どうも。Kです。
春のパソコンがあまりに重症、システムの組み直しとiPod初期化に備えての作業によりせかせかと忙しそうなので、暇潰しになるかわからんが前に春が気まぐれに送ってきた文章を載っけたいと思います。
オリジナル。予告みたいな形式になってますが、まぁ暇潰しに。
宜しければ↓↓
大学卒業して、新しい生活に入るにあたり俺は一人暮らしをすることになった。
大量の段ボールから唯一開けた数個の中身は、ベッドである。とにかくベッドを組み直すだけで俺はへたれこんでしまった。笑うがいい。どうせ俺は文系の人間だ。
真っ白なシーツで寝返りを打ち、ふと気になって一番上の段ボールに手をかけた。うん、やはりこれだけはしておかなくては。
紙ガムテープを爪で破き、出てきた木片を必死に組み直し、出来上がった物に新たに開いた段ボールに詰まっていた本を入れていった。これはおそらく俺が、夜に本を読む癖がついていて、段ボールを動かさなければならない必要性が出てくるからだ。
面倒なことは早めに済ますに限る。
さて、せっかく並べたのだ。何か開いてみるか。
そう背表紙に指をかけた途端、一気に上から何かが雪崩れてきた。驚いた俺は足を滑らせ、床に転がってしまう。一気に頭が真っ白になった。打った訳ではない。目の間一面に何かが被さったからだ。
「…なんだ、写真か」
どうやら落ちてきたのは簡易アルバムのようだ。軽いせいで勢いで落ちてきたらしい。どうりで痛くないわけだ。
頭に降って積もった写真を一枚手に取り、目を向けて、あぁなつかしい、なんて思ってしまった。
手に取った写真に写る、無愛想な俺と、隣の髪の長い女生徒。
優しい瞳。少しくるんとした茶色の髪。真っ白な指が、俺のブレザーを掴んでいた。
背後に学校必需品のグランドピアノ。
これは彼女の、十八番道具だった。
「…4年、か」
思い出すのも悪くない。
俺は高校時代、中々不思議な体験をしてきたのだ。
【想:1 先生と生徒】
高校一年。
俺の名前は高政尚(たかまさなお)。
周りが青春溢れる高校生活、新しい制服に身を包み、浮き足立っている中、一人読書を楽しみ静かに過ごしていた。
どうも、あの賑やかさは嫌いだった。
「尚、何読んでるんだ?」
「…」
カタン、と前の空席に座って俺を覗き見てきたこの人物。男。因みにイケメンの部類であろう。爽やかな笑顔に文武両道なんて、これまた青春の一部と言うべきか。周りで女子が何やら騒いでいる。
灰音玲二(はいねれいじ)。
何故この男が俺に話しかけてくるのかがわからない。
天変地異の俺と、コイツが。
「無視か?」
「…サスペンス。つか近い」
「ん?あぁ、悪い」
離れたつもりか。まだ近いぞ。
言わなかったが、目で訴えてみた。しかし笑顔で流された。中々曲者か。
「会話しようぜ?尚」
「どうしてお前が俺に会話を求めるのかわからないが」
「俺、お前と友達になりたいらしいんだよ」
らしい、か。
「曖昧だな」
「そういえばこの席、ずっと空きっぱだな。誰だっけ」
「さぁ。女だったと思うが」
「入学1ヶ月にして不登校か?それも不思議だな」
「…」
不登校か。何故、とは思わない。
1ヶ月でいじめが起きるのは考えにくい。たかが1ヶ月で馴染めないなんてことも考えにくい。
ならば、何故か。
興味がないから、これ以上は考えないだけだ。
「…みないといえば、木村先生もか」
「木村?」
「覚えてないのか?副担だろ?この教室の」
あぁ、そういえば。
ーーーーー
「どなたですか?」
「…そちらがどなただ?」
俺は課題を出しに来ただけだ。
職員室で扉を開けて、いきなり目があったこの女生徒が一番に開口したのが、意味不明な前文だ。
「私、奉章と申します。実は木村先生を探しているのですが」
「木村?確かかなり休んでるうちの副担じゃないか」
「どうしてお休みされているのですか」
ーーーーー
「前の女生徒と木村先生。両方行方不明なんて、あり得ないよな」
「何が言いたい。灰音」
「わかってるだろ?尚」
ーーーーー
「木村先生は穏やかな方でした」
「どうしてわかる」
「音が、優しかったのです」
奉章が近くにあったグランドピアノの鍵盤に触れた。ハイトーンのソの音だろう。綺麗にこの夕方の放課後に響く。
「木村先生は、私たちの入学式で校歌と国家をピアノで弾かれた方ですよ」
「珍しいな。男の先生が」
「とても、優しい音でした。あれは穏やかな方が出す音です」
音で人を判断する。何とも理解できないことで。
しかし、穏やかな、か。
「…だったらなおさら、だな」
「?」
二人は、多分。
ーーーーー
「人はわからないものだな」
「わかりたくもないがな」
「いいや。お前は実際、木村先生と女生徒の思考を理解したじゃないか」
「ただの妄想だ」
「そう考えても構わないけどな。今回の件も、結局答えあわせは出来ないしね」
灰音の言葉に、俺は返事をせずに目を伏せた。
ーーーーー
「てっきりアンタ、俺にもう近付かないかと思ったよ」
「どうしてですか?」
「…アンタの希望、俺が砕いたようなものだからな」
「いいえ。高政さんの言ったことは、真実でしたから。ただ、真実が、寂しいだけです」
「…不思議な人間だな。アンタ」
「…貴方のほうが、泣きそうな顔をしてます」
キミと出会い
キミと話し
キミと、見た高校生活を
きっと俺は、忘れない。
「私、きっと、悲しいんです」
彼女も、忘れるわけない。
End.