小学生の時、初めて会った異母兄妹の研吾は、その頃からずっと、同じ彼女と付き合っていた。そのまま結婚するのだと思っていた矢先、彼女から研吾が行方不明になったと連絡を貰い、私は研吾の彼女と、研吾が取材旅行に行くと行っていた奈良に行き、研吾の足取りを追う。
何度かしか会った事のない研吾について、私より詳しいはずの彼女を見た瞬間、私は彼女が別人のように思える。こんなに美人だったろうか?
しかし、彼女と会ったのも思春期の何年も前の事だから、女性は美しく変化していくものだと気に止めない。
兄が回っていたであろうルートを彼女と巡る途中、彼女の運転免許証を見てしまった私は、彼女が彼女の親友である事を知る。親友を問い詰めると、研吾の彼女は、親友の家から帰る途中、事故に遭って亡くなったと聞く。
何故、私に嘘をついてまで奈良に来たのか。私は親友と兄を探すべきか迷う。
『まひるの月を追いかけて』
著者
恩田陸
発行元 株式会社文藝春秋
ISBN 4-16-322170-0
以下、追記で感想なので、ネタバレする上に主観入ってます。読んでない方や苦手な方はブラウザバックでお願いします。
兄と彼女は別れていた事や、兄と彼女と親友の3人で、依存し支え合いながら生きてきた事を聞く。
兄の母は変わった人で、兄は子供の頃から必要以上に人の顔色を見て育ったせいか、この世の中は生きにくかったようだ。
親友との旅を続けるか迷う私達の前に、兄が現れる。兄は出家するのだと言い、親友に何故私を巻き込んでいるのかと怒る。
彼女と別れる原因となった、兄の心変わりの相手が私だと疑っていた親友は、私を旅のお供にする事で必ず兄は自分達の前に現れると思ったのだと言う。全く身勝手な言い分だが、筋が通っており納得した私と兄は、何年か振りにちゃんと話をする。
親友は私が兄の想い人だと思ったまま長年の不摂生が祟って持病を拗らせ亡くなってしまい、親友は私に兄が昔送った手帳を残す。手帳には兄が母との暮らしの中で腐らずやっていけた糧となった言い伝えばかりが書かれていた。
兄の初めて会った時、私が幼稚園で習ったばかりの昔話を聞かせた事から、そういった伝説を集めるようになったのだという兄。親友が亡くなった事で、兄妹水入らずで話をしていくうちに、私は気付く。兄は、私の母がずっと好きなのだ、と。
兄が私の母を見た時、そして私の母が兄を見る目、それは、家族に対するものとは違う、熱の籠った眼差しだったのだ。
どんどん引き込まれていった。親友が私を兄が好きなんじゃないかと、本当に勘違いしていると、私も途中まで勘違いして読んでいた。すっかり騙された。
恩田陸さんは近い距離の人間同士には、簡単に愛が生まれると思っているのかなぁ。男女の友情がどこにでも成立すると信じてる子供ではないけれど、恋愛じゃなくても、情ならどこにでもあるのに。