話題:突発的文章・物語・詩
古びた石の塀だけが、遺跡のように、或いは何かを暗示するかのように、ポツンと取り残されている場所があった。十月の夕暮れ、陽はすっかり西に傾いている。黄昏から闇へと移行する日没寸前の世界。塀の向こう側、母屋が在ったであろう地面は既に我が物顔で蔓延(はびこ)るペンペン草で覆われており、家屋が失われて幾久しい事を暗黙の内に語っていた。其所に在ったのがどのような家であったのか、記憶を辿ってみたがまるで思い出せない。普段は殆ど通らぬ小路であるので仕方ないと云えばそうなのだろう。
夕焼けに塀だけが浮かび上がる空間風景はどこか寂しく同時に奇妙であるが、その異質さに輪をかけているのが、塀に描かれた〈海の絵〉であった。但し、絵と云ってもそれは限りなく落書きに近いものである。と云って、近年、都市部で見かけるような〈アートとしての落書き〉とも違うように思える。もし、これがアートであるならば、町中にある道路標識などは至高の芸術作品となり、まとめて美術館に寄贈しなければならないだろう。
誰が描いたとも知れぬ塀の落書き。覚束ない〈海の絵〉。砂浜の先にはどう見ても水平ではない水平線がひかれ、まぱらな雲、好意的に見ればカモメに見えなくもない小さな飛行物体、そのようなものたちが塀というカンパスの上、妙にくすぐったいバランスで描かれていた。
いったい、何時、誰が、何を思って、描いたのだろう。そ取り留めもなくそんな事を考えながら塀の落書き絵を見つめていると、ポッ、塀の中央より少し下辺りに突然、輝くような茜色の小さな円が現れたのであった。と、それが合図であるかのように風景が暗くなり、瞬く間に空に宇宙が現れた。輝く茜色の小さな火球は塀の風景の中を徐々に下降したかと思うと、やがて、〈海の絵〉の水平線に差しかかる辺りで深いコバルトの青に溶け込むように消えていった。その光景は紛れもなく海の彼方に沈みゆく太陽そのもので、成程々々、何故ここに海の絵が描かれたのか、その秘密をこの瞬間に見たような気がしたのであった。私と同じように、塀の中に突然現れた火球を見た誰かが、それを太陽に見立て、ちょうどその沈みゆく辺りに海の水平線を描いたのであろう。火球が現れてから消える迄、日没前の僅か一分間にのみ解き明かされる〈海の絵〉の秘密。古びた塀の幻燈。
実際に此所から西に数q離れた所には海があり、太陽はその彼方に沈んでゆく。塀に現れた茜色の小さな円の光源が、その沈みゆく太陽であるのは疑いようがない。地平ギリギリの低い傾斜角から太陽の放つ、日の終わりの鋭い残光が、砂浜や防砂林、県道、公園や神社、民家など中途に在る様々な遮蔽物を通過して濾過され、この場所(塀)にたどり着いた時にはピンポン玉とテニスボールの中間くらいの火球となった。いみじくもその形と輝きは小さな太陽そのものであり、それは奇跡的な相似と云えた。
何故この場所に塀だけが残されたのか。それは、無断で土地に侵入するのを防ぐ為の心理的な抑止力になると管理者が判断したと云う極めて現実的な理由によるものかも知れないし、或いは、人知では計り知れない神秘的な力が其所に働いているせいかも知れない。
かえすがえすも残念なのは絵の出来映えで、描いたのが誰であるにせよ、もう少し上手く描けなかったのだろうかと思ってしまう。悪く云えば下手くそで、良く云えば下手っぴ。けれども、その、完成されていないタドタドしさ、至らなさ故にある種の情感がそこに生まれているようにも思える。明解な答を持たない芸術はやはりムツカシイ。塀の火球に海に沈む夕陽を見つけた感度(センス)の高さと、実力の低さ(絵心の無さ)。その埋めるに埋まらぬ距離感が何とも哀しく、それが秋の日暮れの寂しさと不思議に共鳴しあっていた。
――かつて此の場所には年老いた犬と老人が住んでいた……としたら。彼らは毎日夕暮れの海を散歩し、水平線に沈む太陽を二人で眺めていた……としたら。しかし、時は無常に進み、季節は移りゆく。足の弱った老犬は海まで歩く事が難しくなり、老人もまた同様であった。それでも二人は夕暮れに家の前の僅かな距離を散歩した。そんな或る日、老人は塀の上に小さな火球が現れるのを見つけた。老人にとってそれは落陽そのものであった。そして老人は何の技術も経験も無いまま、塀に〈海の絵〉を描いた。もう海へは行けない老犬と自分の為に、海を、そして海の彼方に沈む太陽を、一枚の古びた塀に閉じ込めた。それは日没前の僅か一分間のみ現れる、年老いた犬と老人だけが知る秘密の風景。やがて二人は共に旅立ち、秘密だけが此所に残された……としたら。
……それを、塀に描かれた〈海の絵〉が語る秘密の物語とするのは、いささか感傷的に過ぎるだろうか――
陽の落ちてしまった海は、燃え尽きてしまった線香花火のように哀しい。
秋にはぐれた蜻蛉が一羽、塀の中の海へと消えていった。いったい、何処までが実際の風景で、何処からが心象の風景であったのか。見つめる私もまた、十月の落陽を彷徨う名もなき一羽の蜻蛉であった。深まりゆく秋の面差し、夜風に遠く金木犀が薫っている。
