お題リレーやってみました。お題は『鬼籍に入る』でした。言葉自体をssに入れることは出来なかったのですが、こんな感じでどうでしょう。まだまだ、拙い部分が目立ちますので、また少しずつ修正していきたいと思います。こう表現したほうがいいよ、ここはこうのほうがいいよって方はコメント下さると嬉しいです。
次のお題は『友達最終日』でお願いします。
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ゆるうく生きている私が考える曖昧模糊で不透明な何か。逃げちゃえ、逃げちゃえ。
お題リレーやってみました。お題は『鬼籍に入る』でした。言葉自体をssに入れることは出来なかったのですが、こんな感じでどうでしょう。まだまだ、拙い部分が目立ちますので、また少しずつ修正していきたいと思います。こう表現したほうがいいよ、ここはこうのほうがいいよって方はコメント下さると嬉しいです。
四捨五入すると四十になる男の肩身は狭い。その上、部下と恋仲になってしまったことを認め、2人して設計事務所を退社、妻との離縁。仕事の引継ぎと離婚調停と新居の設計。デザインをやっている彼女と新居で新しい自分たちの事務所を設立しようと今は必死に取引先を探し、交渉している。
嗚呼、やることが山積みで前が見えなくなりそうだ。
「すまないな。結局君の家に転がり込むみたいな形になってしまって。」
『やあね、二人でデザインした家がもうすぐできるじゃない。それまでの辛抱でしょ?』
クスクス笑う春花はいつも笑顔が絶えない。名前の通り、とっても温かく魅力的な女性である。彼女が好きだと気付いたのはいつ頃だっただろう。子供が出来ないという理由から冷め切った家庭に精神的に疲れていた私にとって彼女は癒しだった。
彼女の仕事以外での顔も見てみたくて、もうこれ以上『部長』と呼ばれるだけのが嫌で、離婚が成立していないにもかかわらず、俺から声をかけた。
「結局、まだ結婚も出来ない。私は駄目だな、歳だけ食ってしまって。」
彼女の両親が亡くなっていることは知っていたし、早く家族をつくってあげたいと常々思っていた。だが、そう簡単に離婚というものは成立しないらしい。問題は離婚に賛成していたはずの妻がまだ私を好きであると言い出したこと。きっと私に別の女性がいると思うと惜しくなったというだけのものだろう。実際、ここ数年は妻のほうも自由に恋愛をしていたようだし、今更未練なんて言葉を使うのは卑怯な話だ。
『いいのよ、それだけ魅力的な人とこれからずっと一緒にいられるのよ?こんなに素敵なことってある?』
「本当に君にはいつも救われるよ。」
『貴方のこと、愛してるから。最悪一緒のお墓に入れるなら問題ないわ。』
そう言って笑う彼女の額に『私も愛しているよ。』とキスを送る。こうやって愛の言葉を自然に出せるのだって君だからだ。そう続けたら君は照れ臭そうに笑う。
『私は幸せ者ね。』
「来週には離婚が成立しそうなんだ。」という言葉を飲み込んだ。もし駄目だったら、ぬか喜びになる。本当に離婚が成立したら、指輪とケーキを買ってサプライズパーティーをしよう。そしたら今日よりもきっと、彼女は喜んでくれるから。
_______
少し前に、彼女とふざけ合いながら書いた婚姻届けを封筒に仕舞い、鞄に入れる。ケーキを取りだし、料理と一緒に並べるとちょうど彼女から電話が入り、口角が上がる。あと何年かすれば四十の人間がこんなにソワソワして、見苦しいな。
『今から帰るわ。雨がすごくて、タクシー乗り場がすごく混んでるの。』
「迎えに行こうか?」
『ううん、あと少しだから大丈夫。貴方はゆっくりしていて。』
そんな会話から20分、もうそろそろ着いてもいいはずなのだけど。慣れないサプライズに妙に胸がドキドキする。彼女は、喜んでくれるだろうか。
『吉峰 春花様のご親族の方でしょうか。吉峰様が病院に運ばれました。市立中央病院に大至急来てください。』
気付いたら病院にいた。彼女はどこか怪我でもしたんだろうか。たまにドジをやらかすことがあるからなあ。『心配させてごめんね。』とすまなそうに笑う彼女をことを思い浮かべているはずなのに、進む足が、服を握る手が、震えている。頭痛がする。最悪の事態が頭をめぐる。
でも、だって彼女は今日、私と…
「吉峰 春花の婚約者です。大至急との電話があり、伺いました。春花はどうしてこの病院に…」
こんな時にも社会人らしい冷静な言葉がでる自分に嫌気がさす。
『落ち着いて聞いてください。吉峰春花さんの乗っていたタクシーが衝突事故にあい、彼女自身大きな衝撃を受けたと思われます。体に大きな異常は見られないのですが、脳に大きな影響があり、今は人工呼吸器をつけていますが…』
医者の淡々とした語り口は彼女が脳死であると伝え、訪れた病室で笑っているはずの彼女はたくさんの管に繋がれなんとか生を保っていた。それなのに私という人間は涙を零すことさえも出来ていない。
「嗚呼、本当に私という人間は歳だけ食って。春、叱っておくれ。」
「春、このままじゃ、一緒の墓にさえ入れやしないよ。役所には二人で行こうと約束しただろう?」
「春、ケーキを買ったんだよ。君の好きなフルーツタルトだ。」
「春、指輪も、指輪も今日のために用意したんだよ。ほら、この指輪、欲しいって言っていただろう?」
指に光るツインペアダイアモンドがこの上なく憎かった。
「春。春花、目を覚ましておくれ。私は…」
゛私は、春花がいなきゃ、生きていけないよ。”
どれくらいの時間が経ったのだろう。一緒のお墓に入れるなら…と笑っていた横顔を思い出す。下を向くとリノリウムの床に水溜りができていて、初めて自分が泣けたのだと気付いた。
一人で向かう役所は切なく、しかし『おめでとうございます。』という静かな祝福の声を聞くと少し胸が躍った気がした。
私は男だから『実は子供が』なんて安っぽいドラマみたいな少しのハッピーエンドも望めないけれど、君が愛してくれたから、一生懸命に生きてみようと思うんだ。そしてそっちに行ったときにはお揃いの指輪と君と見られなかったたくさんの景色を君に送るから、出来れば浮気しないで待っていておくれ。
私は不器用で、頼りない男だけれど、でも、君を精一杯愛しているから。
「春花、遅くなってすまない。これからもよろしく。」
そう言って見上げた空は青く澄んで、温かい春の匂いがした。
永遠を誓ったある春の白昼夢
『愛しているわ』という彼女の声が聞こえた気がした。
性 別 | 女性 |
年 齢 | 31 |
職 業 | 大学生 |