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愛の種類

最近、私、リディア・ヴィンスには気になる人ができました。
とっても優しくて、品があって、一緒にいるとまるで溶けてしまいたくなるぐらい。
聞いての通り、今はその人にゾッコンです!(ハート)



「ドリー!」
リディアの声に、意中の人ドリー・アダムスはゆっくりと振り返る。
「あら、リディア。今日も元気ね」
大きく手を振っていたリディアを見ると、ドリーはクスクスと軽やかに笑った。
ああ、なんて可愛いのかしら!
リディアは緩む頬も気にせず幸せそうにため息をつく。そんな様子を見て、グリフィンドールの仲間たちは呆れた顔をしたけど気にしない。否、気にもならない。
だってドリーが自分を見て(ここ重要)微笑んでいるから!
「あ、先に行ってて。私、ドリーとお話ししてから行くわ」
リディアは仲間にそう伝えると、さっさとドリーの方に歩いていってしまう。残されたメンバーはお互いの顔を見合わせた後肩を竦め、次の授業の教室へと歩き出した。いちいち構っていてもキリがないと判断したらしい。リディアがいうのもなんだが、実に賢明な判断だといえる。流石は我が友、流石グリフィンドール。
「ご機嫌いかが?ドリー!」
なんて偉そうなことを思いながら、リディアはドリーの目の前まで歩いていく。レイブンクローの彼女は少し考えた素振りを見せた後、穏やかな口調で答える。
「まぁまぁ…、ぼちぼちといった感じかしら」
「そう!それは上々ね!」
「ふふっ、そうね」
ドリーはおかしそうに笑う。クスクスと、ドリーの口から漏れる笑みが耳に響いて擽ったい。目の前の友人をリディアは改めてまじまじと見つめた。穏やかそうな顔をしているが、その瞳は知性に溢れていて一目で彼女が聡明な女性だと教えてくれる。高くはないが、通った鼻筋と薄い唇がとても美しい。柔らかくって、涼しげで、…まるで砂漠の中のオアシスのようだとリディアは今一度感嘆の息を吐く。ぜひ我が仲間達にも見習ってもらいたい(自分もその中の一人だけど)。
ドリーを目の前にするといつも思う。“図書室の妖精”と最初に呼んだ人は天才だと。
「人の顔をジロジロと見つめて、何か面白いことでも見つかった?」
「うん。とっても綺麗な顔だって気づいた!」
ドリーが冗談を交じえているのはわかっていたが、リディアは敢えて無視をした。
ドリーは表情を変えずリディアの顔を見上げる。
「あら、また同じことに気付いたの?前二回も、同じことを言っていたわ」
これこれ、この返事!
どんな返事にもサラリと冗談を返してくれるドリーが、リディアは好きで好きで仕方がないのだった。

「えっ。リディア、お昼食べないの?」
授業後、「お昼はいい」と言ったリディアに、隣に座っていたメリエルが意味がわかんないって顔で聞き返してくる。
「ううん、ドリーと食べるの」
「またドリィー?」
リディアの返事に、メリエルは素っ頓狂な声を上げた。その声を聞いたジェームズが横から茶々を入れてくる。
「ドリー、ドリー、ドリー、ドリー…毎日良く飽きないね」
「あら、ジェームズも言ってるじゃない。リリー、リリー、リリー、リリー…ってね」
リディアはいち早く道具を片付けると唇の端を吊り上げて言ってやった。ジェームズが感心したような顔になる。
「なるほど。なら仕方がない」
「ご理解どうも。お先!」
リディアは軽く手を上げると足早に教室を出ていった。

「ドリー、ごめんね。お昼、寮のテーブルで食べたかったんじゃない?」
中庭を正面にして小さな階段に二人で座り、パンを千切りながらリディアは申し訳なさそうな声で謝った。ここ最近リディアが付きまとっていることについてどう思っているか、この友人に訊ねたことはない。もしかして迷惑になっているんじゃないだろうか、なんて、リディアは今更心配になってきたのだ。
「ううん、いいの。テーブルは騒がしいから」
ドリーの返事は、いつもと同じ、サラリとしたものだった。多分迷惑とも好ましいとも思っていないのだろう。
ホッとしたような顔をして、リディアはパンを口に放り込む。バターのふんわりした味が口の中にいっぱいに広がって幸せな気分になった。二人して、黙々と食事を続ける。
「美味しいね」
「そうね、美味しい」
時々、そんな事を言いながら。
派手な事をするのも馬鹿をするのも大好きだけど、こんな風にのんびりと時間を楽しむこともリディアは好きだった。空を見て、風を浴びて、美味しいパンを美味しいと言い合う。単純だけれど、なんだかそれが良い。
「ドリー」
「なに?」
「美味しいね」
「うん、美味しい」



