうだいなのだ。

融の父は貴子の母と浮気をし、貴子の母が貴子を産むと決めた時、融の母にもう貴子の母とは会わず養育費も支払わないと言いきり、融の母に父を責める隙を与えなかった。
父を責めない母も、気持ちのどこかにいつもある父への不信感は、融も持ち続けていた。そして、父がガンで亡くなった今も父の娘である貴子を避け続けてきたのに、同じクラスになってしまったのだ。

貴子に対する避けようが、逆に好きだから意識してるのだと勘違いした忍やクラスメートは、貴子と融が内緒で付き合っているのではないかと勘繰り、否定する二人をくっつけようと画策する。

他人に対する優しさが、引き算の優しさ、大人の優しさだと思っていた忍は、何かを相手にしてあげるじゃなく、何かもしないでくれる優しさを、融と貴子は持っていると考えた忍は、融に青春をしろと言う。

「融はさ、偉いんだよな。雑音だってお前を作ってる。雑音は煩いけど、やっぱ聞いておかなきゃならない時だってあるんだよ。このノイズが聞こえるのって、今だけだから。あとからテープを巻き戻して聞こうと思った時にはもう聞こえない。お前、いつか絶体、あの時聞いておけば良かったって後悔する日が来ると思う」

貴子と付き合っているという噂が出た芳岡は、これから世界のものを手に入れなきゃならないし、自分の持ってるものを取られたくないという、若さ故のギラギラがないと言う。他人から何かをもぎ取ろうなんて思ってないし、取られても許すスタンスなんじゃないかと貴子の事を思っていた芳岡だが、貴子は違った。
“あたしは諦めている。逃げている。他人から否定されたり、受け入れてもらえなかったりするのが怖くて、最初から諦めているのだ。誰よりもびくびくし、ギラギラしてるのだ”

老舗和菓子屋の娘・美和子と融が好きだった杏奈に異母きょうだいの事を話した貴子の母は、きっと貴子は話さないだろうからと託す。そこで海外に転校した杏奈は弟を送り込み、貴子と融を仲直りさせようとする。

杏奈が渡米する前にラブレターを送ったと弟に言えば、きっと弟は杏奈の片思いの相手を見つけ出す。それは友達の異母きょうだいなのだと言えば、きっと弟がきっかけを作るだろう、と。
弟の暴露により融の秘密を知った忍はショックを受ける。家庭の恥であり言えなかったのだという融を理解し許した忍は、貴子と話す機会を作るが、融を好きだと言う亮子に邪魔される。明らかに嫌そうな融、そこで高見光一郎が亮子を誘い出し、貴子と話せるようにしてくれる。

初めて互いの気持ちを話し合った融は、怒っているのは父にであって、貴子にではないのだと再認識した融は、貴子の家に行く約束をするのだった。

『夜のピクニック』
著者 恩田陸
発行元 株式会社新潮社
ISBN 4-10-397105-3