ルーク生誕を祝う夢小説(固定夢主)
2016-12-26 00:18
君と出会えた奇跡を、歩んだ軌跡を
ああ、あの世界と離れて何度目の君の誕生日だろう。
最初で最高の親友の事を思い出し、俺はため息を吐いた。
境界での時間の感覚は固有世界とは別物だ。誕生日だって、彼の世界を自分の世界の暦に当てはめて計算しただけの、いわば別物の誕生日だ。あの世界とは違う。
あの世界ではどれだけの時間が過ぎているだろうか。彼らは無事に成人の儀を迎えただろうか。
「うわの空だな紫音嬢」
「連徹明けのアンタよりはましだと思うけどな」
笑ってみせると、ボーマンは何を納得したのか2度ほど軽く頷いて隣へ座った。今日はずいぶん顔色が良い。無茶はしていないようだ。3日前の死人のような顔は跡形もない。
「始めの世界が気になるか」
「そうだなあ……まあ、いい加減区切りをつけろって話なんだろうけどさ。龍慶にも言われてるし」
「珍しい話ではないがね。特にお前さんはここを経由してない。それだけあそこは印象深く刻まれている。唯一の世界だ。そういうものは捨てがたい。俺たちの中にもいるからな、そういうのは」
肩を竦めて見せるボーマンに、生返事を返す。世界を渡るのは仕事で、あれは無数にある世界のひとかけらで、また、無数の可能性の平行線のひとつだ。分かっている。
「ところで、紫音嬢。最近の活躍は目覚ましいようだな」
「そうでもないけど。まあ、酷使されてるのは実感してるけどな。何せ、上司ができるもんで」
「そのできる上司から仕事を預かってきたので、進呈いたしま〜す」
「うげえ。俺帰ってきたばっかなんだけどなあ」
リアルに不平不満を込めた声が出た。喉から自然に。
書類の枚数から察するに、どうやら簡単な仕事の様だ。数時間で済むレベルだろう。いくら簡単とは言え、そんなに仕事を投げられては俺も倒れるんじゃないか。倒れたらどうするんだ。ロキは爆笑だろうし、ロゼは仕事の再分配で大変だろう。龍慶は手伝えよ。ロキはあとでやり返す。
資料には簡単な世界情報と、驚異の出現データ、必要事項が記載されていた。
それを見て、俺は息を飲んだ。
丁度その地点、被害の出そうな人物に見覚えがあった。最初に会ったときを思い出す。赤い長髪に不遜な、不機嫌そうな顔。翠の目は気だるげで。よく知っている顔だ。会いたかった顔だ。
「は、これ、どういうことだよ」
「残念ながら、嬢のいたとこの少年とは世界線が違うがね。ちょっと問題があってさ。まあすぐ片付く仕事なんだろうけど、うちは万年人不足だから、優秀な人材にも雑用が回ることがあるわけだ」
手元の資料を引き抜き、ひらひらと見せる。どうする、と聞きたいようだ。そんなのは決まっている。
代わりにしたい訳じゃない。けれど会えるのなら。
馬鹿らしいと思う。だけど、それを見越した上で、龍慶は仕事を振って寄越したのだ。それに内心感謝しつつ、資料を奪い返してその場を立ち去る。ゲートに向かう足取りが、抑えられない高揚感で早まった。
※
「な、なんだあ!?」
懐かしい声が聞こえる。ひとり中庭にいたようだ。ルークの目の前には知能の低い、言うなればちょっとした魔物程度がいた。こんなものでも、世界の均衡を壊す可能性があるのだから、世界は何で傾くかは分からない。
上から一直線にぶった切る。どうやら切っても再生するタイプのやつらしい。術者系の方が簡単に対応できるだろうな、と思うけれどこれは俺がひとりで請け負ったことだ。与えられている時間も短い。さっさと済ませよう。
身体のあらゆるところから飛び出てくる槍のような触手を、腰を抜かしているルークを守りながら切り落とす。後ろで「誰だ!?」と喚く声が聞こえて、つい笑ってしまった。懐かしい。この声も、この反応も。
「よお坊ちゃん。死にたくなかったら外出前の予行練習がてら化物退治でもどうだ?」
「はあ!?なんで俺がそんなことしないといけねぇんだよ!なんで誰も来ねえんだ!何がどうなってんだよ!」
「世の中不思議なことばっかりだよな!分かる分かる!」
「そんな話をしてんじゃねーっつうの!」
「なんでもいいけどそのままだと死ぬぞ!真剣じゃなくても構えとけよ!」
