名前
?(アヤ)
性別
♀
性格
/
真面目で頑固。冗談が通じない。
「いいか、この部隊にいる以上は俺の指示に従え!」
「この格好か? 別段恥ずかしくもなんともないぞ。動きやすくてなかなかいいものだが?」
「俺に刃向かうとはいい度胸をしている。良いだろう、その無謀な度胸ごと、俺の鋼の翼で切り裂いてやろう!」
子供達が全員逃げ出す寸前、敵の攻撃がこちらに向かって来た。
赤い炎がこっちに向かって飛んでくる。
「危ないっ!」
俺は子供をかばう為に背中を向けた。
だが、俺と炎の間に彼が入った。
彼はナイフで炎を切り裂き、火の粉へと変える。
「あ……」
「邪魔だっつってんだろ。トロいんだよ」
彼は背を向けたまま言う。
子供達は全員逃げ終わったが彼はまだ俺の後ろにいた。
「ありがとうございます。助けていただいて」
「助けてねぇよ」
彼は俺を見て冷たく言い放つ。
口は悪いがいい人なのだろう、おそらくは。
「ふふっ、そうですか……」
俺も部屋を出ようと剣を収めようとしたが、彼に水流が迫っていた。
俺は咄嗟に剣を握りしめ、彼より前に出る。
そして水流を切り裂いた。
「これで貸し借りは無しですね」
俺は剣を収める。
「フン……」
彼はなんだか不満そうに見えたが、気にしないことにする。
「では……あっ! あの、名前お聞きしても?」
「ハァ? 必要ねぇだろ」
「必要かどうかは俺が判断しますから」
「何言いやが」
「名前は?」
彼はしばらく黙り込み、背を向ける。
「煉獄だ」
「煉獄さん、ですか。またいつか……お会いしたいです。では、失礼します。ありがとうございました」
俺は彼に一礼をし、部屋を出る。
煉獄さん……今度ちゃんとお礼をしに行かなければ。
あと攻撃した謝罪も。
廃ビルを出てカルミアと合流し、連絡していたクリソコーラとも合流した。
子供達も俺達も無事に帰ることができた。
ーー俺が煉獄さんと再会するのは、また先の話……。
ーーーーーーーーーー
「アイツ父親なのかよ。あのガキの兄かと思ったじゃねぇか。クッソ綺麗な顔しやがって…詐欺じゃねぇか、詐欺。
助けるとか俺らしくねぇしよ……チクショ……」
彼の脚には蔦が絡みつき、動きを奪っている。
「これは……」
「宿木の種。最初の攻撃をされた時に蒔いておきました。徐々に体力を奪う技ですから、効くまで時間がかかるんです」
かかるにしても、かかり過ぎですけどね……。
どんだけ強いんですか、この方は。
「とにかく、ここは通らせてもらいます」
俺が彼の横を通ろうとしたその時、いつの間にか俺の体は浮き、背中から地面に叩きつけられていた。
受身もとれず、呼吸ができなくなっている俺の首にはナイフを当てられ、彼には跨られていた。
「あんくらいで動けなくなるとでも? 舐めんじゃねぇよ」
彼は見下したように俺を見る。
油断した。彼のほうが俺より強かった。
「それに言ったよな? 次は外さねぇって」
ぷつりと、ナイフが皮膚を切り裂く音と共に首を液体が伝う。
もうこれはダメだ。せめてカルミアだけでも……。
「カルミア!!」
部屋の中が見える位置に倒されたため、中で縛られているカルミアが見えた。
猿轡をされていて、声は発せないようだが、俺の声に気付いて、もぞもぞと体を動かしていた。
「あぁん? カルミアって誰だよ」
「俺の家族だ! カルミア!今助ける!」
「助けるって……お前、もしかして被害者側かよ」
彼は大きく溜息をつき、俺から離れた。
「被害者側って、貴方は軍人……?」
「なんで知ってんだよ。てか知ってんなら見りゃわかンだろ」
俺は宿木を解き、体を起こす。
見りゃわかると言われても……。
「服装が軍人らしくないというか……」
「あぁ?!」
「いや、よく見たら確かに軍人さんだな、と……って、カルミア!」
俺はカルミアのほうを見る。
カルミアはまだ無事のようだ。
ホッと胸を撫で下ろす。
「サッサと行けよ。ついでに他の人質も連れて行け。邪魔なンだよ」
彼はそう言って、俺を部屋のほうへ促す。
俺は急いでカルミアに駆け寄り、猿轡外し、縄を切る。
