2012-5-3 12:25
健二は夏希先輩のことマジで好きなんだと思った。
だから俺は、せめて健二の一番の友人でいたくて、それを精一杯応援したつもりだった。
それなのに。
「‥健二、これどういう状況よ」
今の俺の状況は、後ろ手にロープで拘束され繋がれて、笑みを浮かべた健二に見下されている。
部活中、健二が買ってきてくれた炭酸飲料を飲みながらパソコンをいじっていた時、ふいに眠たくなってしまって俺はデスクに突っ伏して眠った。
気づいたらこの状況だ。俺は恐らく健二によって椅子から床に下ろされずっと眠っていたのだろうが、ロープのリードが短くて両腕が突っ張っていてうまく動かせない。我ながらこの状態でよく寝れたもんだ。
健二は何も応えずただ笑っているばかりで、何とか言えよ、と声を荒げると、徐に腰を落として俺との距離を縮めた。俺はぎくりとした。
「佐久間がいけないんだよ、僕は佐久間が好きだって何度も言ってるのに、夏希先輩のことばっかり気にして」
「それは‥そうでしょうよ、だってお前は、」
「夏希先輩に託けて本当は僕のことなんか興味ないんでしょ、佐久間は」
「んなこと言ってねえだろーがっ!!」
「別にもういいよ、それはそれで。佐久間は女の子が好きだもん。だからこれからする事は、佐久間は忘れていいよ、だって僕なら」
"ノーカン"にしてくれるんでしょ、と嘲笑う。俺は身体が強ばるのを感じた。
夏希先輩といい感じになった健二が、突然俺にキスしたいと言ってきた時のことだ。ふざけているようには見えなかったが、俺は健二の友人として、かっこつけたくて、でも縋りたくて、夏希先輩の練習台にしたいならどうぞ、とか、健二ならノーカンだからOKだとか、常通りへらへらと冗談めかして強がったことを言った。
健二は俺に立て、と命令してきた。俺は黙って従った。
立ち上がると、腕が楽な姿勢をとれるくらいにはリードに余裕が出来た。少し安堵していると、突然健二が俺の首筋に噛みついてきた。べろりと熱い舌を這わされ、身体は反応せずとも小さい呻き声を漏らしてしまった。
「ねえ佐久間知ってる? 首元に分泌腺だか何だかある関係で、相手をドキドキさせるには首元噛みつくのが一番いいんだって」
「‥‥」
「何とか言いなよ。ていうか蹴飛ばしたりしたらどうなの?」
「健二っ‥俺は‥っ」
「何?」
「悔しかっただけなんだって‥本当は俺‥っ」
言いきる前に今度は咥内を舌で犯された。
勿論噛むことも蹴飛ばすことも可能だったろうが、俺は健二にされるがままに従った。
それでもどうしたらいいか分からず奥に引っ込めていた舌を、健二は容易く絡め取り、俺たちは舌と唾液を絡ませて深いキスをした。
我ながらこんなことをノーカンにするだなんて。出来るわけがない。
くちゅくちゅと唾液の混ざる音を聞きながら、俺は脳味噌が麻痺していくのをぼうっと感じた。
やっと健二が唇を離し、苦しくて一気に酸素を取り込もうとしたら咳き込んだ。健二はそんな俺の唇をまた一舐めする。
「佐久間は僕のことなんか嫌いでしょ」
「だから違うって言ってんだろ!!」
「嫌いならもっと抵抗すればいいのに。されるがままにしてるなんて佐久間ってもしかしてマゾ? それともエッチなの?」
健二の片手がするりと俺の股間を撫でる。先ほどのキスで感じてしまった俺自身は既に半勃ち状態で制服の上からでもそれが分かる。
健二はくすりと笑うと俺のベルトを外しにかかった。さすがにそれはまずいと思い抵抗しようとしたが、足しかまともに動かせない状態で、手加減しながら健二を押し戻すのは至難の業だった。いくら襲われかけているといえど、仮にも親友の腹を思い切り蹴飛ばすような真似はしたくない。
結局やだやだと譫言のように訴え腰を引くことくらいしか抵抗という抵抗は出来ず、あっという間に健二にズボンと下着を脱がされてしまった。
「ふふ、佐久間勃ってる」
「健二、頼むから‥っ」
「今更何言ってるの。‥触るよ」
恍惚とした表情で健二が俺自身に手を伸ばす。触れられた瞬間びくりと身体全体が反応した。
「あっ‥‥」
温かい手に包まれ、そのままゆっくりと上下に動かしていく。気持ちよさに息が荒くなり、時折小さな呻き声を漏らしながら俺は嫌々と首を振る。最早それしか抵抗の手立てがないのだ。