〜おしまい〜。
これ、老人と老犬が自宅の前を散歩している部分、実際のモデルになってるのは実はお婆さんで、ここに書いてあるように自宅の前の数メートルだけを毎日散歩してたのよ♪お婆さんもすっかり腰が曲がってて、老犬ももう目が見えなくなってて、それでも毎晩、家の前の数メートル先の電信柱まで歩くのを日課にしてて、それにたまたま出くわすと近寄って頭なでて軽く抱き締めてあげてたんだけど、そうすると本当に嬉しそうな顔して(←犬が)(笑)尻尾ふってくれてね…♪そのお婆さんもとても愛情の深い人で、で、最初に言ったようにそれがモデルになっている訳ではなのだけれども…不思議な事に何故か書く段階になって、私の中のイメージがお婆さんからお爺さんに変わったのですよ♪(☆o☆)
で、何ゆえ?と思いながらも取り敢えずはお爺さんのイメージで書いてみたんだけど、試しに表記としてどちらにも取れるよう「老人」としてみたという…。けっこう伝わるもんだなあ〜っと改めて思った♪o(^o^)o もしかしたら、私の中でイメージが変わったのもパラレルワールドが関係しているのかも知れないな♪( 〃▽〃)
低い傾斜角から日の終わりの残光が射し込むところは私もジオラマの町をイメージして書いたから、同じように感じてくれて嬉しい♪ この部分、確か二十回ぐらい書き直したと思う(汗)(笑)f(^ー^; ただ、まだ良くなりそうな気もするのよね♪ もっとも、それにはやっぱり前後の部分も変える必要が出てくるだろうし…まあ、大変だ(笑)ヾ(*T▽T*)
取り敢えず、自分の領分の中で出来るだけの事を尽くしてゆくしかないんだろうなあ♪
☆誕生日のお祝いコメントありがとう☆
(*^3^)/〜☆
果たして私はサンジェルマン伯爵かどうか…それは想像にお任せするとしよう♪ だだ、一つ… パン屋の「サンジェルマン」にはちょくちょく出現する、とだけ言っておこう(笑)( ̄∇ ̄*)ゞ あと、全身の表皮がソーラーパネルになっているのは間違いない♪太陽エネルギーを皮膚が吸収してる実感あるもの(笑) マクドナルドの虹はとても忘れがたいものだし、全員バンザイ絵日記はある意味、私の原点と言えるかも知れないなあ♪(*´∇`*)
冬になったら暗くなってきて、地震がきたらどうしよう・・病気になったらどうしよう・・とか考えてこんでしまうワケですよ(笑)だけど、不可抗力によって力を削がれたとしても、全部持っていかれるワケじゃない。諦めずに残されたチカラで歩いていけば、こんな綺麗な景色が見られるんだな・・そう思えた。ギリヤーク尼ヶ崎さんは今日も踊っているに違いない(^u^)
地平ギリギリの低い傾斜角から太陽の放つ、日の終わりの鋭い残光が、砂浜や防砂林、県道、公園や神社、民家など中途に在る様々な遮蔽物を通過して濾過され・・
↑この文章はそうめんみたいにつるつるっと読めちゃうんだけど、味わい深いよなあ・・ジオラマの建物に自分の手で茜色の光源を照射しているのを、俯瞰しているような気持ちにさせられる。匠の技が光っちょるね、流石やね!!(>▽<)ノ
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※お誕生日※※
※おめでとう※
※ございます※
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※・・花束
この物語を読んで病室から二重の虹を見た話や、登場人物全員の両手がバンザイしている絵日記の話を思い出した。TM様って太陽属性なんだな〜って改めて思った♪あと半分ガチでサンジェルマン伯爵なんじゃないか?と疑ってる(笑)TM様の新たな年が燦々としたものになりますように〜☆★☆★(>▽<)/☆彡
へぇ〜、何やら人生を感じさせるお話ですねぇ♪思えば、人生とは様々な壁を幾度も乗り越え、その先にある風景を眺めにゆく…そんな旅であるのかも知れません♪(〃^ー^〃)
お子さま方も、今はさほど感じるものは無いかも知れないけれど、色々な経験を重ねて大人になった或る日にふと、(そう言えば子供の頃…)と思い出す、そんなお話であるような気がします♪ 長文、一向に構いませぬ(笑) ありがとうございます♪ヽ(´▽`)/
「歩いていると遠くに塀が見える。近づいて行くと塀の高さがわかる。
塀にぶつかり 見上げると とてつもなく高い塀で 乗り越えられない!とあきらめ…
§立ち尽くす
§戻る
§とりあえず塀にそって歩き続けてみる
自分で選びなさい。
兎に角前をみてかなり遠くまで塀にそって歩き続けると塀が終わり
また前に歩きだす。
暫く歩いて振り返ると 塀の高さ大きさが確認できる。
しかし
自分はあの高い塀を越えてきた。
疲れても前をみて歩き続けていたら とてつもなく高く大きな塀のこちら側にきた。
兎に角 歩きなさい」
みのさんの物語を読んで 今年 子供達が言われていた話を思い出しました。
長いコメントを 失礼しました!
