*弱ペダと獄都事変の混合夢小説です。
*獄都夢主が弱ペダ世界で生活します。
*旧箱学三年生で基本荒北君寄りです。
*荒北君と面識有で正体もバレてます。
*今回の出演は東堂君。忌瀬視点語り。
*若干東堂君の過去を捏造しています←
【:†記憶の底に沈んだ神様の譚†:】
(遠くから近くから大切な誰かを想う)
(例え、その誰かには感じられずとも)
現世には、神様に好かれる人間がいる。
しかし、神様に好かれた人間は短命だ。
恩恵に耐えられず、自ら天命を閉じる。
或いは、神様自身が人間を連れて行く。
気に入った人間を自分の領域に手招く。
歴史の聖人や偉人が短命な一例である。
或いは、血脈の呪いと称する例もある。
特定の神様を祀り子孫繁栄を祈願する。
しかし、神様との約束事は放棄不可だ。
祀られなくなった御神体は人間を祟る。
培って来た恩恵が大きければ大きい程。
人間は恩恵に報いる結果を要求される。
祀り上げている神様の種類にも依るが。
基本的に神様との契約は破棄出来無い。
土地神や氏神の信仰の希薄な現代の世。
血筋や家柄がそう尊ばれなくなった今。
それでも受け継がれる血脈は存在する。
土地と家と受け継ぎそれを生業とする。
現に目の前にいる少年がその当事者だ。
しかし、幾つか腑に落ちない点が有る。
前々から気掛かりだった事も考慮して。
良い機会だと思い、私は彼に質問した。
「――ねぇ。東堂君は、いつから『山神』を名乗ってるの?」
「ん? 何だね喜瀬ちゃん。そんなにオレの輝かしい武勇伝が聞きたいかね?」
私の質問に対して綺麗なキメ顔を浮かべる東堂君は、ビシッと指を指して自信満々に言い放つ。溢れんばかりにキラキラしたオーラを纏っている東堂君に苦笑して、私は首を横に振る。聞きたいのは別の話だ。
「ううん。武勇伝はまた次でいいや」
「む? そうか。それは残念だ。武勇伝で無いならば、喜瀬ちゃんはオレにどんな話をご所望なんだ?」
「だから、いつ頃から『山神』を名乗っているのかなって」
「ロード(自転車)にまたがった、その瞬間からだよ」
得意気なキメ顔で答え、東堂君はキラキラと再び指を指す。もう少し詳細が知りたいと思考し、私は再度質疑を投げ掛ける。
「具体的には?」
「中学二年の頃だ。同じ中学の友達に勧められて出たレースで山岳賞を取ってな。それが本格的にロードを始める切っ掛けになったんだ。と言うか、喜瀬ちゃん。結局オレの武勇伝になってしまっているぞ?」
得意気に語りながらも――その反面、何かを感じたのか、東堂君は小首を傾げる。
「あ、うん。『山神』を名乗っていて、何か『障り』が無かったのかと思って」
「む。『障り』か。特にこれと言って無いな。それで、その『障り』とオレの『山神(異名)』が、何か関係が有るのか?」
「名前は大事だよ。例えそれが肩書きや異名でもね。『名は体を表す』の字の通り、その人の形や在り様を表すものだから」
現に私も、研修で現世で暮らすに当たって『人間としての名』を付与されている。
人間としての概念を高める反面、獄卒としての存在を薄める、一種の『封印』だ。
「ただ。人間が安易に神様の名を冠すると、『障り』が出るから。ちょっと心配になったんだんだけど、東堂君はそう言った感じが無いから、逆に不思議だなぁって」
「ふむ、幾分大袈裟に聞こえるが、名前一つでそこまで影響が出るものなのか?」
「うん。ごく少数の例外を除いたとしても、普通、人間が神様を名乗れるのは、鬼籍に入った時だけだからね。死んで人間じゃなくなるから、その為の戒名な訳だし」
だから。名前(主に本名)に神様の字を当てるのは暗黙的に忌避されているのだと。
私がそこまで話すと、東堂君は神妙な面持ちで話を続ける。常時賑やかな面を持つ彼は、その実決して軽率な性格ではない。
「『山神』の名を軽んじてはおらんよ。現に山には敬意を払っている。でなければ、例えどんなにクライマーとして秀でていたとしても、『山神』と名乗れはせんよ」
「知っているよ。君の山への意気込みはいつだって誠実だもの。とても大事にしているって伝わっているよ。けど、私の見立てだと、多分それだけじゃ足りないんだ」
何が『契機』が有ったはずだ。
何か『経緯』が有ったはずだ。
でなければ、ここまでの才を天から授けられて尚且つ『何の実害も伴っていない』のが、逆に不思議で仕方が無い。怪異ならまだしも、成熟していない人間の少年が。何の『障り』も無しに、現世に在る事が。
