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永遠の愛を、今誓う 第六章(総司)

永遠の愛を、今誓う
第六章(総司)


 なんて残酷な言葉。

それは、【彼】への愛の告白なんかよりももっと、僕の心をズタズタにした。

「殺してください……そして、共に死にましょう」

 ベッドの上で。はじめくんは見たこともないような笑顔をして、僕に言った。
 大好きな君を……この手で殺せと。なんて、恐ろしい。

「そうすれば、俺たちの愛は永遠です……

 違う……。そんな永遠を、僕は望んだわけじゃない……
 僕はただ、君と共に――……

「そうでしょう……? 土方さん」
――――……っ!」

 違う……僕は……僕は、土方さんじゃない……

僕は、君を愛してる。ひとりの人間として……沖田総司として。
 

僕には……はじめくんを、殺せない……

……っ、はじめくん……!」

 僕は彼を腕に抱いて、ぼろぼろと大粒の涙を流した。
 止まらなかった。堰を切ったように溢れだして……僕にはもう、止められなかった。彼への想いも、冷たく頬を伝い落ちる、この幾つもの滴たちも。

 僕は…………君が、好きなんだ。

 泣くだけ泣いてしまったら……全ての水分を出しきったように、僕の心も、身体すでに枯れ果てていた。
 窓の外では、小鳥たちが朝の始まりを告げている。

 ……そうして僕は、わかってしまった。僕の決意に……この、歪んだ愛に。すでに、限界がきているということを。

 ――――愛しているよ、はじめくん。
 その気持ちは僕の中で、永遠に揺らぐことはない。この先ずっと守り続ける。僕の、生涯唯一の愛。
 だからこそ、僕は……君の元を、去っていくよ。

―――第六章()―――

永遠の愛を、今誓う 第五章(はじめ

永遠の愛を、今誓う
第五章(はじめ)


「俺には、土方さんしかいないんです……

 ゆっくりとベッドに倒れながら、彼の背中に手を回した。キスをした時、彼からはいつもと違う……何か、鼻につく甘ったるい香水のような匂いがして……
 俺は、それが堪らなく嫌だった。

「土方さんのために……俺は、あなたのためだけに、生きているのに……

 そう呟くと、彼が不思議そうに俺の顔を覗き込む。
 誰か、他の女にも同じようなことをしているのではないか……
度想像を始めると、考えはいつまでも悪い方へと走っていく。

死ぬほど吐き気がした。

「もっと……もっと俺を、愛してください」

 土方さんに限って、他の人間に興味を持つことなど絶対にあり得ない。仕事以外では女と口をきいたりもしない。彼が愛するのは、俺だけ。
 本当はそんなこと、分かりきっていた。

だって……俺の土方さんなのだから。

「めちゃくちゃに……もっと壊れるほどに――……俺を、愛して……!」

 けれど、この不安をどうにか掻き消して欲しくて。不安を忘れられるほど、あなたに愛して欲しくて……



 ――……それを口実に俺は、土方さんにさらなる愛を求めた。

 不滅の愛。永久に朽ちることのない、ふたりの愛を……

……そう。いつまでも隣で、寄り添っていられるように。ふたりが離れることのないように。俺たちが、ずっと一緒にいられるように。
 永遠の愛を、誓うために――……

 

「土方さん。俺を……殺してください」


 ――――愛しています、土方さん。

 だから、共に逝きましょう。ふたりだけの世界へ。

俺たちの愛を今、永遠に――……

 

 

―――第五章()―――

永遠の愛を、今誓う 第四章(総司)

永遠の愛を、今誓う
第四章(総司)

 

はじめくんは、毎日僕への愛を囁いた。土方さん、土方さん、と【彼】の名前を呼びながら。

『好きです』
『大好きです』
『愛しています』

 ……耳元で奏でられるその甘い響きが、僕の心を無造作に締め付ける。その中に、僕に向けられた言葉なんて――……想いなんて、ひとつだってなかった。
 それでも僕は、永遠に君を愛し続ける。はじめくんを愛することだけが、僕の全てなんだから。

「土方さん、愛しています……
……僕も愛してるよ、はじめくん」

 彼が僕を好きだと言って抱き締めれば、僕も愛してると言って、彼の身体をそっと抱く。大好きなはじめくんを、【彼】の愛によって、安心させてあげるために。

「絶対に俺を……離さないでくださいね……

 大丈夫だよ。

絶対に君を、離したりはしないよ。

「俺はずっと、あなただけを愛し続けます……

 大丈夫、同じだよ。

だから安心して……はじめくん。

……土方さん……ずっと傍に、いてくださいね――……

……大丈夫。

【土方さん】は、ずっと君の傍にいるよ。

 君が傍にいて欲しいのは……僕では、ないから……
 苦しかった。涙が出そうになるのを、必死で堪えた。苦しい……苦しい……苦しい……
 だけどこの苦しみは、僕の愛の証だと思った。僕が君を心から愛し、君に痛いほど愛されているという、唯一の証だから。

 ……そうだ。

僕はもっと、苦しめばいい。愛の辛さもわからないほどに、もっともっと、彼に溺れればいいんだ。
 僕が苦しめば苦しむほど、僕たちの愛は証明されるんだから……

 それから僕は吐き気がするほど、彼への想いを馳せた。痛くて痛くて死にそうだったけれど、今はこの苦しみが、何よりも愛しかった。

幸せだった。
 こんなに苦しいほど、彼を愛せていることが。こんなに苦しいほど……こんなに憎いほどに、彼に愛されていることが。

 だから今の僕は幸せに満ちているはずなのに……何故だかとても、哀しかった。

 ――――愛してるよ、はじめくん。

 もっともっと……僕を苦しませて。 君への愛が、嘘ではないとわかるように。

君への想いが、永遠であり続けるために。

 この関係に耐えられない愚かで浅はかな僕を。   

 