「ムーニー」
同じ時刻、大広間、グリフィンドールのテーブルにて。
シリウスがパンを千切りながら前に座るリーマスに話し掛ける。
「お前の彼女、女に走ってるって噂がたってるぜ。どうにかした方がいいんじゃねぇ?」
「…何度も言ってるけど、彼女じゃない」
「えーっ、リディアってレズなの?!私知らなかった!なのになんでシリウスが知ってるの?!ずるいわ!」
「…いや。あのな、メリエル」
リーマスはパンに手を伸ばしながら白々しく言う。
「パッドフット、人の心配する前に自分の“彼女”をどうにかしろよ」







ーーーーーーー
っていう、ひたすらクリスマスローズを愛でたい話し。

髪の毛が跳ねる

朝起きたら、髪の毛があり得ないほど跳ねていてびっくりしました。


例えば君に花を添えるなら。
ピンク・フロイドを聴きながら書いていたのですが、イマイチ、カラーが違ったので途中で停止。ピンク・フロイドには勝手に色彩豊かなイメージを持っていたのですが、私の中でサティのような印象に変わりました。
音を出すときに起きる、弦を弾く音とか、指のタッチとか、そういう音に聞き入ってしまって、とても他の事が考えれませんでした。
サティと一緒。気が狂いそうになる。
もちろん称賛の言葉ですけれど。



例えば君に花を添えるなら。書き終わった後、ホグワーツに通う架空のあの子達5人に似合う花はなんだろうかと考えました。
もちろん背後さん込みの、私の勝手な思い込み付きです。

グリフィンドール生の相方は、薔薇。何故かって、彼女を思い浮かべて一番に思いついた花が薔薇だったから。あんなにも派手なのに茎には棘が付いていたり、育てるのが難しかったり。きっと彼女には薔薇が良く似合うでしょう。

レイブンクローの友人は、クリスマスローズ。雪柳や梅の花、春に咲く可憐な花より、冬の寒さの中、シャンと咲く花が良く似合う気がします。でも椿のようなお堅そうな花より、ふわっとしたお花が良いからクリスマスローズ。完全に私の趣味。

スリザリンの彼女は水仙が良い。なぜって、ナルキシスだから。決して彼女はナルシストじゃないけど。

最後、スリザリンの異端児は、チューリップがいいなぁ。春の代名詞のような花。子供っぽいって訳じゃなくて、彼女はチューリップぐらい周りに気を使ってくれて、気分を和らげてくれるから。


ちょっとスリザリンの二人はキャラが解らなさすぎてほぼ背後の人のイメージになってしまいました。

ちなみに私が自分自身に送るのは、茎から触覚のような葉が無数に生えた、ショッキングピンクに黄色い斑点がついている大輪を咲かす花です。

例えば君に花を添えるなら2

「まだ寝る気かい?」

隣からそんな声が聞こえてきても、もう既に寝ようと決めたリディアは驚く事もなく、ぼんやりとした意識の中声が聞こえた方に顔を向ける。

「あら、リーマス……、どうしたの?」

ウトウト。瞼が今すぐにも閉じそうだ。隣にいるリーマスが、そんなリディアを見て呆れたように笑う。

「君、寮にローブを置いていったろ?ローブ無しにあの雨の中じゃ帰れないと思って迎えに来たんだけど…迎え損になってしまったね」

「ふーん」

ありがとう。でも、ごめんなさい。でも言うことはあるのに。それすらも答えることができないほど、今は目を閉じまいと必死だった。しかし、もう限界だ。
リディアは瞼に逆らうことを止め目を閉じると、そのまま隣に座るリーマスに寄り掛かる。

「リディア?」

骨張った肩がこめかみに当たって痛い。リディアは心地よい体勢を探そうとゴソゴソと動くが、リーマスの肩では安眠できそうな場所が見当たらなかった。不満そうに唸る。決して貧相ではないが、彼はもっと肉をつけるべきだと、自分勝手な不満が沸いて出た。
リディアは肩を諦めると、そのままリーマスの足を目掛けて身体を倒した。今度は心地よさそうだ。少しだけ身体を動かすと、投げ出された太股の上に丁度よく身体が収まる。地面が近くなると、雨に濡れた土の臭いが鼻を擽った。良い臭いとはいえないけれど、自然界の、この水と土をダイレクトに感じさせてくれるこの臭いが、リディアは嫌いではなかった。
よし、これでいい。