「……ふむ、そうだな。その答えになるかどうかは分からんし、喜瀬ちゃんの好む怪談に近い話しになると思うが。昔山に登っていた時に、実はこんな事が有ってな」
何か納得の行く答えは無いものかと。
そう思考していると、東堂君は何かを思い出したかの様に、静かに話を切り出した。
東堂君曰く。
小学校の頃は、良く親御さんに山に連れて行かれていたそうだ。彼の実家は温泉宿を営んでいる為、あまり家を空けていられないのも有り、その大半は日帰りだった。
ある日。親御さんと山に来ていた東堂君は、迷子になった。何が切っ掛けだったかは忘れてしまったそうだが、それは休憩中ではなく、山を登っている最中だった。
親御さんを呼びながら、東堂君はしばらくその場に留まったが、ふと、誰かに呼ばれた気がして辺りを見渡すと、視界の端に小さな祠を見付けた。祠の前に行くと、東堂君は蜜柑をお供えして、手を合わせた。
山に入る者は、山の神様に挨拶をするのを忘れてはならない。そう親御さんから教わっていた彼は、それに倣って挨拶した。
すると、東堂君の傍に少女が現れた。きちんとした着物姿の少女に彼は驚いたが、不思議と恐怖は湧かなかったらしい。今なら、着物と言う歩き辛い格好で山に入る者等いないと分かるが、その少女の存在を、当時の彼は自然と受け止めていたと言う。
そして。少女は東堂君の登って来た道を静かに指差した。まるで、そちらに帰り道が有る。そんな確信の様なものが有った。
ほんの一瞬だけ不安がよぎったが、彼は少女に一礼すると、来た道を戻る様に山道を小走り気味に歩いた。歩を進めて行くと、道の途中で明るく開けた場所に出た。
しかも。そこには、はぐれてしまった親御さんがいた。途端何処に遊びに行っていたのかと親御さんに叱られたが、東堂君は有った事を親御さんに包み隠さず話した。
しかし。親御さんは首を傾げて言った。
その山道は分岐の無い一本道で、途中途中にある開けた場所を除けば、比較的簡単に登って来られる道なのだと。その証拠に、東堂君が歩いて来た山道は、無くなっていた。来た道を戻ると言う事は下山を意味するが、東堂君が辿り着いたのは頂上付近の休憩上だった。いまいち現状が把握出来無い東堂君に、親御さんはそれ以上の言及はせず、二人は山を下りたのだと言う。
「あの時に出会った少女が何者かは分からんが、無事に帰してくれた礼をしに行こうと思ったんだ。しかし、それが何処の山だったのか。オレを山に連れだってくれた親に聞いても、不思議と分からず仕舞いでな。下手な詮索はしない方が良いと分かるが、せめて礼くらいは言いたかったな」
当時を思い出して、東堂君は何処か寂しそうに苦笑する。その少し後ろから、微かに東堂君とは異なる神々しい気配を感じて、私は僅かに視線だけをそちらに移した。
そこには、着物を来た少女がいた。
向こう側が透けている少女がいた。
一目で神域の柱なのだと理解した。
少女は私と視線が合うと、淡く微笑み、口の前に指を立てて『他言無用』を示す。
私はそれに視線で応対すると、少女は一度東堂君を見遣り、優しく笑んで消えた。
「……大丈夫。東堂君がそうやって、その子を想って覚えていてくれるなら。きっと、その子も分かってくれると思うよ」
「そうか? 今更だが、オレが直に会いに行けずとも、通じるものだろうか?」
「うん。目には見えないからこそ、その見えない部分の事柄を深く受け取る事が出来る。君が会ったのは、そう言う子だよ」
『山神』を冠する少年に憑いたモノは。
守護霊ならぬ山の守護神だったらしい。
守護神が彼を護る者と決めたのならば。
私の心配は杞憂で幕を閉じるのだろう。
(記憶の糸を手繰り寄せて辿り着く心)
(永久に在るモノはそれを救済と呼ぶ)
【:†記憶の底に沈んだ神様の譚†:】
《続》
◇
>>>>次回予告
言葉を介せないモノ。
言葉を持たないモノ。
声無き声の向こう側。
そして傾聴を望む者。
「春愛は、動物と話せるのか?」
その心優しい少年は。
贖罪の魂と共に在る。
「ウサ吉と話せれば良いのにな」
「過ぎた願いは、身を滅ぼすよ」
その心優しい少年は。
悲しい瞳で命を見る。
《次回》
【:†言ノ葉無き命の声を聴く譚†:】
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