「ねー、ね、ってば!」


甘ったるい声をひたすら吐き出すこの女に、盛大なため息をくれてやりたい。












【溺愛ミステイク】












リビングの、お気に入りのソファの上。
声の元凶は、そこにいる。白い大きな、柔らかな感触を体全体で受け止めるように寝転がる猫みたいなヤツを、俺は睨んだ。
ニッコリ。睨んだのに俺がこちらを見たことに嬉しいらしく笑うので、呆れてものも言えない。


「こっちきなよーっ、唯っ」
「何でだよ…」
「早くっ」


抱っこ、とばかりに手を伸ばす彼女に、思いきりクッションを投げてやった。小さな悲鳴を聞いて、ざまぁみろ、と笑ってやった。
投げたクッションを抱き締めながら、多少赤くなった顔で今度はふくれている。なんてコロコロ表情を変える人間なんだ。万年無愛想な俺とは違うな、と感心する。


「ゆい、ゆーい、ゆいっ!」
「あーわかったわかった!行くよ!」


拗ねたら後が面倒だ。
素直にソファの横に座った俺を、嬉しそうに膝に寝転がる彼女。
特に何も言わず、その肩までの癖っ毛に手を伸ばす。好きに触れていたが、彼女は嫌いではないようでされるがまま。猫を毛繕いしているみたいだ。


「また何も言わず来たのか?ナナ」
「私が唯のとこ行くって、わかってるもん」


だろうな、と呟く。
異性の、しかも独り暮らしのマンションにいる娘を黙って送るのもどうなのか。変に夜の町を歩くよりかは安全だと思っているのかもしれない。それには同意する。ナナはどこか、そういう危うさがあるから。


「唯だって連絡入れてるじゃない。私の親に」
「俺のうちに上がる最低条件だと思え」
「むぅ、だから我慢してるじゃないっ」


ぐりぐり、頭を押し付けるナナをはいはい、とあやしながら、最早夕飯を考える際にナナの好みを考える俺は、もう負けているようなものだ。


「夕飯はどうするんだ?ナナ」
「作って!」
「メニューを聞いてんだよ」
「…んー、食べれるなら何でも」


短いデニム素材のミニパンツから覗く真っ白な足は、かなり細い。全体的にほっそりしているナナはかなり少食で、普通の半分で満腹になる。アイスクリームという腹の足しにならないものを好み、そればかり接種しようとする。
さて、どうするか。
顎に手をあてて考えていたら、腰にまとわりついていたナナがむくりと起き上がる。


「ごはんのまえに、唯がいいな」
「バーカ」
「ひどい、本気だよ!」
「飯優先しろよ」
「やだ、唯」


するり、首に巻き付けられた腕に引き寄せられて、唇に押し付けられる柔らかいもの。
キスをした、自覚した途端に一気に真っ赤になった俺を、ナナは笑った。


「唯、甘やかして」


ふふ、と笑いながらキスをねだるナナに、どぎまぎする俺の方がアホらしく感じた。そうだ、何かが切れたんだ。もう、なるようになれ。全部ナナが悪い。


「ナナ」
「なーにっ、唯、んむっ」


細い腰に手を回して、ナナからの挑発を受けてやった。
俺からしたキスに笑顔で答えたナナだが、次第に息苦しくなったのか、くぐもった声を漏らす。しかし見向きもせず、ひたすらナナの呼吸を奪う。
掠れた声が自分の名前を呼ぶ、甘い、甘ったるい、声が、誘う。


「ゆ、ぁ、ふぅ…ゆいぃ…、」
「ん、お子様」
「違う、もん」


どうだか、とまた深く唇を落とす。
キスをねだるわりに、ナナからするキスは啄むような可愛いもので、しかしそれにしっかり煽られる俺も俺なわけで。
とろん、ふやけるナナを、逃がさないように固定する。


「ふふ、唯、おおかみさん…?」
「今更かよ?」
「んーん、知ってたよ」


知ってたから、唯がいいんだよ。
唯だけが、いいんだよ。

抱き締めながら吐かれた熱っぽい言葉に、ナナをソファに押し倒す。
まるでわかっていたように笑いながら、首に腕を再度巻き付けるナナ。つ、となぞられた首に、小さな過虐心が、火を付ける。


「唯、大好き」


俺が安心だなんて、ナナの両親は間違ってる。
こんなにも危ないんだ。バカだけど、ウザいけど、ナナは俺にとって唯一の女でもあるから。

求めてしまう。


「知ってるよ。バーカ」


結局、俺はナナに弱い。











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唯(16)×ナナ(15)

冷めた女の子が多かったので、構ってちゃんになりました。
因みにナナは漢字で夏々。