のじりはとても不思議な場所。

ケータイがないから
時計がないから
電気がないから
いつもとは違う名前で呼ばれるから
みんなの正体が分からないから
鐘が時間をしらせるから
朝になると旗をあげるから
湖が静かにたたずむから
オレンジ色の道ができるから
みんなでいただきますをするから
好きな時に好きなように歌うから
だれかが隣にいてくれるから
星がちかちか瞬くから
夜はランタンを囲むから
ひみつの話をするから
知らない自分に気づけるから
自分のことを少し好きになれるから


だから、たからものみたいな思い出がたくさんできて、
たからものみたいな仲間がたくさんできて、
たからものみたいにきらきら輝くから、



だから、



わたしはいつも、そんなきらきらを湖のほとりに置いてきてしまう。

大切な思い出と、少し好きになれた自分と、そんなたからものをキャビンにしまって。

寂しさと、大好きな仲間といっしょに、日常に戻ってしまう。


今年も、取りに戻る予定だったのだけれど、行けなくなってしまった。

置いてきてしまった。

来年は、取りに行けるかなぁ。


もし次にあの特別な場所に行ける時がきたら、2年分の夏のたからものすべてを持って帰ってくるんだ。

そうしてもうしばらくは足を踏み入れないことにしよう。


いつも好きな自分でいられるように。



あのこだってわたしなんだから。

なにを、おそれることがある?


嫌われたって、悪口をいわれたって、
わたしはわたしの好きなように生きるの。


後悔しないように生きるの。


わたしの毎日に、生活に、人生に、
責任を持てるのはわたしだけなのだから。