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刹那ーもしも…ー

ふわふわしてて、
一瞬何が起きたのか、わからなくて。

あ、そうだ、忘れ物。って思い出した瞬間、
目の前の彼女が
今さっきまで自分の机で、笑ってたことも
同時に思い出して。

がらにもなく恥ずかしいような、
くすぐったいような、感覚で。

咄嗟に出た言葉が、
「忘れ物取りに来ただけだよ」

扉の前にいる彼女の脇を通り、
ドキドキしながら、手に変な汗を感じながら、
自分の机から教科書を取り出して、
しっかりバックにしまって。

何か、なにか言いたい。
でも何を言うんだよ、何て声かけるんだよ。

扉の前でこちらを向いてる彼女を見て、
頭は最高速で回転しているのに、言葉がでない。

どうしよう、どうしよう。
一秒一秒が、すごくスローだった。
一歩一歩が、すこぐ重たかった。

彼女の脇を通り過ぎるとき、
必死に絞り出したことばが、

「それじゃあ、気をつけて帰れよ」

笑えてたかな、少しは恰好良かったかな。

もやもやと、ドキドキと、
恥ずかしいのと、よくわからないので、
胸の辺りが締め付けられてる感覚。

自分がにやにやしてる感じがして、
ほっぺをパンパンと叩く。

早く帰って課題やらなきゃ。

刹那ーもしも…ー

どきどきして、時間が止まった感じがして、
会えたことが嬉しくて、
声をかけることができて嬉しくて、

たまらないくらい、顔が熱かった。

何してるのってそりゃあ、
こんな時間に忘れ物かなにかだって、
考えたらすぐにわかるのに、聞いてしまった。

そのあとは、至極普通だった。

金井くんは、教科書忘れてきたって、
あたしがさっきまで座ってた場所に向かう。

そして慣れた手付きで教科書を取り出し、
それじゃ、気をつけて帰れよって、
少しぎこちない笑みで声をかけてくれた。

たった5分くらいのはずなのに、
それがすごくすごく長く感じて。

たった、それだけなのに、
すごくすごく、嬉しくて。

今更、ドキドキに気付かない振りして。
ドキドキなんか知らないふりして。

さて、おうちに帰ろうかな。



鼓動(もしも……)


演劇部、セリフなんてもらえない。
でも。一生懸命やるだけなんだよ。
だって、それしか知らないから。

だけど、
あの子より上手く歌いたい。
この曲は、上手く歌いたい。

いつからだろう、この恋歌に、
すごいこだわり出したのは。

演劇部の練習終わり、
毎日のように、教室で練習してる。

今だけは、彼と近付ける。
こんな時くらいは、許してください。

いつも通り、いつもみたいに、
彼を思って、この歌を歌う。

何故かいつも、彼を想うと、
笑みが溢れてしまう。

届いてほしい。
この想い。あなただけに。
気付かなくてもいい。
でもあたしは、想ってる。
あなたのこと、想ってるよ。

よし。もう、こんな時間だから、
帰らなきゃ。

前扉は鍵が掛かってるから
後ろの扉から出ないといけない。

ガラッと、扉を開けたら、
頭を、抱えた彼がいた。

「え。え?か、鎌井くん、何してるの?」

鼓動(もしも……)


「あ゛ー疲れたーっ!!」
剣道の練習終わり、汗だくになりながら、
仲間たちと、帰宅の途に着いた時、
教室に忘れ物したのを思い出してしまった。

最悪すぎる。
でもあれがないと課題が出来ない。

「ごめん、俺、1回教室戻るわ」

仲間たちにバカだーと笑われながら、
急いで向かう。だって夜の教室だ。怖すぎる。

ふと、歌声が、聞こえた、気がした。

あれ?そらみみ?

「取り敢えず怖すぎるから早く教室行こう」

でも次第に大きくなる歌声。
ここまではっきり聞こえるなら幽霊じゃないな。

妙な確信を持ったとき、
歌声の元が自分の教室だとわかった。

(……誰だろ)

後ろの扉のガラスから、覗いた瞬間、
心臓が飛び出すんじゃないかってくらい、
ドクンッと高鳴った。

ドクンッドクンッ
聞こえてしまうんじゃないか、彼女に。

いつも謝ってる、彼女に。

なんで、こんな時間までここにいるんだよ。
なんで、歌ってるんだよ。
なんで、俺の、イスに、座ってるんだよ。
なんで、笑ってるの?

途端に自分の顔が赤くなるのが、わかる。
あ。やばいやばいよ。これはやばい。
どうしよう。教科書ないと課題出来ない。
でも邪魔なんかしたくない。
歌の意味なんかわかんないけど聞いていたい。

うおーっと頭を、抱えたとき、
ガラッと扉が開いて、彼女が、出てきた。

「え。え?か、鎌井くん、何してるの?」



もしも、こうだったら。


明るくて、
お友達が、たくさんいて。

あたしなんかとは、正反対の人。

いつもにこにこ笑ってる。

憧れるなあ。なんて思っても、
あたしには、到底出来っこない。

本の合間に横目で窺い、
少しだけでも、笑顔をみてる。

いつかお話、出来る日がきたら、
なんでいつも明るいのかとか、
笑顔でいられる秘訣とか、聞いてみよう。

みんなと同じように、
お話、してくれたらだけど。

彼のこと、もっと、知りたい、なんて。

ドキドキする胸は物語のせいと言い聞かせて、
視線を彼から本へと戻した。

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