僕には心がない。正確には、僕だけの心が。
だから僕は嬉しいとも悲しいとも思わない。僕自身に何があっても、なるようにしてなった結果なのであって、僕はきっとその結果に言い訳をすることはないだろう。どうでもいい人間にどんな言葉を浴びせかけられても、僕が悪いで自己完結。こうするだけでいい。僕がそれに反発して、僕の心を他人に見せることも、ぶつけることもないのだから。
それでも、僕の心は消えない。惨めにも他人にすがりつく。数少ない、僕以外の誰かの中で、僕が名前を呼べる人に。その関係の中に、僕の心は息づいている。誰かの感情に触れてやっと、僕の心は息をする。
僕は、他人に生かされている。
君が楽しそうなら僕も楽しい。君が辛いなら僕も辛い。君がいれば僕はまるで生きているみたいに何かを感じることができる。自分の味覚に合わせて作る筈の料理は美味しくないけれど、君が美味しいと思ってくれる料理は作れる。君がいいと言ってくれるなら、僕はあらゆる言葉で自分を縛るし、君の言葉を指針に生きていく。君が望んでくれるなら、僕はいくらでも努力しよう。
だから、捨てないでほしい。
だから、嫌わないでほしい。
自分を大切にしてと言うけれど、僕はもうこれしか知らない。君を大切にすることが僕を大切にすることで。
ああ、どうして僕はこうも自分勝手なのだろう。
(君に笑っていて欲しいだけなのにな)
いろんなことを考えて、僕なりに僕を表現する方法を見つけて、自分を大切にして、それでも君はやっぱり悲しそうで。何をしても、僕が僕を好きになれないことを見抜いてるのだろうと思った。
僕は何をしても、僕を許せないのは、何故?
(結局ぶつかることもできない、すり抜けるだけの僕を)
(君はいつまでも忘れないでいてくれた)
(伸びてくる手が、その度見せる表情が)
(君が僕を救い、その度に僕は僕を嫌いになる)