「…まだ寝る気かい?その間僕はどうしたらいいんだ」

迷惑がっているとばかり思っていたリーマスは、笑っているようだった。優しい声が降ってくる。多分迷惑そうに言われても退いたりしないけど。リーマスもその事はわかっているのだろう。
リディアは夢と現の間をさ迷いながら、さっきまで自分が読んでいた植物図鑑を開いたままの形で渡す。

「これを読んでろって?…ハイハイ。わかったよ……うわ、何この花」

あの花が載っているページを見たのだろう。リーマスの声を聞いてリディアは小さく笑みを漏らした。
リディアが囁くような声で言う。

「私みたいでしょう」

あの花を見たときからぼんやりと考えていたことだった。目が惹かれるということは、何かしら魅力を感じているということなんじゃないかとリディアは思う。憧れか、嫌悪か、同調か…そこまでは分からないけれど。多分、とリディアは思った。多分自分は、あの花の中に自分を見出だしたのだ。だからあんなにも目を惹かれたのではないのだろうか。
自己主張はしたがるくせに上手くできなくて、可愛いげのなさそうな部分がよく似ていると思う。

「そうかな?」

リディアが別に何を言うでも無かったのだが、リーマスはただ一言訊ね返した。それはいつものことで、驚くことはない。こちらが何も言わなくても、リーマスは人の考えが良くわかるようだった。リディアは返事をせず、リーマスの意見を聞こうと待つ。改まった様子で、リーマスが口を開いた。

「君は…、こんなに突っぱねていないし、奇抜でもない。何よりこんなに気持ちの悪い容姿をしていない」

思わず吹き出してしまう。リーマスときたら、真面目そうな顔で茶化すものだから余計に可笑しくて仕方ない。確かにあの花の見た目はちょっと気持ち悪いけど、それを言葉にすることは抵抗があったのに。あの花に気を使っていた自分が馬鹿みたいだ。
リディアの肩が揺れ続けるので、リーマスも笑いだしたようだった。声に笑みが混じる。

「多分、君の言うように似ている部分もあるんだろうけどね。僕から言わせてもらうと、全く似ていない。これっぽっちも似ていない」

リディアは身体を動かして仰向けになると、リーマスの顔を見上げる。もう眠気はなかった。リディアもリーマスも、お互いに微笑んだまま見つめ合っている。
そのままリディアが視線を上げると、葉の隙間から青色がチラチラと見え隠れしていた。いつの間にか雲は無くなり、青い空が顔をだしたようだ。
リディアは朝の不満も忘れて、胸一杯に満足感が広がるのを感じていた。

「リディア」

少しの沈黙の後、名前を呼ばれ視線を戻すとリーマスが真剣な顔でこちらを見ていた。リーマスの指が髪に触れる。一体何事だろうか。

「どうせまた、自分はもっとああだこうだ…とか欲張りな事を考えていたんだろうけど。君がどうしても似たいと言うならば…、僕は君がこの花のように気持ち悪くなるのを手伝ってあげないこともない」

リーマスは何が言いたいのだろう。どうせ今も大したことない存在なんだから、落ちるところまで落ちても良い(お花さん、ごめんなさい)んじゃない?とでも言いたいのだろうか。
不安そうな顔をするリディアに、リーマスは真面目な顔で見つめる。グッと身体に力が入るのを感じた。

「君がこれ以上綺麗になって、他の男に掴まると困るからね」

は。
リディアは思わず、今度は大きな声を上げて笑った。何を言い出すかと思ったら。身構えた自分が可笑しくて仕方がない。リディアは笑いながら身体を起こすと大きく深呼吸をした。返事をしようにも、笑いすぎて喋れそうにもない。
もう一度息を大きく吐くと、リディアはリーマスの目を覗き込みながら言った。

「知らなかったわ。あなたってお世辞も上手なのね、リーマス」

お陰さまで、もう“馬鹿”げたことに頭を悩まさずに済みそうだ。
リディアはリーマスの持っている本に視線を落とすと、改めて驚いたように言う。


「あら、この花、本当に気持ち悪いわね」


ーーーーーーーー
お腹空いた

例えば君に花を添えるなら1

もともと、愛想が良いわけではない。かといって無愛想かと言われればそうでもない。
可愛いげがない。
そう、そんな言葉がピッタリなのかもしれない。
可愛いと言われたいわけじゃないけれど、最低のラインを守りたいと思うのは、乙女として必須だと思わない?
だからといって、無意味にニコニコしたり甘えたりってのは趣味じゃないのだけれど。



