九州に古くからある某男子校には、松籟館というこれまた古い寮があり、通学か寮か選べるようになっている。冬休みに入り、各々が実家に帰省する中、実家には帰らず寮に残った3人の学生がいた。親が海外赴任中の菱川美国、両親が離婚協議中の為巻き込まれるのを避けた篠原寛司、そして毎年帰省しない依田光浩だ。
食事を作ってくれる職員もいない為、光浩と買い出しに行った美国は、帰寮途中で瀬戸統に会う。寮生ではないが、自宅が近く単身赴任中の父親と二人の為、自由になる時間が多い。3人が寮に残っていると知った統は、酒類を持って寮にやってくる。
懺悔したいのだと突然言い出した。人の懺悔なんて聞きたくなかったが、話すなら一つ嘘を混ぜろという光浩の提案を受け入れ、懺悔を聞く事となる。
自分の母親が風呂掃除をしている時、電気剃刀を小学生の統が風呂に落として感電死させたのだ、と。あまりの告白に早々に寝たが、翌朝、リビングルームにシーツを人間の形に縛って首吊り自殺をしている様に見せかける悪戯があった。怒った統だったが、3人共心あたりがない。
しかし昨日は統が来る前も、寝る前も、確かに鍵はかけていた。そもそも統はどうやって寮に入って来たのか?
昼から各自部屋で勉強しているところ、廊下を歩く音が聞こえた。廊下に出てみた美国は、学帽に学生服を着た人影が、サロンに向かうのを目撃する。サロンは密室となっており、他に出口はないはずなのだが、人影はなかった。
元々身体が弱かった岩槻が、サロンで本を読みながら眠る様に亡くなったのは、入学して半年した頃だった。兄も本学の卒業生で無理してでも通いたかった岩槻が幽霊になって寮に居着いていると噂になっていたが、美国は恐がり、寛司と一緒に寝ようかなとまで言い出す。
その日の夜は暇潰しにカードゲームを始めたのだが、マドンナのツアーを模写して、5回負けた人が、訊かれた質問に正直に答える【告白】か、出された命令を【実行】するかをしなければならないというルールを採用する。
ゲームをしながら寛司は、昨日の統の話のうち、電気剃刀を風呂に入れたのは統ではなく母親が目の前で自殺したのだろう、と。統は無表情で反論もなかった。
翌朝、寮に泊まったらしい統は光浩にたまに会いに来るおばさんとデキているのだろうと言い、光浩を怒らせる。一度だけそのおばさんを見た事があった美国だが、そんな事は考えた事がなかった。
光浩は博多の百貨店社長の妾の子であり、社長と実母が死亡した今、光浩は「あの女に飼われてるんだ」と言っていたと寛司から聞く美国。光浩の生い立ちについて考えていてゲームに負けた美国は告白を選び、彼女と別れた真相を話す羽目となる。
幼い頃、父の不倫相手に誘拐された事のある美国は、ずっと優しかった女が豹変し、額を爪で引っ掻かれたトラウマから、女が怖くなっていると話す。美国の話を聞いていた光浩は、岩槻と待ち合わせをしていたのは美国であろうと言い出す。
『ネバーランド』
著者
恩田陸
発行元 集英社ISBN 978-4-08-747577-7
以下、追記で感想なので、ネタバレする上に主観入ってます。読んでない方や苦手な方はブラウザバックでお願いします。
どこかの部活が持ち込んでいたホットプレートを探しに、校内を二手に別れた4人。岩槻が美国の事を好きで、だからこそ呼び出しをすっぽかしたという美国に、光浩は、俺でも行かなかったと思うと言う。年明け前最後の出勤日だったらしい教職員により、ホットプレートは既に押収されており、特別に貸出してもらえる事となったので、4人は食材を買い出しに行く。するとそこには寛司の両親が来ていて、常日頃から親ではなく人間として尊重してくれと自分達は言う癖に、寛司の寮には簡単に入ろうとする事に我慢ならなかった寛司。
「俺の世界はここだけだ。俺の人生も尊重してくれたっていいじゃないか。ここには入ってこないでくれよっ」とキレる。
普段、おおらかで話しやすい雰囲気作りには欠かせない寛司が、何故あんなに怒っているのか、恐らく寛司の両親は理解出来ないであろう。親の論理を、子供としての論理で大人の問題を解決する事を迫るのはフェアじゃない。だから怒っているのだ。
