しばらく帰れないから。
その期間がどのくらいなのか。
まさか数ヶ月になるとは、その時には考えもせず。
とにかくご飯なんて作れないからさ。
スーパーでお弁当を買ってね。
朝食と夕食を独りで食べてた。
その間、新聞や電気の集金が来るよね。
それを支払うしかなく。
2万円なんてさ、あっという間に無くなった。
でも母親は戻らない。
お金が無くなってから3か月後に戻ってくるんだけどね。
その3か月間は尋常じゃない生活だった。
とにかくお腹が減る。
でも食べ物もお金もない。
うちには猫が居てね。
猫の餌はたくさんあった。
缶詰とかフレークみたいなやつがね。
それを最初は食べてた。
泣きながら食べてたよ。なんで俺が…なんて思いながらさ。
人間ね、生きる為には強くなれる。
幸い、家の真横が海でね。
当時は綺麗な海だったんだよ。
そこでアサリを採り、魚を捕まえ、とりあえず火だけ通して食べてた。
甘い物が欲しい時は、神社に咲くツツジの花をちぎり、その蜜を吸ってた。
近所の生ゴミ…あさった事もある。
毎日泣いてたな。
屈辱だった。
でも生きるしかなかった。
死ぬって事を知らなかった。
生きるには、どんな屈辱だろうと、それを耐え抜くしかなかった。
そんな生活の中。
俺は2人の親を憎んだ。
あんなに大好きで。
あんなに甘えたかった両親。
その愛は憎しみに変わった。
お前らなんか親じゃない。
お前らなんか人間じゃない。
俺は1人で生きていく。
誰も信じない。
誰も頼らない。
そう心に決めた。
1人で家に居る。
そう決めたのは自分で。
ただ、1人で過ごすには、小学四年生って幼過ぎた訳で。
看護士をしてた母親。
救急病院だったんでね、夜勤がもちろんある訳で。
ただ、日勤の日はね、夕方に帰宅する訳で。
日勤の日はね、いつも近くのバス停に向い、母親の帰りを待ってた。
何にもなければさ、夕方6時くらいにそのバス停に着くからね。
バスから降りた母親は、俺の姿を見つけても何にも言わない。
ただ、そのまま買い物に立ち寄り、そこでお菓子を買ってくれた。
スーパーで過ごす何気ない時間。
そこから家まで歩く何気ない時間。
そんな時間が嬉しかったのかな…。
日によってはね、母親も残業があり、そんな時は3時間くらいバス停で待っていた日もあった。
今思えば、単なる甘えたれだね。
そんな母親が。
ある日を境に…。
俺から離れて行った。
俺は小学四年生。
学校から帰宅した俺は、1枚のメモを見つけた。
そこには母親からのメモが書いてあった。
○○ちゃんへ
ごめんね。しばらく帰れないから。このお金で何か買って食べてね。
そのメモと一緒に、2万円だったかなぁ。お金が添えられていた。
この日からだね。
今の俺が作り上げられたのは。
それから数ヶ月…
母親は帰ってこなかった。
親父にも連絡ができず。
俺は独りで数ヶ月を過ごすことになった。