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幾度も幾度も


兄のように慕っていた。
少し頼りないけど優しくて、かっこよくて、いざという時は逞しかった。
けれどアイツは裏切った。
私達一族を。

あの日、アイツがいた集落は無くなっていた。
全て黒く炭になり、生き物の気配が無かった。
仲間の死体が沢山あった。
誰が誰だかわからないくらいの死体。
だからきっとアイツも死んだんだと、自分に言い聞かせ、幾夜も泣いた。

だけどアイツが生きているのを知ったのは数年後のこと。
アイツがいた本家と肩を並べるくらい立派な一族がいた。
その一族の当主の女の傍らに、アイツは立っていた。
女の命令に従い、頭を下げ、従っている。
私は慕っていたアイツが、別の一族に付き従っている姿を見て苛立った。
そして悲しくなった。
私達を守ると言ったのに、私達じゃなく、別の女を守っていることに。
だから私はアイツの部屋を突き止め、真実を知るために、アイツが一人の時に会いに行った。

「久しぶりだね」
「海桐花……?」

アイツは驚いた顔をした。

「なんでこんなところにいるの? あぁ、あの女に脅されたの? 本家を滅ぼされて、鶺帝を虐めてるの?」
「それは……」
「そっか! あの女を殺すために傍にいるんだね! 一族を復興して、また前のように暮らすためにわざと従っているんだね!」
「海桐花、話を……」
「それなら手伝ってあげるよ! これでも私の強さは宗家の中で指折りなんだよ。だから私達が協力したらすぐだよ!」

私が微笑んで、扉のほうに近付いていったらアイツが立ちはだかった。
どうして怖い顔をしているの?

「鶺帝?」
「だめだ」
「何が?」
「鳳瑞様は殺させない」
「私の前でまで演技なんてしな」
「演技ではない。鳳瑞様は私の大事な人だ。私が自ら進んで従っている。いくら海桐花でも、殺す気なら私は刃を向けよう」

鶺帝は武器に手をかける。
その目は嘘をついた目じゃなくて、本気の、私でも殺せるという覚悟の目、だった。
信じたくなかった。
守ると言ってくれていたのに。

「嘘、でしょ?」
「嘘じゃない」
「私達を守るって言ってたよね?」
「今は鳳瑞様を守る」
「流々も待ってるんだよ? 戻ってくれないの?」
「今は此処が私の居場所だ」
「あの女に洗脳されたんだね。なら尚更あの女を殺さなきゃ……」

私は自分の武器を握りしめた。

「殺させない」

鶺帝が私に向かってきた。
私はそれを認識するだけで精一杯で。
鶺帝の武器が私を貫いた。

「え……痛い……痛いよ……」
「すまない、海桐花」

その時の鶺帝の表情は、とても悲しそうに見えた。

「裏切り者……」
「……」
「許さない……私は許さないから……この裏切りを……」

私は鶺帝に向かって、沢山言葉を吐き捨てていた。
それから私はどうやってあそこから逃げたのかわからない。
だけど、鶺帝に裏切られたことだけは、ハッキリと覚えていた。
だから私は、復讐の面をつけて、誓った。
裏切り者の鶺帝を、この手で、コロスと。

「鶺帝ぃぃぃぃ! 見つけたぁぁぁ!」

私はまた鶺帝に襲い掛かる。

「許さない、許さないんだからぁぁああ!」

何度でも何度でも、鶺帝に何度傷付けられようとも。
鶺帝の命を奪うまで、何度でも。
鶺帝を変えたあの女の命を奪うまで、何度でも。





▼幾度も幾度も
≪歪んだ想いは真っ直ぐに彼に突き刺さるまで、消えることはないのだろうか≫

喧嘩喧嘩喧嘩


ドンッ!

