《黒猫》



まったく。

言い掛かりは止していただきたいものだ。

吾輩はあくまでも、全身の体毛が真っ黒いだけではないか。

それがどのような迷惑をかけただろう。


確かにカラスの奴。
あいつは真っ黒だし、ゴミ袋を漁るし、光り物を奪うし、不吉な存在と呼ばれるような行為もしているだろう。


しかし、吾輩はただの飼い猫で家猫である。
トイレの位置も知っているし、主人からご飯を与えられるのを腹を空かせて待つのみであるし、いたって落ち着いた行動をとり、物を壊したりする事なども無い。

主人だって、いたって普通の人である。
毎朝家族にご飯を作り、毎日掃除や洗濯をし、毎晩家族にご飯を作る、しがない専業主婦である。
毎朝会社へ向かい、毎晩家に帰ってくる、ただのサラリーマンである。
毎朝学校へ向かい、帰ってきてランドセルを置いては、友達と遊びに行く、普通の小学生である。

毎晩、吾輩を囲んでにこやかに笑い、穏やかに笑う、一般家庭なのである。


ちなみに、猫は10年生きると化け猫になると言われているが、吾輩はまだ三年も生きてはいない。

猫は、吾輩と自分の事を呼ぶものだと、幼い頃にソウセキとやらに思いこまされたのだ。

多少古めかしい喋り方は、吾輩の趣味なのである。


しかも、吾輩に付けられた名前は“ラッキー”である。
犬ならまだしも、猫にラッキーと付ける、主人のセンスを疑ったこともあるが、今ではこの名前がしっくりと馴染んでいるのだ。



さて、皆のもの。

吾輩は確かに黒猫だ。


しかし、今の世の中に魔女なぞはそんなにおらず、黒猫も、宅配のシンボルという地位を獲得しているではないか。


もう一度言う。


吾輩は黒猫だが、一切合切不吉な所などは無い。

全身の体毛が黒いだけで、勝手な思い込みと判断は止めていただきたいものだ。




end



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