「だーっもう!意味わかんねー!!」
頭を掻き毟ったあと、眉間に皺を寄せて喚きながら、ルークは俺の横に並んだ。持っているのは木刀で、戦力としては期待できない。それでも一緒に並べるのが嬉しかった。自分でも重症だと思う。アニスには1度ルーク至上主義だーなんて言われたっけ。否定できないな。ガイ2号ってやつか。
「さっき切ったのにもう治ってやがる!どーすんだよ!」
「核を切る。身体のどこかにあるはずだ。外形が軟体だから、おそらく体中を絶え間なく移動してるタイプだろうな。細切れにすれば当たるだろ」
「はあ?無茶だろ……」
「ちゃんと反応見てれば分かる。まあ、攻撃は直線的だし、能力的にもトリッキーな感じは無いから、練習にはもってこいだろ。退屈凌ぎにはいいんじゃないか?」
「死ぬっつーの!」
どうやら萎縮はしているものの、ちゃんと相手を見据えている。逃げ出すつもりは無いらしい。頼もしいな、なんて言うと馬鹿にしてんのかと怒鳴り声が飛んできた。話している間にも相手はこっちを崩しにかかってくる。どうやら丸呑みも可能らしい。慌てて避けるルークを横目で見ながら、背後に回り横薙ぎにする。継ぎ目なく袈裟切りに、かばう様子が無いので、低め下段へ振り下ろす。ふたつに分断した破片の片方が奇妙な動きを見せる。
ビンゴだ。
「ルーク!そっち行ったぞ!取り敢えずぶん殴れ!」
「うげっ!?こっちくんな!」
歪な物体に無我夢中で振り下ろすが、軟体生物にあまり効果は期待できなかった。予想通りほぼノーダメージで、しかも他の破片が一斉にルークへと向かう。どういう筋繊維をしているんだか、核入り破片がルークに飛び上がった。
「ひっ!?」
音もなく、風もなく、俺はそれを貫いた。何かが砕けた音がする。
周りの破片は重力に従って地面に落ちると、砂のようになって消えた。
肩を回して、俺は刀をしまう。茫然としているルークに手を差し伸べて、苦笑いで声をかける。
「大丈夫か?」
「あ……」
「怖い思いをさせたな。悪かった。もう大丈夫だ、俺もいなくなるから安心してくれ」
反応が無い。そりゃあそうか。邸内でこんなことになって、訳が分からないまま終わったんだから。手を引こうとして、逆に腕を掴まれて、今度は俺が驚いた。じっと見つめられて、これは強制投獄コースかと思案する。そんな俺の気持ちを裏切るように、出てきたのはありえない言葉だった。
「”レオン”……?」
「は、あ?」
お互いにそれ以上の言葉が出なかった。何が起きた。
平行世界は干渉し合うことがある。もしかしたらここは、あの世界と近いのかもしれない。頭の回転が追い付くころに、俺はどう話したらいいか分からなくて、とっさに「誕生日おめでとう」と言った。
「……なんで、お前がそんなこと知ってんだよ」
「キムラスカにいれば分かるだろ」
「俺の誕生日だって知ってて、あんな化物寄越したのか」
「は?ルーク今日誕生日なのか?」
「今日が何日だかも知らないくせに、なんで俺の名前や誕生日なんて知ってるんだよ。邸にだってどうやって入ったんだ」
「あー、ええー、全てはユリアの思し召しでってことで?」
「お前、”レオン”なのか」
「いやあ、紫音だけど?」
睨んでいるというか、見定めているというか。腕はがっちり掴まれているし、どうしたらいいのか分からなくて両手を上げる。短時間の外部遮断効果が消え、人のざわめきが聞こえてくる。ガイの声がはっきりと聞こえた。まずい。非常にまずい。
「お前、何しに来たんだよ」
「……強いて言えば、誕生日を祝いに」
「何でお前が俺を祝うんだよ」
「うーん、難しい問いだな。まあ、そういう仲だったことがあるんだよ。お前じゃないけど、ルークとさ」
「……誰の話だよ」
そう言いながら、ルークは手を離した。意外だな、と思いながら向けられた背を見つめる。
「人が来ると不味いんだろ」
「よく分かったな」
「俺の方を見てなかったら分かるっつーの」
「ああそうか。悪かったな。じゃあ行くわ」
背を向けられているのは助かる。別に見られて何かある訳じゃないが。