……早く、殺してしまってよ。

 

 

―――第四章()―――

永遠の愛を、今誓う 第三章(はじめ)

永遠の愛を、今誓う
第三章(はじめ)

 

大好きな人の手をとって、俺はそっと微笑んだ。

とてもとても幸せな時間。

「土方さん、愛しています……

 心を込めてそう告げたのに、土方さんはなんだか哀しそうな顔で笑う。まるで、俺に好きと言われることが、苦しいとでもいうように。
 ……どうして?俺の気持ちは迷惑ですか?何故そんなに、辛い顔をなさるのですか?
 俺に想われるのが……嫌、なのですか……

 ――――不安が、いっきに胸に押し寄せてくる。

……愛してるよ、はじめ……

 けれど彼のその一言で、俺の心はまた、土方さんへの想いでいっぱいになる。

土方さんが、俺を愛してくれている。その事実だけが、恐ろしい不安の渦から俺を救いだしてくれた。

 俺も……土方さんのことを、愛しています……。この世の何よりも、誰よりも、ずっと……
 あなただけを、永遠に――……
 愛する土方さんの全てを、この腕いっぱいに抱き締める。俺の首筋に静かに回された彼の手は、何故だかとても、冷たかった。

「絶対に俺を……離さないでくださいね……

 俺の髪を撫でながら、彼はゆっくりと耳元に答えをくれた。
 ……嬉しい。彼の綺麗な頬に、額に、唇に、俺はそっとキスをする。

「俺はずっと、あなただけを愛し続けます……


 俺がそう囁くと、自分も同じだと土方さんが笑ってくれた。
 嬉しい……嬉しい……嬉しい……。笑顔が溢れる。心がふわふわと宙を舞う。
 俺は幸せで……本当に幸せすぎて……

 


 このまま共に、死ねたらいいのにと思った。
 時を止めて。俺たちの愛だけを連れて。邪魔なものが何ひとつ存在しないふたりだけの世界で、土方さんと、ずっと一緒に――……
 ああ、なんて素敵なのだろう。

 そうだ……初めから、そうすれば良かったのだ。どうして今まで気づかなかったのだろう。こんなに簡単なことなのに。
 ずっとふたりでいられる方法を、俺はやっと見つけたのだ。

……土方さん……ずっと傍に、いてくださいね――……

――――愛しています、土方さん。

 

この先ずっと、何があろうと、俺はあなたを離さない。

俺の土方さん……。俺だけの、土方さん……

心から、愛しています。あなただけが、俺の生きる全て。

 

 

この愛が永遠に不滅であることを……あなたに今、誓います。


―――第三章()―――

永遠の愛を、今誓う 第二章(総司)

永遠の愛を、今誓う
第二章(総司)


 はじめくんが、僕を僕と思わなくなった日。

 

その日から僕は、【彼】になることを決めた。僕は僕をやめることで、はじめくんへの愛を誓った。はじめくんは僕を【彼】にすることで、不動の愛と、確かな居場所を手に入れた。

代わりに僕たちが失ったものはとても大きかったけれど、そうしなければはじめくんの心が、壊れてしまうと思った。あのきれいな笑顔のはじめくんには、もう会えないと思った。僕が大好きなはじめくんが、どこかへ消えていってしまうと思った。

 

はじめくんの傍にいるにはそれしかないと……僕は、そう思ってしまった。

 

だからはじめくんがいつまでも【彼】の幻想に囚われ続けているのは――……きっと、僕のせいなんだ。

 

 

 

 

その扉をくぐる時、僕は沖田総司の名を捨てる。僕は、彼の望む【僕】になる。

「おかえりなさい」

 仕事が終わって家に着けば、いつでもそこで、大好きな恋人が温かい食事を作って待っていてくれる。ずっと憧れ続けた理想の生活。
 いったいそれに、何の問題があるというのだろう。

「ただいま、はじめくん……
「今日は早かったのですね」
……うん、君のために、仕事を早く終わらせてきたんだ」

 【僕】が笑うと、はじめくんも微笑んだ。

本当に……とても幸せそうに。

「嬉しいです――……土方さん」

 頬を赤く染めて、こんなにも目を細くして……まるで恋でもしているように、はじめくんは笑う。それがとてもいとおしくて、心の底から憎たらしかった。
 だから僕の返す言葉なんて、いつも一つしかない。

「君のことが、大好きだから」

 はじめくんが僕をそっと抱き寄せる。俺も好きです、と胸元で愛を囁く。
 僕は、君の愛する【土方さん】なんかじゃない!
 

――……そう叫ぶ資格はもう、僕には残されてはいなかった。

 その夜、はじめくんは僕の下で鳴いた。何度も何度も【彼】の名を呼び、僕の背中に愛の証を刻み付けながら。


「あぁぁあっ、土方さん……っ」
「はじめくん……っ、はじめくん……!」

 ……痛かった。僕は獣のようによがり狂い、辛い傷みを紛らわすかのように、はじめくんの身体に貪りついた。
 そんな【僕】を、はじめくんはまた『好き』だと言った。苦しくて、苦しくて、どうにかなってしまいそうだった。
 

この苦しみこそが、僕の愛の証だと思った。

 僕は、腕の中で無防備に眠るはじめくんを、いつまでもギュッと抱き締めていた。
 はじめくんは、僕のものだ。誰にも渡したりはしない。口には出せないその言葉を、僕は心の奥で、幾度となく繰り返す。

 朝になり、彼をこの手から離してしまうことが、今は堪らなく怖かった。

――――大好きだよ、はじめくん。

たとえ君が、僕を愛してくれなくても。

 

僕は君に……永遠の愛を誓うよ。


―――第二章()―――

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