次第に速くなっていく健二の手の動きに合わせて、俺の喘ぎ声も止められなくなり、立っていることすら出来なくなった。両腕を壁につけることでも出来たら良かったのだが、両腕は拘束されている上、壁に背を向けた状態で立っている為縋る物が何もない。がくがく震えていた両膝が遂に力尽きその場にへたり込んでしまうと、上から佐久間かわいい、と呟く声が聞こえた。
「まだイってもないのに、佐久間は本当にエッチだねえ」
「はあ‥はっ‥‥けんじ、」
「でもちょうどよく濡れてきたから、もうやろうか」
俺自身から溢れる先走りが尻の方まで伝っているのを見て健二が言う。もう俺が抵抗する余力など残っていないと考えたのだろう、健二は俺の両腕を拘束しているロープを外した。手首には痣が出来ていた。
俺は自由になった両腕で健二にしがみついた。
俺はずっと健二が好きだった。だけど男同士だし、健二は夏希先輩が好きだからとずっと隠し続けてきた。
怖かっただけなんだ。いつか健二に捨てられることが。だから俺は親切な親友を演じた。健二が幸せになることだけを考えて心を殺してきた。
結局俺は自分が傷つくことを恐れて、ずっと健二を傷つけていたのかも知れない。
だから健二にしがみついた。感覚的には抱きついたつもりだったが、快感と射精感をどうにかしたいという欲求で悶々とする身体をどうにかして欲しいという思いもあり、しがみついた、という方が妥当なほど雑な甘え方になってしまった。
俺の行動に、健二の表情は一気に温度を失い、蔑むような目で見下してきた。
「同情ならいらないんだけど」
「同情じゃ‥ないって‥。俺は、お前がっ‥」
「佐久間の嫌がることたくさんしてあげるよ。そしたら僕、佐久間の"一番"嫌いな人になれるでしょ」
言うと、健二は抱きついていた俺の身体を引き剥がして強引に押し倒した。健二が馬乗りになり頭を押さえつけ、俺は床に這い蹲る形となった。健二は俺が抵抗しないと分かるとすぐに体重をかけるのをやめ、俺の上から退いた。
俺は自分で腰を高く上げた。健二が何をしたいのかなんて予想がついていたから。俺だってずっとこうしたかったんだと、何とか伝えたかったのだが、健二には届かなかったらしい。
健二は床に膝をついて、何もいわずにベルトを外し始めた。まさか、解さないで入れる気だろうか。男同士のそういう行為について深い知識はないが、何も慣らさないで本番というのは通常のセックスにおいても非常に危険なのではないか。
そんなことを考えている内に、尻に熱いものが宛てがわれた。ああ、やっぱり。半ば諦めにも似た思いで苦笑していると、熱いものがぐっと肛門を割り開いて侵入してきた。
強引に押し込まれていく健二自身に内壁がミシミシと切り裂かれていく。激しい痛みに気を失いそうになるが、健二の荒っぽい腰の動きがそれを許さない。
「あ゙っあ゙っあああっ」
その内、全て埋めきったのだろうか、健二の無理やり腰を押し進める動きがピストン運動に変わった。結合部からずちゅずちゅと卑猥な音が聞こえる。俺と健二の先走りと、もしかしたら俺の血液もあるのかも知れないな、と思った。
快感も糞もない酷いものだが、形の上ではやっとセックスが成り立ったのだ。健二と繋がれたのだ、身体だけは。俺は涙が溢れた。
「佐久間、僕のこと忘れないでよ」
「けんじ、‥健二っ好きだよ‥っ」
「嫌いでいいから忘れないで、佐久間、お願い、佐久間、好きだよ」
「健二っおれも好きだからっ」
「佐久間、離れないでよ、忘れないで、好き、佐久間、好き、好きだよ、佐久間」
「なあ、話きいてよ健二‥っ」
健二をここまで追いつめたのは俺にも一片の責任がある。裏を返せば親友の決して小さくない変化に気づけないくらいに余裕なんかなく健二のことが好きだ、ということなんだろう。
俺は気持ちいいと言って喘いだ。痛みばっかりで気持ちよさなんてこれっぽっちもないのに、気持ちいい気持ちいいと繰り返して、健二とのこの異常な行為に溺れた。
あの隘路をどう打開すれば良かったのだろう。いつから俺達はすれ違ったんだろう。
ぼんやりと考えながら、ただ健二に揺さぶられて涙を流した。