その日はあまり天気が良くなく、重たい雲が空一面に敷き詰められていた。こんな天気なもんだから、いつもなら賑わっているはずの中庭に人の姿はない。静かな、めずらしく水っ気の多い空気の中、リディアは一人本を開きページを捲っていた。

「ついてないなぁ」

ついてない。今日は本当についていなかった。今日は何故か朝から気分が良くなく(まぁ、イライラしてたってことなんだけど。)、朝イチに行われた薬草学の授業では周りを巻き込む大事件(ちょっと失敗しただけなのに、大袈裟にしたのよ。周りが。)を起こしてしまい、罰として課題を出されてしまったのだ。
今日は午後からの予定が無いことが幸いし、こうして明るい内に宿題を終わらすことができそうなのだが。当然ながらそんなことで気分が上がるはずもなく。
リディアはつまらなさそうな顔で植物図鑑のページを一枚一枚捲っていく。
今頃他の仲間たちは楽しく皆で過ごしているのかと思うと、ため息が止まらなかった。


「…うわぁ。すっごい色」

ふと、ページを捲る手が止まる。
ページに載っている植物は、今まで見たことがないような容姿をしており、なんだかとてもグロテスクだ。茎から無数に生える触覚のような葉の一番上には、ショッキングピンクに黄色い斑点が付いた大輪が咲いている。深い緑と毒々しい花の色のコントラストは、お世辞にも上品とは言えなかった。
なのに、どうしてか目が惹かれてしまう。デザインにしろ何にせよ、奇抜なのは嫌いじゃないけど毒々しいのは好きじゃない。なのに、何故。

リディアが思わずそのページをジッと見つめていると、ポツリ、ポツリと音が聞こえてきた。音は上からも地面からも聞こえてくる。ハッとして顔を上げたときにはもう遅く、粒が見えそうなくらい大きな雨が本格的に降り始めていた。本日何十回目のため息が漏れる。
ああ、今日は本当についてない。

幸い、葉が生い茂っていたブナの木の下にいれば、ずぶ濡れにはなることは避けられそうだった。不幸中の幸いとはまさにこのことである。よかった。とりあえず本は濡れなさそうだと、リディアは図書室から借りてきた植物図鑑に視線を落とすと、ホッと息を吐いた。
これ以上、面倒になることは避けたかった。

リディアが目を開けた時には、もう雨は上がったようだった。雲の隙間から細い光が地面に模様を作っている。
いけない、どうやら寝てしまったらしい。リディアは慌てて上半身を起こすと、寝ぼけ眼を駆使して本が汚れていないか確認する。カバー、背表紙、中身…とりあえずどこにも汚れた跡がないことが確認できると、リディアの身体に入っていた力は一気に抜けてしまった。
なーんだ、焦って損した。未だ寝起きでボーッとする頭の中で、もう一度寝直してしまおうか…なんて呑気に考えていたものだから、リディアは気付かなかったのだ。
まさか隣に人がいるなんて。



ーーーーーーー
続く

ほんの、少しだけ、ね

あとほんの少し勇気があったら。

そう悔やんだことが今まで何回あって、そしてこれから何回やって来るのだろうか。あとちょっと、指先程度で良いから今より勇気があったなら、何かが変わったかもしれない。

あとちょっと、ほんの少しだけ。



…メリエル・コートニーの場合。
「むっ」
「む?」
「むりむりむりむりっ、むりーーー!!」

建物内に甲高い声が響く。
声の主メリエル・コートニーは顔を隠すように両手で大きくバツを作ると、前にいるシリウス・ブラックにもう一度叫ぶ。

「むり!!」
「うっせぇな!聞こえてるよ!」

シリウスはガシガシと乱暴に頭を掻きながら吐き捨てるように言った。メリエルは腕の間からチラリと視線を送り、様子を伺う。
シリウスは俯いていて表情が見えない。少し長い前髪がその瞳を覆ってしまっていた。それでも彼の全身から溢れるオーラは、決して明るくはない。むしろ。
少し、寂しそう。
そんなシリウスの様子を見て、メリエルは胸がズキンと痛むのを感じた。いや、でも、しかし…。
メリエルはクロスしていた腕を下ろすと、先程の会話を頭の中で思い返す。

