スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

マーガレット【S×M】

自分でいうのもなんだけど、私って…まぁ、その、モテないわけじゃない。
「…え?」
「す、すす好きです!」
思いを告白されたことより、手渡されたソレを見て思わずビックリしてしまった。目の前の男の子が私に差し出したのは、ピンク色のマーガレット。
…マーガレット?
「ごめんね、知ってるかもしれないけど…私、」
「い、いや、良いんだ。シリウス・ブラックと付き合ってるんだろ?知ってる。でも伝えたかったんだ。…そ、それだけ」
そう言って男の子は私にマーガレットを押し付けると、寂しい背中を見せながらどこかに行ってしまった。そんな言い逃げ去れても…。思わず手もとに視線を落とす。
行き場の無い、マーガレットと私。
「困ったなぁ…」
私はそう呟きを残し、その場を後にした。

「あら、可愛い花」
談話室のテーブルに置いておいた例のあの花に、リディアがいち早く反応する。
「マーガレットね。ふふ、私に一番無縁な花だわ」
「わかる。それ、すっごく良くわかる。私も自分には似合わないと思ったもの」
「何よ、怖い顔して…。もしかして、これメリエルの?」
もしかしなくともそうだと言ってやると、リディアはニヤニヤしながら「ふーん」と呟いた。
「メリエルったら。お盛んなこって」
リディア、それちょっと違うと思う。
そんなツッコミを入れる気にもならず、私は小さくため息を漏らすとテーブルの上のマーガレットを持ち上げる。水を貰っていないマーガレットは少し萎びていた。それが一層私の気分を憂鬱にさせ、またため息がもれる。
「さっきもらったの。察しのとおり愛の告白付き」
「あーら、自慢?」
「やめてよ…。それによく分からないの」
私の言葉に、リディアも分からないって顔をして私を見つめた。
「だから、わからないのよ」
お願いだからそんな顔しないでほしい。責められてる気分になるし、分からないって顔をされると無性に寂しくなる。そして決まって“イヤな”波がやって来て、私の胸の中をザワザワと掻き乱のだ。
私はサッとリディアに背を向けた。
「私、これにお水あげてくるね」
「ちょ、メリエル?」
リディアの呼び止める声をスルーして、萎びたマーガレット片手に私は談話室から出ていった。
“イヤな”波がきた時の対処法はひとつ。その場からとりあえず逃げ出す、これのみ。この思いが爆発して周りに迷惑をかける前に、一刻も早く一人にならなければならないのだ。
早く早く。
一人にならなきゃ。

「ほーら、懐かしい土だよー」
中庭の外れにて。誰もいないその場所で、拾った石で土を掘り起こし耕した土山の頂にマーガレットを挿してやる。水分を失った茎は土に刺さりづらかったが、テーブルの上よりかは幾分マシだろう(根っこがないのに土に刺しても意味がないっていうのは後で気づいた)。こうべを垂れるマーガレットを見ていたら、なんだか泣きそうになった。
「まるで今の私ね…」
寂しくて寂しくて、でも一人にならないと立つこともできなくて。そのジレンマが、さらに私を寂しくする。
そんなことをぼんやり考えていると、急に視界が曇った。驚いて顔を上げる。
そこにいた顔を見て、思わずホッとした。
「…なーんだ、シリウスか」
ホッとしたついでに、わざと残念そうなフリをした。そんな私を見て、彼、シリウス・ブラックは呆れた顔をして口を開く。
「何やってんの?」
優しい声だった。
「それ、どーしたんだよ」
シリウスが私の肩越しに、マーガレットを見ながら軽く首を傾げる。
「…もしかして、貰いもん?」
声がちょっと硬くなった。ムッとした、不機嫌な声。ジイッと顔を見つめていると、表情も不機嫌そうに歪む。
「おい、ボーッとしてねぇで何か言えよ」
「シリウス」
「なんだよ」

「私、悲しいの」
「はぁ?」
シリウスの顔が、今度は不可解そうに歪む。何言ってんだ…って顔いっぱいにかいてあるのがわかった。
私はシリウスから視線を外し、マーガレットを見る。
この花を渡してきた彼は、どうして私の事を好きだと言うのに、この花を選んだのだろう。こんなの私には似合わないのに。私という人間が、見た目と中身にギャップがあることはウスウス気づいている。それにしたって、こんな、可愛くて花びらも茎も強く握れば簡単に壊れてしまうか弱い花を選ぶなんて見る目がなさすぎると思わない?こんなの私じゃない。
これは、私じゃない。
だから。
…ああ、やっぱり私って他人には理解されずらいのか…なんて思わずにはいられなかった。ヒガイモウソウだってわかってはいるけど、ね。
「だから悲しくなるの」
シリウスがギョッとして私の顔を覗き込んだ。
「おい、なに泣いてるんだよ」
言われてみれば、涙が頬を濡らしていた。完全な無意識でも、人は涙を流すことができるらしい。
「あのね、シリウス。私、今、悲しいの」
別に関わる人全員に私のことをわかって欲しいわけじゃない。そんなの無理だって、ちゃんとわかってる。
でも好きだというならば。私のそばにいたいと思ってくれるならば。
「だからねシリウス、お願いだからそんな顔しないで」

「わからないって顔しないで」

まるで、存在を無視されたような気分になってしまうから。
それが、とてもさびしい。

さびしい。

「いまいち良くわかんねぇけどさ…」
完全に顔を伏せてしまった私の隣にしゃがみ込んで、シリウスは萎びたマーガレットに手を伸ばす。その様子を、ただぼんやりと眺める。細長いシリウスの指がマーガレットの花びらをそっと包み込んだ。ゆっくりとゆっくりと、シリウスは花びらの感触を味わうように手を握りしめていく。最後にシリウスはギュッと握り拳に力を込め、優しい声で私に話しかけた。
「そんなに嫌なら、こんなもんさっさと捨てちまえ」

そう言ったシリウスの手のひらから、ぐちゃぐちゃになったマーガレットがぼとりと音を立てて落ちた。
前の記事へ 次の記事へ