海は広いな大きいな。
月は昇るし日は沈む。
海にお舟を浮かべたら
行ってみたいなよそのくに。
遺体安置所(私の中学校)で、首のないご遺体にお会いしました。
遺体安置所(私の中学校)で、鎖骨からおへそまでのご遺体にお会いしました。
お体のパーツが全部揃っておられるご遺体は綺麗な棺桶に入れられておりました。
身体中に紙を貼られておりまして、見つかった場所や、特徴や、腐りにくいようにする注射を打ったか打ってないかなど、さぞかし不愉快な思いをしておられている事でしょう。
お体のパーツしか残っていないご遺体はビニール袋に入っておられました。
その上からブルーシートをぐるぐる巻きにされ、ガムテープでぐるぐる巻きにされ、遺体安置所(私の中学校)に綺麗に30センチ間隔で数え切れない程に整列しておられました。
その横では、新入りのご遺体が続々運び込まれてきて、警察官が忙しそうにブルーシートの向こう側で嘔吐をしながら、消臭剤を振り掛けながら、チェックをしていました。
みんななにもしらない。
あたしは自らトラウマを作っているのだ。
今朝海に行きました。
磯の匂いがとても心地よかった。水面は輝き、海辺の魚は焼け焦げていた。さかなくん、きみの死因は焼死だよ。海の冷たさしか感じた事のないきみには始めての経験だったね。可哀想に。
町中をビール飲みながら隅から隅まで走り回った。
途中パトカーに何台もすれ違ったけど、岩手県警は1台もいなかった。
誰もあたしをしらない。
「みずほちゃん。今すぐ家に帰らないと補導するよ!」
いいや、交番は焼け死んだ。
パトカーもそれに乗ってた大人も焼け死んだ。
誰もあたしをしらない。
でもそれでも言ってみる。
「あの、素振りしてる男の子見ませんでしたか?」
「野球の練習していると思うんですよ!」
そうだ。
もしかしたら今日火葬したあの汚い遺体は確かにゆうとに似ていたけど、ゆうとじゃないかも知れないんだ。
ゆうとのお母さんやお父さんやお姉ちゃんや同級生が泣きじゃくっていたけど、焼かれていたのはゆうとじゃないかも知れないんだ。
ゆうとのお母さんが今まで仲良くしてくれてありがとう。って、言ってきたけど、もしかしたらゆうとじゃないかも知れないのに。
でもまさか、死んだのかな。
あの死体はまさかゆうとなのだろうか。
ゆうとも30センチ間隔で綺麗に整列したの?
堪えた涙は何処へ押し込まれていったのだろうか。
あの真っ白な骨は一体誰の骨だったのだろうか。
見上げたら快晴だったのには何か意味があるのかな。
皮肉にも今日も海が綺麗だったよ。
光1つない海辺の町から星空を見あげた。
ゆうとは星になったのですか?
魂なんてあるの?
綺麗事もお葬式のいつもの流れもお前らの泣く姿も、お馴染みの「今日来てくれて本人も天国から喜んでいると思います。」発言も全部全部ぶち壊してやりたい。
と、思っていたら、いさむにあった。
「ゆうとは死んでしまった。でもまた会えるよ、死んだけどね。ま、俺がいるからいいじゃん」
ありがとういさむくん。
やはりゆうとは死んだのね。
こうしてあたしの妄想悲劇物語は幕を閉じた。
そのあとはいさむと腹がよじれるくらい爆笑した。
なんと、昔の携帯を見付けた。
中には元カレやらなんやらのデータがいっぱい入ってたけど、いちいち感傷的になっている暇はなかった。
最後の着信がゆうとになってた。なんの電話だったかもう覚えてない。
ゆうととのメールも沢山入ってた。最後には相応しい一文で、ドラマチックだと思った。
「やっぱりお前が一番だよ!会いにいくよ、必ず遊ぼうね!」
それからゆうとには会っていないし、2度と会う事も出来なくなってしまった。
間違いなくあたしは生きてしまっている、し。
すっかり訛りに安心感を抱いてしまっているし。
もう町は再起不可能で、人口の半分が消えた。
別にここまで求めてなかったのに、でも大嫌いな人(悪夢の根元)を消してくれたのは、なんかほんとありがとう。
でも別にゆうとを消せとは言ってないじゃん‥いじわる。
あたしの町には神社が4つあるんだ。
3つは町中にあって、もう1つは弁天様。海の真ん中に立ってるの。
あんな津波と火災があったのに、4つの神社はみんな無傷。ましてや、海の真ん中に立ってる弁天様は津波を直に受けたのにも関わらず流されていなかった。
津波が避けたところを見たと言う証言まで。
本気で鳥肌が立ちました。
ゆうとが死んだのには何か意味がある。
とりあえずお別れだな。
ゆうちゃんず、ばいばい。