翌日、久し振りに晴れたので皆でテニスをする事になった。楽しくやっていたつもりだが、普段は笑顔の多い寛司が無表情で打ってくるラリーは、疑問ばかりが浮かぶんだ。テニスを終えてゲームをしていた4人。恐いものの話になり、光浩はあの女が恐いと話し出す。父と母はずっと付き合っていたが、父の百貨店経営が傾きかけ、父は政略結婚をしたが、父とあの女はソリが合わず、結婚して一年後また、父と母は不倫関係となった。そして光浩が産まれ、中学1年の頃、父母は心中してしまう。施設に行く事になりそうだった光浩を引き取ったあの女は、父母の責任はとってもらうと光浩に夜の相手をさせられていた、と。それが嫌で、でも高校も大学も行きたくて、必死で寮のある高校に入る為に猛勉強した事も全て。あまりの壮絶さに止めようとしたが、光浩に抑えられる。好奇心はこんなにも人を傷付ける。当たり前の事も今、実感する。
統の父親がやってきて、航空券を置いていった。聞けば統は大晦日に父親の仕事の都合で、アメリカへ渡るのだと言う。今年の寮は3人だったはずなのに、いつのまにか4人でいる事が当たり前になっていた。その1人が欠けてしまう寂しさと共に、初日に起こった首吊り人形について、誰がやったのかと話題になる。
あの夜、統に悪戯したくてシーツを人間に見立てて人形を作ったのは、寛司だったが、誰も吊るしてはいない。そして統から、寮のサロンには秘密の抜け穴があり、岩槻の幽霊騒動も出入口を知っている学生が使って居るだけというオチだった。
寛司が作った人形を、統が起きた時に目につく場所に固定した光浩。案の定、うなされていたからか、起きてすぐその人形が目に入った統は、寝惚けて母だと思い攻撃。クタッと倒れないように首を緩くくくっていた為、統の攻撃で紐が締まり、首吊りのようになってしまった。
アメリカに発つ統の為に、友達の写真を持たせてやろうと撮っていると、当の本人がやってきて急いで現像に向かう光浩と統。すると、見るからに高級そうな車が学校につけてあり、弁護士の男が美国と寛司を見つけて寄ってきた。光浩が買い物に出たと話すと、待っているつもりらしい弁護士を見つける光浩。
光浩の後見人である弁護士は、あの女が亡くなり、既に葬儀も済ませたと伝えてきた。あの女からの手紙には“このクズ女の屍を踏み越えてください。あの男の弱さを笑ってやる事が出来る様な人間になってください”どうか分かってやってくれという弁護士に、光浩はだからいいのかよ?と言う。
「いつもそうだ。大人は皆そうだ。全てが終わってから、俺の知らないところでやりたい事を全部やってから、許してくれって言うんだ。いつも居なくなってから俺を苦しめる。こっそり何年も溜めておいて、後から一纏めにして打ちのめす。俺がどんなに傷付くのか、どんなに苦しむかも知らないで。誰も説明なんかしてくれない。どういう事なんだって話を聞こうと思っても、いつもその時にはもう誰もいない。みんな自分の事しか考えてない。誰も俺の事なんかこれっぽっちも気に掛けちゃいないのに、俺には自分の事をわかってくれって言う」
これからは弁護士が光浩の後見人となり、あの女から解放された光浩。そんな光浩を見て、光浩は怒るかもしれないけれど、光浩の周りはみんな、光浩を対等だと思って甘えたりしていると気付く寛司。でもそこで無い物ねだりしないのは偉いなと思った。
翌日、統を見送って3人は年越しをする。年明け、統から年賀状が来て、将来ラボを作ったら、光浩が経理をやってくれと書いてあった。あいつと会社なんか作ったら心臓が幾つあっても足りないぜ。と言いながら笑う光浩。
後書きにて、4人についてこんなことを書いていた。
統:書いていて楽しい
光浩:過去を背負わせて済まなく思ってる
寛司:私が男だったらこんな男になりたいという理想
美国:良い奴だがまともすぎて、書いていて物足りなかったかもしれない
ハードカバーの後書きには、4人が大人になったら…と想像して何年か後に書きたいと言ってるが、文庫になった頃の後書きには、稚拙だと書いてあり、もう4人との距離が遠くなってしまったと書いてあったのが悲しかった。すごく面白かったから、続編読みたい。