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第六話『first aid from』
「じゃあ、ちょっと沁みるかもしれないけど、じっとしててね」
「……すいません」
図書室のポスターを作製中、うっかりとカッターで指を切った僕は、一緒に作業していた先輩に連れられ保健室へとやってきていた。
目の前には、僕の指先を相手に不器用な手つきで消毒液を塗る先輩の姿。本来なら保健医がするべき仕事なのだけれど、一体どこをふらふらしているのかここにはいない。
「というか……先輩。別にそこまでしなくても大丈夫ですよ」
血はなかなか止まってくれないものの、怪我の程度だけで判断すれば大したものじゃない。
しかし先輩は、
「だめ。大丈夫じゃありません」
「……本当に大丈夫ですよ」
「大丈夫じゃありませんっ!」
と強く言い、治療に勤しむ手を休めてはくれない。
こういう時の先輩はなんというか……もの凄く頑固だ。僕がどんなに大丈夫だと言ったところで、聞き入れてはくれないだろう。
「……ハルくんてさ、いつもそう、だよね」
「え?」
消毒液の色に染まった僕の指の上でさまよう絆創膏に目を落としたまま、ポツリポツリと先輩が言う。
とても、とても痛々しい声音で。
「血が出てるのに大丈夫だなんて言うし、けがした時の第一声も『ポスターが汚れるのは困りますね』だったし。なんか、なんていうか……ハルくんは、自分を大事にしなさすぎるよ」
「そんなこと……」
「あるよ。いつだって、そう。ハルくんは迷惑をかけようとしてくれない」
「………………」
「迷惑をかけようとしないのはいいことだけど、でも、それってすごく心配なんだよ? 心配で……すごく、辛いよ」
「せん、ぱい」
「いいんだよ、私にくらい迷惑かけたって。だから、心配かけないで。ね?」
「……はい。すいませ――いえ。ありがとうございます、先輩」
絆創膏を貼り終えたからか、それとも僕の言葉に込めた思いが伝わったのか、そこでようやく先輩は「えへへっ」と笑ってくれた。
じんわりと指が熱く、温かくなっていく。
嫌な気は、しない。
「あっ、ごっごめん! 絆創膏、よれよれになっちゃった……は、貼り直したほうがいいかな?」
「いえ……大丈夫です。このままで」
「このままでって、よれよれでいいの?」
「いいんです。だって――」
(もう、痛くなくなりましたから)
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性 別 | 男性 |
誕生日 | 1月24日 |
系 統 | 普通系 |
血液型 | A型 |