「まあ、邸内は飽きるだろうが、自分のやるべきことはしっかりやっとけよ。あとあと役に立つからさ。必ず。お前自身のために、今の時間を大事に使えよ。いつか来る日のために。あとは体調に気をつけるようにな。筋力があっても腹は冷えるぞ」
「うるせーっつうの。いつかなんて分からねえ未来のために頑張れるかよ」
「スコアがあるぞ?知りたいときの選択肢だ」
「知ったところで、俺がそうしたいって思わなかったら、そんな道選らばねーよ」
こちらを向かないままでルークは答える。ああそうだ。そのとおりだ。最善も最悪も、いつだって無数の可能性の選択の上に成り立っている。その未来を勝ち取るのは、スコアと覆すのは、自分たちで選択するお前と、仲間たちだった。
軽く笑ってゲートへ歩き出す。ひとりくらい中庭に入ってきてもいいと思うんだが、少しだけ振り返ると、邸と中庭を隔てる扉が微かに開き、人影が見えた。空気を読んでるんだか、警戒しているんだか。相変わらずガイには頭が下がる。
「……ありがとな、”レオン”」
足が止まる。なんでとかどうでもよくて、呼んでもらえたのが嬉しくて。洩れそうになる声を抑えて、背中を向けたままで手を振った。見ていなくてもいいんだ。もっとちゃんと言ってやりたかったな。ごめんな。
ありがとうは、こっちの台詞だ。
ゲートを抜けて、俺は別れも言わないまま世界を超えた。
※
「大丈夫かルーク」
「……おう」
「侵入者じゃなかったのか?」
「……しらねー。誰もいなかったし、俺は何もしらねーよ」
「……そうか。それにしても似てたなあ、お前の夢に出る、名前も知らない親友に」
「んなわけねーっつうの。いいから、部屋に戻るぞ」
「はいはい」
※
アクシズに戻って早数時間。俺は次の仕事の説明を受けるため部屋を移動していた。
数時間で次の仕事だからな。普通なら過労で倒れてる。クレームのひとつでも入れたいくらいだ。
まあ今回は、そんなことできそうもないが。
「どうしたの紫音?機嫌がいいね」
「そうかもなあ……龍慶から褒美をもらってさ。兄貴から言っといてもらえるかな、お礼。しばらく会えそうもないしさ」
「ふふ、了解。彼は本当に、紫音に甘いね」
「……否定できなくなってきたなあ」
(君と合えたその時間は、幸福以外の何ものでもなく、君がいることは、祝福されることでありますと)
最初で最高の親友の事を思い出し、俺はため息を吐いた。
境界での時間の感覚は固有世界とは別物だ。誕生日だって、彼の世界を自分の世界の暦に当てはめて計算しただけの、いわば別物の誕生日だ。あの世界とは違う。
あの世界ではどれだけの時間が過ぎているだろうか。彼らは無事に成人の儀を迎えただろうか。
「うわの空だな紫音嬢」
「連徹明けのアンタよりはましだと思うけどな」
笑ってみせると、ボーマンは何を納得したのか2度ほど軽く頷いて隣へ座った。今日はずいぶん顔色が良い。無茶はしていないようだ。3日前の死人のような顔は跡形もない。
「始めの世界が気になるか」
「そうだなあ……まあ、いい加減区切りをつけろって話なんだろうけどさ。龍慶にも言われてるし」
「珍しい話ではないがね。特にお前さんはここを経由してない。それだけあそこは印象深く刻まれている。唯一の世界だ。そういうものは捨てがたい。俺たちの中にもいるからな、そういうのは」
肩を竦めて見せるボーマンに、生返事を返す。世界を渡るのは仕事で、あれは無数にある世界のひとかけらで、また、無数の可能性の平行線のひとつだ。分かっている。
「ところで、紫音嬢。最近の活躍は目覚ましいようだな」
「そうでもないけど。まあ、酷使されてるのは実感してるけどな。何せ、上司ができるもんで」
「そのできる上司から仕事を預かってきたので、進呈いたしま〜す」
「うげえ。俺帰ってきたばっかなんだけどなあ」
リアルに不平不満を込めた声が出た。喉から自然に。
書類の枚数から察するに、どうやら簡単な仕事の様だ。数時間で済むレベルだろう。いくら簡単とは言え、そんなに仕事を投げられては俺も倒れるんじゃないか。倒れたらどうするんだ。ロキは爆笑だろうし、ロゼは仕事の再分配で大変だろう。龍慶は手伝えよ。ロキはあとでやり返す。
資料には簡単な世界情報と、驚異の出現データ、必要事項が記載されていた。
それを見て、俺は息を飲んだ。
