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:†四月馬鹿企画混合夢奇譚・参†:




*弱ペダと獄都事変の混合夢小説です。
*獄都夢主が弱ペダ世界で生活します。
*旧箱学三年生で基本荒北君寄りです。
*荒北君と面識有で正体もバレてます。
*今回の出演は新開君。忌瀬視点語り。
*新開君からウサ吉の事で色々聴く譚。



【:†言ノ葉無き命の声を聴く譚†:】



(命の秒針を刻みながら鼓膜を揺らす)
(小さく小さく鳴り響く温もりの鼓動)



言葉を介せないモノが在る。
言葉を持たないモノが居る。

声無き声の向こう側に佇む。
そして傾聴を望む者が在る。

「――春愛は、動物と話せるのか?」

「ん?」

私を『人間(仮初め)』の名前で呼ぶのは、ウサ吉に餌をやっていた新開君だった。

唐突に振られたその問いに、私は小首を傾げる。疑問も有るが、同時に如何答えるべきかと言う対応を思考しての反応だ。

今の私の場合、両方の答え方が出来る。

荒北君からの発言を経由して、いつからかオカルト系女子と噂されている私は、所謂『霊感持ち』と認識されているらしい。

そもそも。『霊感』云々以前に、人間に変化している獄卒なのだから、意図して感知しようとしなくても、否応無く人外魑魅魍魎を感知して仕舞う癖が付いている。

私自身は公言していないが、そう言った感覚を人間が『霊感』と示すのなら、人外魑魅魍魎側は否定も反論のしようも無い。

「う〜ん、どうだろう。私のは、人よりも見聞き出来るモノが多いってくらいの感覚だから。動物と話せるかどうかって言うのとは、また違うんじゃないかな?」

「そっか。おめさんなら出来るんじゃないかと思ったんだけどなぁ」

出来無くは無いが、私はやや濁し気味に答えを曖昧にして、敢えて首を横に振る。
それに対して、新開君は残念気味に苦笑を浮かべた。その内心は大体察しが付く。

目の前の心優しい少年は。
贖罪の魂と共に在るのだ。

「もしかして『ウサ吉と話せれば良いのにな』とかって思った?」

「……ああ、少しな」

淡い悲しみの中に苦い罪悪感が浮かぶ。
普段飄々としていて気さくな新開君は、その実心根が優しい子だ。誰かの気持ちを察し、汲み取る事に長けている。逆に言えば、誰よりも繊細な子なのかも知れない。

「過ぎた願いは、身を滅ぼすよ」

気持ちは分からないでもないけれど。
そう続けて、私は新開君に釘を刺す。

元来優しい人間は突け込まれやすい。
揺れて壊れた部分が有るなら尚更だ。

目の前の心優しい少年は。
悲しい瞳で命を見るのだ。

「……新開君。少し、話をしようか」

ウサ吉に餌をあげながら、話を続ける。

「この世界に『新しいモノ』が生まれる度に、『昔から在ったモノ』は、少しずつ少しずつ、この世界から減って行ってるんだって。だから、昔からずっと残っているモノは、今では大分少ないんだそうだよ」

「……それって絶滅危惧種の話?」

「それも含めた色んなモノ。時代の中に文明が生まれて、その中で埋もれて行ったモノ。意図的に消されて仕舞ったモノ。淘汰されて仕舞ったモノ。自分から忘れて仕舞ったモノ。誰かが隠したまま見付からないモノ。自分から手放して仕舞ったモノ。それら全部が少しずつ、風化して行くの」

「文化遺産とか?」

「動物の言葉もそうだよ。神様が国造りをしていた頃まで遡ると、動物は普通に言語を介していたんだよ。今では擬人法としてしか表現されていないけど。お伽話や昔話で動物が喋るのは、神格化された動物やその遣いが言葉を使っていた名残だよ」

「じゃあさ。昔使えてたんなら、何で今は喋れなくなったんだ?」

「多分。必要無くなったからだと思う」

餌を食べ終えたウサ吉の背を撫でて、今の現世よりも遥か大昔の風景を思い返す。

「自分たちの住処を追われて。人間と共存出来なくなって。人間たちから離れて暮らして。自分たちの縄張りと種を守る事に命を費やして行く中で、動物は言葉を必要としなくなって仕舞ったんじゃないかな」

現に一部の種を除く多くの動物が、その術を放棄した。子孫への言葉の継承を棄て、忘却の道を選んだ。種の存続を選んだ。

「だからね、新開君。無い物ねだりは駄目だよ。欲しがり過ぎても駄目なんだよ」

欲張りは駄目だ。偏っては駄目だ。
平衡を保て無くなった天秤は歪む。
歪み。折れ曲がり。崩れて落ちる。

だから、今有るもので補わなければならない。過ぎた事は元には戻らない。無くなって仕舞ったものは、帰って来ないのだ。

「動物に言葉は無くても、温もりが有るでしょう。ウサ吉は私たちと話せないけれど、これも確かな命の言葉だと思うよ」

指先から伝わる鼓動と温もりに、私には宿っていない、確かな命の形を感じる。

「……なぁ、春愛。俺は、ウサ吉にちゃんと向き合えているかな?」

「うん。ウサ吉を見れば一目瞭然だよ」

不安気な新開君の問いに答えながら、ウサ吉を抱き上げる。可愛らしい円らな瞳は、一点の曇り無く私の顔を映している。

「言葉を介さない分、動物は本能で気持ちを察するんだよ。真っ直ぐに。純粋に」

新開君にウサ吉を預けて、ウサ吉の安心した気配に、自然と空気が柔らかくなる。

「ねぇ、新開君。新開君にとっては贖罪なのかも知れないけれど、君がウサ吉に注いでいる愛情は、ウサ吉にちゃんと伝わっているよ。そうじゃなかったら、ウサ吉がこんなに優しい表情をするはず無いもの」

贖罪の義務だけでは、愛情は示せない。
逆に言えば、真摯に向き合っているからこそ、相手に想いが伝わるのだと思う。

「……そっか。ありがとうな、春愛」

幾分か穏やかになった新開君の雰囲気に、亡者への処罰とは異なる、生者としての贖罪と、その救済の形が見えた気がした。


言葉を介せないモノが在る。
言葉を持たないモノが居る。

声無き声の向こう側に佇む。
そして傾聴を望む者が在る。



(言の葉と同じ重さを内に抱きながら)
(その鼓動は確かな命を紡ぐ声となる)



【:†言ノ葉無き命の声を聴く譚†:】



《続》





>>>>次回予告



他人とは違うモノが見える世界。
人間では無いモノが見える世界。

ほんの些細な処から色彩は溢れ。
重なり合った視点から光が綻ぶ。


「福富君は、私が怖くないの?」

「怖い? 何故だ?」


ほんの些細な隙間から声が零れ。
滴り落ちた先から波紋が広がる。


「普通と違うのは、怖い事でしょ?」

「違っている奴は強い。他人と異なる意思を持つ者は、その意思が強いからだ」


ほんの些細な音色から心が震え。
強くなる意思の在処を指し示す。

他人とは違うモノが見える世界。
人間では無いモノが眺める世界。



《次回》
【:†異なる強さと重なる色の譚†:】



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