SGRSの廊下を御形と歩いていて、突然肩に軽い衝撃が走った。

「「痛っ」」

声が重なる。
振り向くと、同じように振り向いて私を見てる女がいた。

「ちゃんと前見て歩きなさいよ」
「ちゃんと前見て歩いてよ」

また同じような台詞を吐く。
なんなのよ、コイツ。

「「真似しないで」」
「「そっちが真似してるんでしょ」」

ことごとく同じ言葉を。
いらつくわ。

「貴女なんなのよ。貴女がぶつかってきたんでしょ」
「蒼羅はぶつかってないもん。アンタがぶつかってきたんでしょ」

蒼羅っていうの、この女。

「アンタとは失礼ね。礼儀もなってないような人と話はしていたくないわ。御形、行きましょう」
「そっちのほうが礼儀なってないんじゃないのー。謝りもしないなんて」
「なによ。私はぶつかってないもの」
「蒼羅だってぶつかってないもん」

私と蒼羅とかいう女の間に火花が散る。
私は腰に携えた錐に手をかける。

「繁縷、授業に遅れる」
「蒼羅も遅れるぜ。先生に叱られるよ」

御形が私の服を引っ張った。
向こうの赤い男の子も蒼羅の手を引っ張っている。

「遅刻は嫌だわ。蒼羅とかいったわね。貴女のこと忘れないから。次に会ったら謝らせてあげる」
「蒼羅だってアンタのこと忘れないよ。蒼羅が謝らせてやるんだから!」
「真似しないでちょうだい」
「そっちこそ!」

私と蒼羅はお互いにふんっとそっぽを向き、また廊下を歩きだした。
それからまたすぐに蒼羅と会って、私達は廊下でバトルをした。
勝敗はつかなくて、それから何度も戦った。
それでも勝敗はわからないまま、私達はいつの間にか友人になっていた。
今でも対立も喧嘩もするけど、私にあんなにいけしゃあしゃあと物を言えるのは御形と蒼羅だけね。

**********

「何笑ってるの」

蒼羅が話しかける。

「別に。思い出し笑いよ」
「思い出し笑いとか怪しー」
「相変わらずうるさいわね……って、私のチョコがないんだけど」
「食べないからいらないんだと思って食べちゃった」
「誰がいらないって言ったのよ。ちょっと、返しなさいよ」
「消化されてるのでいいなら吐くけど?」

蒼羅はニヤリと笑う。

「そんなのいらないわよ! 買って返しなさい!」
「食べてないのが悪いのよーだ!」
「勝手に食べる貴女が悪いわよ!」
「知らなーい!」
「相変わらず失礼な子ね!」

私は武器を取り出す。
また喧嘩の始まりね。





▼喧嘩喧嘩喧嘩
≪最悪の出会いで親愛なる友人になることなんてあるものね≫

友人>恋人


「サイテー!」

ぱぁん!

渇いた音と女性の罵声が響く。
女性は涙目になりながら、足早にその場を立ち去った。
ハイヒールの音が遠退いていく。

「また叩かれて……」
「いたのですか、九十九」
「通り掛かっただけ」
「そうですか」

叩かれた頬をさする。
結構強く叩いていきましたね、あの女性は。

「今週何人目?」
「9人……でしたかね」
「ブロトの女ったらし」
「向こうから来るんです。私は話しかけただけですよ」

そう、話しかけただけ。
付き合って欲しいと言うのはいつも女性のほう。
好きだと言うのも女性のほう。
なのに叩かれるのはいつもこっち。
私は何もしていないのに。

「顔、腫れてないですか?」
「大丈夫。手形がついてるだけ」
「それはそれで嫌ですね」
「なら付き合わなきゃいいのに」

ごもっとも。
けれど断る理由もない。

「断らないから勘違いされる。だから叩かれる」

叩かれるのは別に構わない。

「好きでもないのに好きとか愛してるは言えません。キスだって、それ以上だってできません。間違ってますか?」
「間違ってないけど間違ってる。相手はアンタも好きだと思ってるんだから」
「付き合うからって好きとは限らないでしょう」
「……アンタは罪な男だね」
「そうでしょうか?」
「うん」

九十九は軽く溜息をつく。

「九十九、これから暇ですか?」
「うん、まぁ」
「じゃあ一杯飲みに行きませんか?」
「別にいいけど」
「じゃあ行きましょう。いいお店見つけたんですよ」
「ふーん」

九十九、貴方は知っているでしょう。
私は人が苦手。
克服するために人と親しくすることを。
知っているからあまり私を責めない。
そんな優しい貴方が友人で良かった。

「こっちです」
「はいはい」
「今日は奢りますよ」
「助かる。今金欠だから」
「それは良かった」
「いつも奢らないのに、今日はどうした?」
「お礼です」
「ごめん、聞こえなかった」
「気分ですよ、気分」
「ふーん」

