――小さい頃の事は、あまり覚えていない。
マスターに出会う前の記憶は、継ぎ接ぎだらけで曖昧。
でも、初雷…兄さんと再会して、断片的にだが思い出した。
このスラムには本当に偶然に通り掛かった。
そして偶然、兄さんを見つけた。
僕にそっくりな、同族。
目が合った瞬間に、走馬灯のように兄さんと過ごした時間が甦った。
兄さんは、きっとあまり覚えていないと思う。
覚えていないのが無理も無いくらい小さい頃に僕らは離れてしまったから。
実際、僕も兄さんと再会するまで全然覚えていなかった。唯一の肉親の事すら。
小さい頃は見付けた木の実を分け合ったり、一緒に遊んだり…双子なのをいい事に他の奴らをからかったりもした。
でもいつだったか、兄さんとかくれんぼをして遊んでいた時。
僕は隠れるのに夢中になって、兄さんから遠く離れた場所に隠れてしまった。
でも兄さんなら絶対見つけるだろうな、なんて思っていたら。
後ろから人間の女に抱き上げられた。
何が起きたかわからず目を瞬かせている間に高級感溢れる車に乗せられて。
長い時間が経って、連れて来られたのは大豪邸。
「貴方はこれから私のペットになるのよ」なんて言いながら、きらびやかな宝石を身に付け高級そうなドレスを着た強い香水の匂いがする、僕を捕まえた女が言う。
それからどれくらいそこで飼われていたのかはわからない。
いや、覚えていない。
覚えているのは、兄さんの所に帰りたくて女に懐こうとしない僕にご機嫌取りに大量の玩具や高級料理を振る舞う召し使い達。
女は女で僕が懐かない理由がわからず首を傾げるばかり。
女はトレーナーとしての知識が全く無いようで、僕をモンスターボールで捕まえる事すらしていない。
ただ僕を一切外に出さず屋敷の一室に閉じ込めていた。
あの女はスラムで生まれたポケモンである僕ですらわかるくらいの箱入りだ。何も知らない。
女は「どうして懐かないのかしら…食事の好みかしら?それとも…」なんて頭を悩ませている。
違う。僕は帰りたいだけだ。
大好きな兄さんの所に帰りたいだけだ。
ある日僕は女が寝静まったのを見計らい、窓が開けっ放しになっているのを確認してそこから外に飛び出した。
ちょうど女の夫が仕事から帰ってきて大きな門が開いた瞬間を狙って全力で走った。
僕が逃げたのに気付いた召し使いが何か大声で叫んでいたけど振り返らずひたすら走った。
兄さん、どこにいるの兄さん
僕はここだよ、ねぇ兄さん
どんなに走っても、見慣れたスラムが見当たらない。
あるのは全く知らない街の風景だけ。
夜空を隠すようにそびえ立つビルや夜だというのにたくさんの光と人間で溢れた街に、思わず恐怖を感じて薄暗い路地裏のごみ箱の影に身を潜めた。
――こわい…
怖いよ兄さん…ここはどこ?兄さんはどこにいるの?
帰りたいよ…兄さんの所に帰りたい…兄さんに会いたい……
雪まで降りだして、寒さで体が震える。こんな寒い日はいつも兄さんが寄り添って温めてくれた、あの兄さんの温もりが恋しい。
首に巻き付けられた、あの女が付けた首輪が急に煩わしくなった。
あいつが僕を連れ去らなければ、今頃兄さんといられたのに……。
僕は出せる力全てで首輪を電撃で焦げさせて、脆くなった首輪を前足で引きちぎった。
強い電撃を放出した反動で頭がふらついた。
…僕、これからどうすればいいんだろう。きっと兄さんにはもう二度と会えないんだろうな…。
そう泣きそうになりながら思った時、目の前に影が落ちた。
「あれ…こんな所にコリンクが居る……」
長い栗色の髪に空色の目をした人間の女。
僕を連れ去った女よりかなり若い。
「さっきの放電はキミ?こんな雪の中どうしたの?」
女は僕に優しく手を差し延べてきた。
寒さと疲れから抵抗も出来ない僕は、大人しく女の腕の中に収まる。
――あたたかい……
まるで兄さんみたいだ。
あの女みたいにキラキラした宝石も、鼻を突く強い嫌な香水の匂いもしない。
優しい、花のような匂いがして安心する。
「雪華?どうした?」
「歩…見て、この子……」
「あー…だいぶ弱ってるな…ポケモンセンター近いし連れてくか」
「でもここのポケモンセンター、モンスターボールに入ったポケモンじゃないと診てくれないよ?」
「じゃあ野生ならお前が見付けたんだし、お前がゲットしてポケモンセンター連れてくしかねぇな…」
「……って事なんだけど…いいかな…?」
僕はポケモンなのに、人間に話すみたいに話し掛けてくる雪華と呼ばれた女。
僕はもう二度と兄さんに会えないと思い込んでいたから、もうどうでもいいと言わんばかりに一度鳴いて返事を返した。
それが僕がマスターの元に来た時の事。
あの女とは正反対にトレーナーの知識もあるマスターに、僕はすぐに懐いた。
たくさんバトルをして、色んな地方を旅して。
たくさんのポケモンに出会って仲間が増えて。
でもあの女に飼われていた時の癖が抜けなくて、いつも無表情になってしまうし無愛想にしてしまう。
それでも僕を『仲間』として接してくれる皆に心地良さを感じる。
そして、マスターとの旅の途中で通り掛かったスラム。
そこで見つけた、僕にそっくりな同族。
走馬灯のように蘇る、兄さんとの記憶。
この人が、僕の実の兄『初雷』だとすぐに気付いた。
兄さんも僕に流石に驚いていたけど、心から喜んでくれた。
僕を抱きしめて、頭を撫でて、「おかえり」って言ってくれた。
僕はマスターのおかげで兄さんと再会出来た。
マスターに出会わなければ起きなかったであろう奇跡。
兄さんと再会させてくれたマスターには、僕の全てで恩返しをしよう。
そして……
兄さんには、旅の話をしながら今まで離れていた時間を埋め合わせるくらい一緒に居よう。
僕の大切な大切な家族。
僕はなかなか笑えないし素直じゃないけれど…今度こそ兄さんの側に居たい。『弟』として。
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……なんだこれ?
(↑うん聞かれてもね)
シエルの過去をちょっとと初雷さんとの再会がどんなんだったかを書きたかった…はずなんだけど……
ごめんなさい今現在進行形で睡魔に襲われてまして訳わかっとりません←
あわわ…な、何か問題や気に入らない所とかあれば未明さんのみ受付ますので…!!(汗)
…明日改めて確認してアレだったら直すかもしれないけど(ぇ)
未明さん、初雷さんお借りしました!
そして全力でごめんなさい本当ダメだったり気に入らなかったり問題あったらバンバン言ってやってください…!