話題:カミングアウト
あの出来事からちょうど1ヶ月…即ちそれは、昨日をもって時効が成立したと云う事に他ならない。
よって、私は今ここに全てを告白しようと思う。そう、あの事件の全容を…。
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その日の夕方、私が帰宅すると食卓に即席ラーメンを食べる父親の姿があった。どうやら、食べそびれた昼食を今食べているらしい。あと二時間も我慢すれば夕食なのだけれども…それはまあ、サイババの勝手なので良いでしょう。
私はさほど気に留めず父親の横を通り過ぎた。が、その時、食卓の下に置かれているゴミ箱の中の“或る物”が私の目に留まった。
“或る物”とは、即席ラーメンの袋。状況から鑑みるに、現在父親が食べている即席ラーメンが入っていた袋だと思われる。しかし、それはごく普通の事で特に気を引くようなものでは無い。ところが、そんな当たり前の光景が私の気を引いたのには勿論ちゃんとした理由が存在する。
そこで私は、父親に向かってこう訊ねた。
『どう、美味しい?』
すると父親はやや不思議な顔つきになりながらも、涼しく答えた。
『ああ…ちょっと薄いような気がするけど、サッパリした感じ…まあ、可もなく不可もなく、って感じかな』
『ああ、そう…それなら良いんだ』
『あ、お前が買ってきたラーメン、勝手に食べてしまってスマンな』
『いや、それは別に構わない』
そうか…。いや、私はハナから“可”などと云うものは毛頭も毛沢東も考えていなかった。兎に角、“不可”でさえ無ければ、もうそれで十分なのだ。
と云うのは…
その即席ラーメンは、実は何を隠そう六年前の物だったから。
六年前に“期間限定”で発売されたサッポロ〇番(醤〇味)を、私は食器棚の〇番奥にこっそり隠していたのだ。もしかしたら、いずれプレミアがつくかも知れない…そう考えての行動だった。
食べるつもりはさらさら無く、二十年後や三十年後のオークションに出品する算段だったのだ。
ところが、そんな壮大な計画は六年目にして破綻した。更にもう一つ、重大な問題が…そんなヴィンテージ物のラーメンを食べた父親の体調の心配だ。まあ、乾燥麺と粉末スープなので六年ぐらいは全く問題ないとは思うが、長い歳月を経た物に精霊が宿る事もある、もしかすると父親が食べた〇ッ〇〇〇番にもフリーズドライの精霊が宿っていたかも知れない。
私は余程、この事実を正直に話そうかと考えた。しかし、結局話さない事に決めた。と云うのは、もし自分が賞味期限(と恐らくは消費期限も)をとっくに過ぎた物を食べてしまった事を知れば、それを気にして具合が悪くなる、そんか事も有りうるだろうと思ったからだ。
それから1ヶ月の間、私は注意深く父親の様子を見守り続けた。
どうやら…大丈夫なようだ。ここまで来ればもう安心しても良いだろう。
そして私は、昨日を時効成立日と勝手に決めたのであった…。
☆☆☆
そんな本日の格言は勿論…
『知らぬが仏』。
もし、父親が食べていたのが即席ラーメンでは無く、ホットケーキだったら『知らぬがホットケーキ』などと軽く洒落込めたのですが、なかなか、そうは問屋が卸さないようで…。
そして、前回今回と二回に渡ってラーメンの話になってしまい、蕎麦やうどん、ペンネやリングイネなど他の麺類の方々には大変申し訳なく思っており…ここに懺悔させて頂きますm(__)m。