丁度その地点、被害の出そうな人物に見覚えがあった。最初に会ったときを思い出す。赤い長髪に不遜な、不機嫌そうな顔。翠の目は気だるげで。よく知っている顔だ。会いたかった顔だ。
「は、これ、どういうことだよ」
「残念ながら、嬢のいたとこの少年とは世界線が違うがね。ちょっと問題があってさ。まあすぐ片付く仕事なんだろうけど、うちは万年人不足だから、優秀な人材にも雑用が回ることがあるわけだ」
手元の資料を引き抜き、ひらひらと見せる。どうする、と聞きたいようだ。そんなのは決まっている。
代わりにしたい訳じゃない。けれど会えるのなら。
馬鹿らしいと思う。だけど、それを見越した上で、龍慶は仕事を振って寄越したのだ。それに内心感謝しつつ、資料を奪い返してその場を立ち去る。ゲートに向かう足取りが、抑えられない高揚感で早まった。
※
「な、なんだあ!?」
懐かしい声が聞こえる。ひとり中庭にいたようだ。ルークの目の前には知能の低い、言うなればちょっとした魔物程度がいた。こんなものでも、世界の均衡を壊す可能性があるのだから、世界は何で傾くかは分からない。
上から一直線にぶった切る。どうやら切っても再生するタイプのやつらしい。術者系の方が簡単に対応できるだろうな、と思うけれどこれは俺がひとりで請け負ったことだ。与えられている時間も短い。さっさと済ませよう。
身体のあらゆるところから飛び出てくる槍のような触手を、腰を抜かしているルークを守りながら切り落とす。後ろで「誰だ!?」と喚く声が聞こえて、つい笑ってしまった。懐かしい。この声も、この反応も。
「よお坊ちゃん。死にたくなかったら外出前の予行練習がてら化物退治でもどうだ?」
「はあ!?なんで俺がそんなことしないといけねぇんだよ!なんで誰も来ねえんだ!何がどうなってんだよ!」
「世の中不思議なことばっかりだよな!分かる分かる!」
「そんな話をしてんじゃねーっつうの!」
「なんでもいいけどそのままだと死ぬぞ!真剣じゃなくても構えとけよ!」
「だーっもう!意味わかんねー!!」
頭を掻き毟ったあと、眉間に皺を寄せて喚きながら、ルークは俺の横に並んだ。持っているのは木刀で、戦力としては期待できない。それでも一緒に並べるのが嬉しかった。自分でも重症だと思う。アニスには1度ルーク至上主義だーなんて言われたっけ。否定できないな。ガイ2号ってやつか。
「さっき切ったのにもう治ってやがる!どーすんだよ!」
「核を切る。身体のどこかにあるはずだ。外形が軟体だから、おそらく体中を絶え間なく移動してるタイプだろうな。細切れにすれば当たるだろ」
「はあ?無茶だろ……」
「ちゃんと反応見てれば分かる。まあ、攻撃は直線的だし、能力的にもトリッキーな感じは無いから、練習にはもってこいだろ。退屈凌ぎにはいいんじゃないか?」
「死ぬっつーの!」
どうやら萎縮はしているものの、ちゃんと相手を見据えている。逃げ出すつもりは無いらしい。頼もしいな、なんて言うと馬鹿にしてんのかと怒鳴り声が飛んできた。話している間にも相手はこっちを崩しにかかってくる。どうやら丸呑みも可能らしい。慌てて避けるルークを横目で見ながら、背後に回り横薙ぎにする。継ぎ目なく袈裟切りに、かばう様子が無いので、低め下段へ振り下ろす。ふたつに分断した破片の片方が奇妙な動きを見せる。
ビンゴだ。
「ルーク!そっち行ったぞ!取り敢えずぶん殴れ!」
「うげっ!?こっちくんな!」
歪な物体に無我夢中で振り下ろすが、軟体生物にあまり効果は期待できなかった。予想通りほぼノーダメージで、しかも他の破片が一斉にルークへと向かう。どういう筋繊維をしているんだか、核入り破片がルークに飛び上がった。
「ひっ!?」
音もなく、風もなく、俺はそれを貫いた。何かが砕けた音がする。
周りの破片は重力に従って地面に落ちると、砂のようになって消えた。
肩を回して、俺は刀をしまう。茫然としているルークに手を差し伸べて、苦笑いで声をかける。
「大丈夫か?」
「あ……」
「怖い思いをさせたな。悪かった。もう大丈夫だ、俺もいなくなるから安心してくれ」
