ちょっと意識飛んでたらしくて、目が覚めたら森に倒れていた。
のどかだ。色味が春のコヴォマカに近い。地面を覆う草も木々もまだ若い緑で花の色も淡い。日差しの割に暑くはなかった。標高が高いんだろうか。頭の上を鳥が飛んで行った。平和だ。
でも、ひとりだ。
あたしは縋り付くみたいに剣を抱えてちょっと泣いた。
「……行こ」
鼻を啜って立ち上がった。この辺に誰かいるといいんだけど。クラスメイトでなくていい、近くの村人でも文句言わないから、誰かいないとあたしおかしくなる。
そうして一番に見つけるのがあの薄青ってのがあたし不幸すぎると思った。
おまけにあいつが狙ってるあの後ろ姿、服と背格好から察するに、
「ピスタチオ!」
叫んだのと駆け出したのは同時で、振り返ったピスタチオが後ろの薄青確認して逃げ出したの見て、安心するのと落胆するのを同時にしてみた。
(どんだけ置いて行かれたくないのあたし)
薄青が振り返って、にへら、と笑った空洞が上向きに広がった。冷える腹の内を叱咤する。
下から振り上げた剣の切っ先が叩き付けられた薄青の腕で地面に縫い止められた。舌打ちして柄に置いた手を支点に足を振り上げてそのまま回し蹴り、丁度当たった薄青の頬の感触が人のそれと同じでまた泣きたくなった。
それでもどうにか振り抜いた足の軌道に沿って薄青の体が傾く。着地して、ちょっと無理して剣を抜いて、薄青の腹を貫いた。
ずん。
重たくて自分の手もちょっと切れた。
ぽっかり空いた目と口が真ん丸で、ひゅうひゅう音がすると思ったら過呼吸になりかかってるあたしの喉だった。
足元がふらついて二、三歩下がって、そしたら薄青が傷口に吸い込まれるみたいに消えた。
からん、
剣が落ちたのと同時にあたしも崩れ落ちてその場で吐いた。なんだかんだで夕飯食べてなかったから水っぽいのしか出なかった。
(血…出なかったな)
自分の赤い血と吐いたものだけで汚れた両手を見て思った。
「ちょっとそこのお嬢さん」
声かけられて、振り返ったら壺があって引いた。
「だいじょーぶですか?」
「……………つぼがしゃべった」
「あー、あーあー、余所のプレーンからのお客さんで?」
逃げたいけど動けないあたしの目の前で、怪奇現象がゆらゆら揺れていた。
「いやぁ、プレーンによっては、私らポット族みたいな種族がいないところもあるらしくてね。そーゆーところの人は、絶対驚くんですね。だいじょーぶ、何にもしませんよー?」
ゆらゆらしてる壺には、よく見ると目と口があった。
びしゃっ
「冷たっ」
壺から水が零れて足にかかった。え、冷たいんだけど何これ冷蔵庫にでも入れてあるわけ。
「あーすいませんねー、こないだの雨を貯めてあるんですが、どーにも頭が重くて」
「いやどこまで頭だよ!」
言いながら倒れかかった壺を支える。って触っちゃったー! ていうかあたし手、
「あ……ごめん」
触ったところがあたしの吐いたもので汚れて、謝ったら「いいんですよー」と首(?)を振ろうとしたらしい壺がまた倒れかかって、また支えてまた汚した。
「あのねぇお嬢さんね、よかったらこの雨水使いなさい」
「え?」
「その手と顔。正直ね、水が重くて参ってるんですよ。ついでに体を洗ってくれると嬉しいんだけど」
壺の顔がにっこり笑った。
言われるまま、手を洗って顔を洗って、壺(本人はポット族と主張した)の体を洗って、見せたいものがあると言ってゆらゆら揺れて行った。…歩けるんだ。ていうかなんで移動できるんだ。
迷って、剣に手を伸ばして、迷って、結局拾ってポット族の後を追った。
あ、しまったピスタチオ。悲鳴聞こえないから大丈夫だろうけど。