こんな私の友人でいてくれる、貴方へのささやかなお礼です。
こんなのでは感謝しきれませんが。
貴方にだけはフラれたくないものですね。




友人>恋人
≪貴方は私の唯一無二の友人です≫

冬の温もり


「……寒い」
「そうね」

手袋をした手に白い息を吹きかけながら梨衣芙は呟く。
梨衣芙の鼻は真っ赤になり、まるで某童謡のトナカイのよう。

「私のマフラー使う?」
「うん、使う」
「即答なの。遠慮ないわね」
「霙は寒くないんでしょ」
「えぇ、寒くないわ」

寧ろこういう寒い日は好きよ、と言うのを私は止めた。
梨衣芙は冬のように凍てつく寒さがとても苦手なことを知っている。
こんな時に梨衣芙にお使いを頼む炉夏姉さんは酷いわね。
自分は寒さに強いのだから、自分で行けばいいのに。
私は自嘲気味の笑みを浮かべ、マフラーを梨衣芙に巻いてあげた。

「霙、手、繋ご」

梨衣芙が私の前に立ち、右手を出す。

「私の手は冷たいって知ってるでしょ?」
「知ってるよ」
「じゃあ止めときなさい。貴女の手がさらに冷えるわ」
「いいの」
「寒いんでしょ?」

こくりと彼女は頷く。

「それでも繋ぎたいの」
「どうして?」
「霙が好きな冬なら、霙の体温を感じられるもん。夏ではひんやりする霙の手も、冬なら暖かいもん」

梨衣芙は真剣な顔で言う。

「だから、繋ご」
「……変な子」

私は差し出された手をそっと握る。
手袋をした梨衣芙の右手と、指先が少し赤くなった私の左手。
梨衣芙は嬉しそうに顔を綻ばせた。
そんなに喜ばれると、なんか照れ臭くなるじゃない。

「霙も寒いの? ほっぺ赤いよ?」

梨衣芙が私の頬を触る。
毛糸を通して梨衣芙の体温を微かに感じた。

「……あったかい」
「ん?」
「いえ、寒くないわ、大丈夫よ」

私はふいと顔を逸らす。
顔を赤くしてしまうなんて、油断したわ。

「へへっ」
「何?」
「霙あったかい。手を繋ぐのなんて久しぶり」
「そう。ほら、早く帰るわよ。炉夏姉さんに叱られちゃうわ」
「はぁい」

私は梨衣芙の手を引き、家路を急ぐ。
ちらちらと降り始めた雪が地面に落ちては白い絨毯を作り出す。
その絨毯に足跡を残しながら、私と梨衣芙はお互いの手の温もりを感じていた。




冬の温もり
≪本当に暖かいのはきっと貴女の心なのね≫

dual personality.


嫌いよ嫌い。
桜桃はゆすらが嫌い。

好きだよ。
ゆすらは桜桃が好き。

ゆすらは明る過ぎる。
桜桃には眩し過ぎるの。

桜桃が暗いだけ。
だからゆすらが居るんだよ。
桜桃の中にゆすらが居るんだよ。

いらない。
ゆすらなんていらない。

ゆすらには桜桃が必要だよ?
桜桃がいなきゃゆすらは居ない。
存在しなくなっちゃうんだもん。
ゆすらは桜桃が願ったから生まれたんだよ。
ゆすらは桜桃。桜桃もゆすら。

違う。
桜桃は桜桃。
ゆすらじゃない。

ゆすらは桜桃。

そんなの……いらない。

いらないって言われても、居るからどうしようもない。
ゆすらがいなくなるには桜桃が願わなきゃ。
桜桃が変わらなきゃ。
ゆすらは桜桃の為にいるんだよ。
桜桃の為に生まれたんだよ。

……余計なお世話。
ゆすらは桜桃には騒がし過ぎるもの。
桜桃は静かなのがいい。

そう思っていても、騒がしいのも好きだからゆすらが生まれた。
桜桃はゆすらみたいになりたいから、でもなれないからゆすらが生まれた。
認めてよ。

嫌だ嫌だ嫌だ。
桜桃は桜桃だもの。

ゆすらも桜桃だよ。

……そんなの知らない。

知らなくても事実なの。
桜桃はゆすらが嫌いでも、ゆすらは桜桃が好きだよ!

……勝手にしたら。
桜桃はもう知らない。

言われなくても勝手にするよ。
桜桃がゆすらを呼んでくれた時にね。





dual personality.
≪桜桃は表。ゆすらは裏。二人はコインのように表裏一体の存在≫
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