『おい』
『何、この腕。お手?私は芸なんてしないよ?』
階段を上っている途中、ふいに人気が途絶え二人きりになった。シリウスがこっちを振り返って腕を差し出してきた。
シリウスが小馬鹿にしたように笑う。
『ちげぇよ』
『じゃあ何?』
『掴まれよ』
『え』
思わず、シリウスの顔を見上げる。
『腕、掴まれって』

「むりぃーーー!!!!!!!!」
「うっせぇ!」
「あいたっ!」

メリエルは痛む頭を抑え、呆れたように自分を見下ろすシリウスに思いっきりイーッと歯を向けた。
あとちょっと、勇気があったなら。

自分から触れることが、できたなら。





…リディア・ヴィンスの場合。
「うわっ」

リディア・ヴィンスの口から、思わず声が漏れる。
視線の先にはやたらと距離の近い男女が一組。1つの本を二人で覗き込みながら、時々お互いに顔を見合わせながら微笑んでいる。
いや近い近い近い、近いって!

「リディア?」

じっくり見すぎていたらしい。さっきまで数センチ先を歩いていたリーマス・ルーピンが随分と遠い。
リーマスが不思議そうな顔で待っている。

「ごめん、今行く」

リディアは、人目を気にしない勇者たちから視線を外し、慌ててリーマスに駆け寄った。リディアが着くと同時に、リーマスはまた歩き出した。
少し首を捻り、こちらを見ながらリーマスが言う。

「何を見てたの?」
「別に」

早口に答える。
しまった、これじゃあ如何にも何かを見ていたようじゃない!と、リディアはドギマギしながらリーマスの横顔を盗み見たが、リーマスは特に怪しんでいる様子はなかった。
リディアが気付かれないようにホッと息を吐いた瞬間。

「リディアも、ああいう事したいと思うの?」

リーマスの笑いを含んだ声に、思わず息を呑み込んだ。

「しっ…知ってたの?!知ってて知らないふりなんてっ…趣味が悪いわよ!」

大きな声が中庭に響く。
リーマスが口許を抑えて必死に笑うのを堪えているのが、余計に勘に障る。

「ごめん、からかうつもりはなかったんだ」

リーマスが息を調えながら、目尻に溜まった涙を指で拭う。涙まで出して、どの口が「からかうつもりはー」なんて言うのだろう。
リディアは不機嫌そうな顔をそのままリーマスに向けてやった。

「じゃあどういうつもりだったのかしら」
「だから、リディアもああいうことがしたいのかなって」

まだ言うかとリディアの顔が険しくなると、リーマスは慌てて言葉を重ねる。

「純粋な疑問だ」

そう言われると、リディアはすぐさま返事をしてやった。

「別に、興味ナシ」
「全然?」
「全く」
「一ミリも?」

あまりにもしつこく聞いてくるリーマスに、リディアは段々怒りよりも疑問の方が強くなっていく。

「しつこいな。だって別に楽しくなさそうじゃない」「試してみる?」
「は?」

「だから、本当に楽しくないかどうか、試してみる?って聞いたんだけど」

リディアが驚いて顔を上げると、予想外に真面目な目とぶつかった。
何を言っているんだと言わんばかりに、リディアの顔は険しい。

「誰と誰が?」
「猫とフクロウにでもさせる気かい?僕と君でだろ」

呆れたようにリーマスが呟く。
本気で言っているのだろうか。リディアがどれだけリーマスの瞳の中を探っても、そこには至って冷静で、真面目な目が見えるだけだった。思わず視線が揺らぐ。
リディアは何か答えようとするも、唐突な出来事に弱い頭からは何の言葉も出てこない。
リーマスはひたすらにリディアの返事を待つつもりのようだ。
どれくらいそうしていたのか、ようやくリディアが口を開いた。


“むりむりむりっ、むりーーー!!!”

遠くから聞こえてきた聞き覚えのある声に、リディアの口は再び閉じてしまった。

「メリエルの声だ。またシリウスが何かやったかな?」

リーマスは苦笑いをしてそう言った後、呆然としたままのリディアに気づくと頭を軽く叩く。

「授業に遅れてしまうね。さぁ行こう」

そう言ってリーマスは優しく微笑むと、さっさと歩き出す。

「…うん」

リディアは変な緊張から解き放たれた安堵と、少しの残念感を感じながらリーマスの後に続いた。
あと少し勇気があったなら、何か変わっていたのだろうか。

あの時、ただ一言言えたなら。






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あれ、ガールズトークの予定だったのに。
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