「酔ってない。」A/2

@/2からの続き
※成人向け表現注意※



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ジリリリリリリリリ

けたたましい電子音に眉をひそめ、起きる、手を伸ばして目覚まし時計を止めようとして、失敗して目覚まし時計がベッドサイドを転げ落ちた。

愛沙「んもおぉおお」

とてつもなくだるい体を動かして、ベッドの下に足を延ばして時計を拾い上げる。
そこで、廊下の方からがちゃ、と音がした。

翔琉「ああ、起きてたんですね。目覚まし止めなきゃって思って来たんですけど」

しわの寄ったシャツにスラックス姿の後輩がそこにいた。

愛沙(翔琉が、なんで???)

起き抜けのぼーっとした頭でふと足元を見やる。

愛沙(あれ)

翔琉「愛沙さん、服着ないと風邪ひいちゃいますよ?」

愛沙(!!!裸!!!?)

それを認識した途端に昨夜の行動が走馬灯のように思い起こされる。
想いが募っていた後輩にアタックしようと酔ったふりをして部屋に連れ込んで、そのまま……。

愛沙(あああああああああ!!)

急激に顔に熱が集まる。

翔琉「愛沙さん?……もしかして、朝から誘ってます?俺は大歓迎ですけど」

後輩の冗談とも本気ともつかない言葉もすぐには理解できないほど、
頭がくらくらする。
布団を手繰り寄せ、うなだれた。

翔琉「我慢します。愛沙さんが嫌なことはしたくないですし」

愛沙「ええと……うん」

なんと言っていいかわからない。

翔琉「ところであの……」

愛沙「な、なに?」

翔琉「すみませんでした!!!」

愛沙「え、ええ??」

土下座の勢いで頭を下げた後輩に目をぱちくりさせてしまう。

翔琉「あの……昨日のこと」

愛沙(あー……そういうことか)

勢いでしちゃっただけで私とそういう関係になるつもりはなかったとかそんなオチというわけだ。
悲しさよりも、無感情と言うか――凪いだ感覚が押し寄せてくる。

愛沙「私こそごめんね、無理や――」

翔琉「いいえ!こういうのは男の方がきっちりするものなんで!!
その……申し訳ありません!!!」

愛沙「そんなに謝ってもらわなくても……」

愛沙(余計傷つくな)

謝られるごとにズキズギと胸を杭で打たれるみたいだ。
痛みを堪えるのになれてしまった大人な自分が表情を取り繕うとするが――

翔琉「好きです!付き合ってください!!!」

愛沙「はい……?」

翔琉「いえ、だからその……男として情けない話なんですが、つい舞い上がってしまって……告白をしたつもりになって先にその……一線を越えてしまったのではないかと思いまして……!」

愛沙「え?」

翔琉「べ、別に責任をとるとかじゃないですよ!?ずっと隙あらば気持ちを伝えようと思ってたんですが……昨日の飲みの途中は先輩思い詰めたみたいな顔しててそんな話してる場合じゃないなって思って、あの、送り届けるってなったときも不埒な真似は断じてしないと思ってたんです!断じて!!意思が弱くて情けない結果になってしまいましたが……」

愛沙(なんだ)

謝って来た理由がわかって、口の端に笑みが零れてくる。
けれど、はた、と気づく。

愛沙(あれ…?)

慣れない誘惑に戸惑い、熱に浮かされながらも、目的は達成できた―――と、思っていた。
想いを伝える、という最大の目的を。
翔琉は『男から先に』と言ってなかったか。それじゃあまるで……
思い至った結論に血の気が引いてくる。

愛沙「あ、あの……!も、もしかして私も、その、想いを伝えて、ない……?」

翔琉「えっ?あ…………………はい」

愛沙(最悪だ)

気持ちも伝えずに酔ったふりして後輩を連れ込み毒牙にかけた、ただの、悪い先輩じゃないか。

愛沙「ご、ごめん。昨日こそはって気を張ってて……!酔った勢いでとも思ったけど全然酔えないし、途中から酔っぱらって告白もどうかなって思ってるうちに頭の中ぐちゃぐちゃになっちゃって。で、でももうこうなったら押し倒すしかないって思って!?」

翔琉「落ち着いてください」

ポンポン、と柔らかく肩を叩かれる。

翔琉「順番が反対で申し訳ありませんが……」

翔琉は一つ、大きく息を吸う。
そして――

翔琉「好きです。付き合ってください」

愛沙「あ、はい……こちらこそ、よろしくお願いします」

深々。
奇妙に慇懃な空気にどちらともなくぷっと吹き出してしまう。

愛沙(大の大人が、何やってるんだろう)

そう思うものの、全身に広がる温かい感覚と一緒に口元から笑みが零れる。
良かった。
安心と照れでどうしようもない心地になっていると、翔琉が思い出したかのように口を開いた。

翔琉「あ、あの、さっきコンビニで朝食買って来たんで食べましょ」

愛沙「あ、ありがとう」

そして穏やかな空気に流されるまま布団から半分出て、気づく。
――服を、着ていないままだったことに。

愛沙「あ……」

咄嗟に布団で隠す。
気まずいながら翔琉をちらっと見る。
いつも通りの爽やかな翔琉の顔がそこに――あったはずだけれど、
動きを止めた翔琉は真剣な表情で喉を鳴らした。

翔琉「あの、愛沙さん……やっぱりご飯の前に昨夜の続き、しますか」

愛沙「え!?ええ??」

翔琉「愛沙さんがそんな格好で思わせぶりなことするからですよ……っ!」

ベッドに倒され、唇を塞がれる。

愛沙「んんっ〜」

くちゅ、くちゅ、と唇をつまむと顔があっと言う間に上気してくる。

翔琉「愛沙さん……いやらしい」

愛沙「誰がっ……」

熱くなる頬の上、見下ろす後輩の顔はいつもとさほど変わらない。
その涼しい瞳がふっと細められられると、途端に色香を帯びる。

翔琉「あと、明るいところで見るともっと綺麗ですね。愛沙さんのカラダって」

愛沙「!!!」

愛沙(もしかして翔琉って……)

世話焼きで誠実な後輩……と思っていたこの人は、案外とても堪え性がない人なのかもしれない。
意外性に戸惑いながらも、

愛沙(まあ、いっか……)

布団ははぎ取られ、翔琉の手は愛沙を柔らかく撫でていくのであった――


=END=