Thank You♪q(^-^q)
まあ、ロマンチックが服を着て歩いてるようなものだから、私は♪(^з^)-☆……ちょっと調子に乗って言ってみた(笑) そう言えば、関係ないけど去年までヤクルトにロマンて名前の投手がいたよん♪(明らかに不必要な情報)(笑)(/▽\)♪
海、呼び寄せたいよね……って、それ、バカボンの海ではないか*ヾ(*T▽T*) レレレのおじさんの格好をして落ち葉を掃き掃除したくなってきた♪
それと似た、美しさや、神秘的な情景が浮かんで来たよ(*^^*)
トキノっち めっちゃロマンチストやなぁ〜(´▽`人)
そうゆう場所いっぱいあったら嬉しいな♪
みぃうも海を呼び寄せよう。
西から昇ったお日様が東に沈む海♪
ありがとうこぜーますだ♪(*´∇`*)←途端に情緒がなくなる人(笑)
これ、実際にこうゆう風景を見たわけでは無いのですけど、恐らくはそれぞれの光景を、個別に断片的に、見た事があって、それらが頭の中(或いは心の中)で一つになったのだろうと♪ 秋の風景、切なく淋しい故に美しいのか、美しさ故に儚く哀しげなのか…。秋のセンチメンタルを楽しみましょう♪( 〃▽〃)
最近きれいな夕陽に出会えてないなぁ。
なんだかとっても夕焼け空に会いたくなってしまいました☆
この壁画は実際のものなんですか?
そこから生まれた物語?
それとも、それ自体がトキノワールド?
何れにしてもしみじみと素敵です(*´ω`*)
廃墟とか廃屋って暗に何かのストーリーを語りかけてくると云うか、物語性がありますよね〜♪o(^o^)o
で、瀬戸の日暮れ、メチャメチャ美しそう!(//∇//)
瀬戸の花嫁の歌詞が頭に浮かびました♪ ああ、情緒が深い…。 因みに、私がイメージしたのは……正解♪……慧音さんの云うように、凪いだ静かな海でした♪(*´∇`*)
そう♪ここ半月ぐらいで急に秋が深まってきたような気がして。風の冷たさとか日の短さとか。肌に伝わってくるセンチメンタルな街の空気に、久し振りにちょっと、しんみりした物を書いてみました♪(照)(/▽\)♪
おじいちゃんのかさついた肌、老犬の潤んだ黒い瞳……そんな風に想像を深めて読んで貰えるのはとても嬉しい♪(*´∇`*)
ありがとうございます♪(*´∇`*)
秋も深まり、街の空気もどこか少しセンチメンタルを感じさせるようになってきたので、そんな雰囲気に身を預けてちょっと寂しいような情景を描いてみました♪
確かに生きた証……その一言が胸に沁みます(/▽\)♪
実在するかどうかは…ご想像にお任せします♪まあ、実際に無いんですけどね♪←全然想像にお任せしてない(笑)ヾ(*T▽T*) あ、でも、個々の場面は実在するかも♪それらが心の中で結び合わされてこういう形になった…何かそんな気が(//∇//)
実際の風景でも心象の風景でも自分にとって忘れ難い大切なもの、確かにありますよね♪
夕日が沈む海、って言ったらウチの辺りだと瀬戸内海〜外国人からはしばしば河と間違われるアレ(笑)〜ですが、過去数回見た風景は場所にもよるものの、そらもう風情有って美しく……老人と犬の散歩する海もそんな感じの凪いだ海なのかな、と思いました。
実は伯爵さま的には私が思う日本海並にどっぱんどっぱん豪快に高浪キテる青い海なのかも知れませんが。←日本海某所の砂浜行った時、海風の荒さに防風(砂?)林の松が盆栽松の如く全部横にうねってるのを見た時には言葉を失いました……アレはアレでまた風情有って素敵でしたが(当地の日常考えると流石に怖い)。
読んでたらそんな空気をあじわったよーな
おじいちゃんのカサカサした大きな手や老犬のうるんだくろい瞳まで想像できる小説でしたー
なみだにじむー
素敵な風景が目に浮かびました
物寂しいけれど確かに生きた証のようで
とてもとても素敵です
きっと実在する廃墟跡にちがいない
忘れられない自分だけの特別な風景ってありますよね