一言言わせていただきますけどね。クリスマスなんて、家族と肉食ってぶどうジュース飲んでケーキを食べりゃあ良いのよ。何がパーティーよ。何がダンスよ。おめかしして着飾って浮かれちゃってさ。…何よ、わかってるわよ。それでもワクワクしちゃうわよ。だって私だってちゃっかりドレスアップしたんだもの。
可愛いって、思ってもらいたいじゃない。
…は?誰に、って…。

…イエス・キリストってことにしといて。


クリスマスパーティー当日。
「…我ながら悪くないじゃない」
鏡に映る自分の姿に軽く頷いてやる。ドレスは新調したゴールドの膝丈カクテルドレス。いつもの黒のマーメイドだって悪くなかったけど、たまにはドレスも変えなきゃね…なんてメリエルと話が盛り上がってしまい、つい買ってしまった。私もメリエルも、このクリスマスを相当楽しみにしているらしい。
鏡を覗き込みながらグロスを丁寧に塗り直す。
「よし」
鏡から離れて、今一度自分の装いを確認する。大丈夫、いつもよりはイイ感じ。なんて考えて、ふと我にかえった。
一体、私は何のためにこんなに準備をしているのだろうか。

「メリエル!」
談話室に下りると、そわそわした様子のメリエルを見つけた。駆け寄って後ろから肩を叩くと、メリエルはビックリした様子で振り返る。
「きゃっ!」
「わっ!」
「なんだー、リディアか!ビックリさせないでよー!」
大きな目を真ん丸にして、メリエルが胸の辺りを抑える。大袈裟なやつめ。どうせシリウスを待つことで頭の中がいっぱいいっぱいだったのだろう。
「メリークリスマス、メリエル」
「メリークリスマス!リディア」
「可愛いじゃん、緑も」
私がそう言うと、メリエルは少しはにかんだ後、得意気に裾を翻す。シックな深緑色のベルベットのドレスは、刺繍がたっぷり施されていてメリエルに良く似合っていた。少し古くさい型ではあるが、アンティークな雰囲気がまたメリエルらしい。
「ふふっ、ありがとうリディア!リディアもそのドレスにして良かったね!」
「まぁね、気に入ってる」
「だって似合ってるもん。……あ」
視線を逸らしたメリエルの顔が、急に華やいだ。なんて分かりやすい友人だろう。
「シリウス、こっちこっち!」
メリエルが手を振ってシリウスを呼ぶ。いつものドレスを身に纏ったシリウスが、雑な歩き方でこちらまで歩いてくる。それでもどこか気品があるように見えるのは、育ちのせいなのか彼の人徳なのか。
シリウスは片手を上げてやって来ると、さっそくメリエルをからかいはじめた。
「よぉ。…お、ようやくピンクは卒業か?」
「ちょっとー!他に言うことあるでしょー?!」
メリエルの反論に、シリウスは可笑しそうに肩を揺らした後、ふっと優しい顔をする。
「可愛いよ」
思わず私までドキッとしてしまう。でた、色男!たったの一言なのにあんな顔で言うもんだから、キャーキャー騒ぐ女の子が絶えないのだろう。
傍目で聞いてても恥ずかしいのに、言われた本人はもっと照れているのではなかろうか。そう思ってメリエルを見てみると、案の定、顔を目一杯火照らせていた。
「あ、あ、あ、ありがとう…」
「なんだよ、照れてんの?」
何だか甘いムードですこと。私はチラリと時計で時間を確認した後、空気も読まず2人の間に割って入ってやった。別に悪いとか思ってやらない。私を忘れるあんた達が悪いのだ。
「あー…の、こほん。…お話の途中悪いけど、私そろそろ行くわ」
メリエルとシリウスの視線が、一気に私に向けられる。
そこでようやく私の存在に気付いたかのように、シリウスは私をジロジロ見た後にふーんと呟いた。
「悪くねぇじゃん」
おっ、珍しい。私は別にシリウス信者ではないけれど、シリウスに褒められて悪い気はしなかった。思わず表情が緩んでしまう。ま、顔が赤くなりまではしないけどね。
「でしょ?今日はいつもよりマシなの」
「上等さ。…あーあ、あいつ惜しいことしたなぁ」
「誰よ」
「リーマス・ルーピン」


「は?」


その名前が出た途端、私の身体にピリッと電気が走った。リーマス、ですって…?ニヤニヤ笑うシリウスを、メリエルが一発叩いていつもの笑顔を私に向けて言う。
「何でもないの!それよりリディア、待ち合わせがあるでしょう?早く行かなきゃ!」
行かなきゃってか、さっさと行けとばかりの勢い。どういうことか問い詰めたいけど、どうもできる雰囲気ではない。
「う、うん…じゃあ行くわ。また後でね、メリエル、シリウス」
ヒラヒラと手を振るメリエルとシリウスに追い出されるかのように、私は寮から出ていった。