反応が無い。そりゃあそうか。邸内でこんなことになって、訳が分からないまま終わったんだから。手を引こうとして、逆に腕を掴まれて、今度は俺が驚いた。じっと見つめられて、これは強制投獄コースかと思案する。そんな俺の気持ちを裏切るように、出てきたのはありえない言葉だった。
「”レオン”……?」
「は、あ?」
お互いにそれ以上の言葉が出なかった。何が起きた。
平行世界は干渉し合うことがある。もしかしたらここは、あの世界と近いのかもしれない。頭の回転が追い付くころに、俺はどう話したらいいか分からなくて、とっさに「誕生日おめでとう」と言った。
「……なんで、お前がそんなこと知ってんだよ」
「キムラスカにいれば分かるだろ」
「俺の誕生日だって知ってて、あんな化物寄越したのか」
「は?ルーク今日誕生日なのか?」
「今日が何日だかも知らないくせに、なんで俺の名前や誕生日なんて知ってるんだよ。邸にだってどうやって入ったんだ」
「あー、ええー、全てはユリアの思し召しでってことで?」
「お前、”レオン”なのか」
「いやあ、紫音だけど?」
睨んでいるというか、見定めているというか。腕はがっちり掴まれているし、どうしたらいいのか分からなくて両手を上げる。短時間の外部遮断効果が消え、人のざわめきが聞こえてくる。ガイの声がはっきりと聞こえた。まずい。非常にまずい。
「お前、何しに来たんだよ」
「……強いて言えば、誕生日を祝いに」
「何でお前が俺を祝うんだよ」
「うーん、難しい問いだな。まあ、そういう仲だったことがあるんだよ。お前じゃないけど、ルークとさ」
「……誰の話だよ」
そう言いながら、ルークは手を離した。意外だな、と思いながら向けられた背を見つめる。
「人が来ると不味いんだろ」
「よく分かったな」
「俺の方を見てなかったら分かるっつーの」
「ああそうか。悪かったな。じゃあ行くわ」
背を向けられているのは助かる。別に見られて何かある訳じゃないが。
「まあ、邸内は飽きるだろうが、自分のやるべきことはしっかりやっとけよ。あとあと役に立つからさ。必ず。お前自身のために、今の時間を大事に使えよ。いつか来る日のために。あとは体調に気をつけるようにな。筋力があっても腹は冷えるぞ」
「うるせーっつうの。いつかなんて分からねえ未来のために頑張れるかよ」
「スコアがあるぞ?知りたいときの選択肢だ」
「知ったところで、俺がそうしたいって思わなかったら、そんな道選らばねーよ」
こちらを向かないままでルークは答える。ああそうだ。そのとおりだ。最善も最悪も、いつだって無数の可能性の選択の上に成り立っている。その未来を勝ち取るのは、スコアと覆すのは、自分たちで選択するお前と、仲間たちだった。
軽く笑ってゲートへ歩き出す。ひとりくらい中庭に入ってきてもいいと思うんだが、少しだけ振り返ると、邸と中庭を隔てる扉が微かに開き、人影が見えた。空気を読んでるんだか、警戒しているんだか。相変わらずガイには頭が下がる。
「……ありがとな、”レオン”」
足が止まる。なんでとかどうでもよくて、呼んでもらえたのが嬉しくて。洩れそうになる声を抑えて、背中を向けたままで手を振った。見ていなくてもいいんだ。もっとちゃんと言ってやりたかったな。ごめんな。
ありがとうは、こっちの台詞だ。
ゲートを抜けて、俺は別れも言わないまま世界を超えた。
※
「大丈夫かルーク」
「……おう」
「侵入者じゃなかったのか?」
「……しらねー。誰もいなかったし、俺は何もしらねーよ」
「……そうか。それにしても似てたなあ、お前の夢に出る、名前も知らない親友に」
「んなわけねーっつうの。いいから、部屋に戻るぞ」
「はいはい」
※
アクシズに戻って早数時間。俺は次の仕事の説明を受けるため部屋を移動していた。
数時間で次の仕事だからな。普通なら過労で倒れてる。クレームのひとつでも入れたいくらいだ。
まあ今回は、そんなことできそうもないが。
「どうしたの紫音?機嫌がいいね」
「そうかもなあ……龍慶から褒美をもらってさ。兄貴から言っといてもらえるかな、お礼。しばらく会えそうもないしさ」
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