「お父様! 良かったお父様がご無事でっ!」
カルミアは俺に涙目で抱き付いて来た。
「いや、カルミア、無事で良かったのはカルミアのほうでだね……まぁいい。今は子供達と一緒に逃げるのが先だ。
ここは子供には危険すぎる」
「そうそう、サッサと行けよ」
彼は子供達を睨む。
「貴方!そんな言い方は」
「カルミア。今は彼の言う通りに。子供を連れて先に行くんだ。俺は一番最後に行くから」
「でもお父様……」
「いいから。早く行くんだ。わかったね」
「はい……お父様」
カルミアは子供達を部屋の外へと促す。
そして姿が見えなくなった。
顔のすぐ近くで、何かがギラリと怪しく光った。
咄嗟に地面を蹴って後ろに飛ぶ。
「チッ。避けられたか」
暗闇にいたのはオリーブのような緑の髪、鋭い漆黒の瞳、隆々と鍛えられた身体にナイフを持った青年。
殺気立った目で俺を見据えながら、手の中でナイフを弄ぶ。
彼の後ろの部屋から小さい子供の声が聞こえた。おそらく攫われた人質達だろう。なら、カルミアもそこにいる可能性が高い。
「まだいたのかよ。人数ばっか多いンだな」
面倒臭そうに青年は言う。
ナイフを構えているわけではないのに、迂闊に手を出したらこちらがやられてしまいそうだ。
「そこ、避けてもらえますか」
剣を抜きながら問いかける。
胸元を開け放った服装からはからは軍人には見えないが……人攫いにしても『らしくない』気がする。
纏っている雰囲気が、『らしくない』のだ。
「ジロジロ見てんじゃねぇよ」
「人を観察してしまうのは立場上の癖で」
「立場上? 上のヤツか? ずいぶんと若ぇんだな」
「見た目で判断はしないほうがいいと思います、よっ!」
戦いは得意ではない。だから戦いはあまりしたくない。
俺は青年の隣を抜けるために駆け出した。
入口は目の前の一つだけのようで、その前にはナイフを持った青年。
彼さえ抜ければ部屋に入れる!
「おっと、通さねぇよ!」
彼のナイフが的確に俺の首筋を狙う。
身をよじり、彼の攻撃を間一髪で避ける。
だが彼を抜くことはできず、彼の攻撃を避けたために俺は床に倒れた。
「二回も仕留め損なうなんてな」
彼は冷静に俺を睨む。
俺は立ち上がりながら入口を見る。
中からは爆音やら金属音やらが鳴り響く。
倒れた時に左腕を強く打ったようで、ズキズキと痛む。
「サッサと諦めて死ねよ。二回も避けたことはスゲぇが、次は外さねぇか、ら……?」
彼が踏み出すと、そのままガクリと膝をついた。
「ようやく、ですか」
俺は自分の服の埃を払った。
日が落ちる前、俺は地下都市のある廃ビルの前に来ていた。
友人のクリソコーラから情報を得たからだ。
「あぁ?!人攫いで手練れか大人数のグループはいないか、だと?! 俺は今忙し……はぁああ?! カルミアが攫われ……もしかして……。
ーーおい、今から言うことは機密事項だ。今誘拐事件が多発してる。その犯人は別の場所から来た奴らだ。んで、そいつら追ってある場所の軍が来てる。そいつらが今地下都市まで追い詰めたらしいから、もしカルミアが巻き込まれてんならその線が怪し…って切んなよ!」
ある軍って話だから地下都市に入って、普段見かけない者達について聞き込みをしたら、居場所がわかると思った。
地下都市は人の出入りが激しいとは言えない場所だから。
「こうも早く突き止められるとは思わなかったけども……」
廃ビルを見上げながら呟く。
ここにカルミアがいるかもしれない。
バレないように探してみるか。
俺が一歩踏み出したその時、廃ビルの中から物騒な音が聞こえた。
ーー戦っている?!
軍とやらが先に突入したのだろうか?
仲間割れか?
どちらにしろカルミアが巻き添えにあってしまったら……。
間に合わなかったら……。
運良く逃げ出せても犯人と間違えられたら……。
「くそっ!」
俺は嫌な考えを振り払い、走り出した。
真っ直ぐ音のするほうへと向かい、走り続ける。
音がどんどん近付く。
いくつもの階段や部屋を抜け、自分の剣に手をかける。
ーーあそこか!
目的の部屋を見つけ、速度をあげて飛び込んだ。