私はあの人を憎んでいた。

どうして私を棄てたのかと。

どうして私を愛してくれなかったのかと。

双子に生まれた私たちを、あの人は双子だからという理由で棄てた。
私たちの幼い命を、生まれた瞬間に否定し、愛することを放棄した。
だから本来であれば無条件で得られたはずのものを、私と姉さんは持っていない。

「ファンタジニアに侵攻する」

そう、陛下がおっしゃった日、私の心は復讐心に焦がれた。
やっと、この日が来たのだと。
あの人に、私がどんな思いで生きてきたか思い知らせてやれる日が来たのだと。
陛下の前で、恨み生きてきた感情が吹き出しそうになるのを、抑えていた。

鏡に映った私の目は、狂喜とも恨みともつかない色を孕んでいた。

その夜、陛下に自室へくるよう言われ、自室で二人きりになると陛下のベッドに組み敷かれた。
そして無言のまま貪るようなキスをされた。
触れるだけのキスが多い陛下が、舌を入れ、息を荒くして幾度も私のそれと絡ませたことに私は戸惑った。
口の中で感じる陛下の柔らかく熱いそれと、濡れた音。息苦しさと熱で頭がじんじんと痺れるような感覚がし出した頃、唇が離れた。
「陛、下…?」
はあはあと速い呼吸を繰り返す中で陛下と目があって、気づく。
(この方の目は、私と同じ目だ。)
私はいま、肉親から命と帝位を奪った方と、同じ目をしている…。
陛下は私の額にかかる髪に触れながら、言った。
「アイギナ。俺はお前の故郷を奪って、支配下に置き、お前を完全に俺のものにする」
お前の全てを俺のものにする。
そう言って独占欲をさらけ出した陛下の望むままに、私は陛下の上で何度も果てた。


あの人が、陛下によって国と命を奪われ、ファンタジニアが陥落した日。
私の前で陛下が、兵士たちに勝利を告げたとき。
私の胸は空虚な思いで満ちていた。

何故嬉しくないのだ。

長年の望みが果たされたというのに。

あの人は私が望んだ通りの末路を辿ったというのに。

あの人に無条件で愛された憎むべき女は逃げ延びたようだが…、

ああ…。

そうか。

私は、そこで、本当はあの人に愛されたかったのだと気づく。

殺したかったのではない。

私を棄てたあの人に、ただ愛されたかっただけなのだと。

―陛下も、そうだったのではないだろうか…

振り返った陛下が私の耳元まで口を近付ける。吐息がかかり、背筋がぞくぞくした。
「アイギナ、お前は、永遠に俺のものだ。誰にも奪わせない」
―だから、俺を愛してくれ。

私には、その言葉を拒絶する理由なんてなかった。



愛された記憶が欲しい二人