話題:創作世界披露会及び創作メモ帳
その晩、僕は土手の上を歩いておりました。
ひ と の よ
人間てのは面倒なもので、働くだけでなく付き合いというものをしなければ食っていけない。付き合いをしなければ働くことが難しくなるからだ。
今も酔いつぶれた上司を送り届け終電に間に合わずタクシー代ももったいなくこうして徒歩での帰宅を試みている。
季節は秋を迎えて数日前までの暑さなど嘘のような冷たい風が足元を流れる。横に川があるからかもしれないが。
付き合いで飲んだ酒が足元をふらつかせる。
夢心地ながら、風の冷たさに覚醒をしつつ。
今日は星が出てるかーなんて上を見上げて。
「お前は、やくたたずだ」
小さな声だった。
いや、声と言うにはあまりに小さく浮いたような声。
例えるなら、うらめしやー、なんていうあの。
「え」
やめたやめた。とんでもない。
きっとあれだ、河童だ。横に川もあることだし。うん。そうだ。そうにちがいない。そうであってほしい。
「信じたくないのも分かるが現実を見ることも大切じゃ」
「……うそだろ勘弁してくれ」
僕の心を読んだのか諭す声にその方向を見ると川の上にばあちゃんの顔。
こうくると、狐か、かわうそか。
ばあちゃんはまだ元気だし、こいつならばあちゃんの顔くらい俺の心かなんかを読めば分かるんだろう。
あー頭痛い。
飲み過ぎだな、と頭を抱えて首を振ってもう一度見ればそこにばあちゃんはいなかった。
ほら、やっぱり夢だ。
「夢だの勘弁しろだの。挨拶くらいせんか」
「……そっちこそ」
酒のおかげだ。
怖さがない。
まだ喜べることがあった。
ゆっくりと声のした方を振り返る。
こどもだ。ちょうど五歳くらいの。
この季節、この時間にTシャツ短パン。
なんてべたな幽霊だ。
「五歳じゃないし幽霊なんかでもない」
「お前がさっき思っただろう」
「……みっつあるんですけど」
「狐に河童にかわうそ、幽霊でよっつだ、ばかもの」
「僕がばかものならお前はばけものだ」
「ふむ。なかなかよい」
「関心するな」
なんだこいつ。おかしい。いや、ばけものにおかしいもなにもないと思うが、こいつは変だ。
なんだこいつ。
「だから」
「さっきの会話する気ならやめろよ」
「な!なぜわかった!さては貴様……」
「いや、違うと思うぞ」
なんて分かりやすい奴なんだ。
こんなに読めるんだ、絶対に人間じゃないという確信が強くなった。
僕が他人の心をこんなにも分かることができるだなんて。
「おい人間」
「あたりだったな」
「わかっておるなら隠す必要もない」
「わざとやってるんじゃないだろうな」
「はははっ……まさか」
笑った口元から牙のようなものがのぞいた気がしたが気付かないふりをしよう。