《雨》
傘を忘れてしまうだなんて、なんて馬鹿らしい。
天気予報では、確かに雨だと言っていたのに。
朝の自分の浅はかな考えにウンザリしながら、俺は学校の昇降口でボンヤリしていた。
運の悪い事に、学校に折りたたみ傘を置いてはいなかった。
完全に手ぶらだ。
他にも数人、俺と似たようなヤツらがいるようだった。
眺めていたら、誰かが友達の傘に入れてもらって帰るようだった。
声が聞こえたワケではないが、笑いながら二人して学校から帰っていく。
ただ、仲が良さそうな二人組。
俺の胸に、チクリと刺さるトゲ。
「あ…、透…。」
「………要か。」
幼なじみの要。
今日は部活も委員会も無いのだろう。
肩からは鞄を提げ、左手には傘を携えている。
「どうしたの…?あ、もしかして…。」
「今から帰るんだよ。」
俺は、要の言葉を遮って立ち上がった。
要は、俺の様子に困惑しているようにみえた。
「で、でも…、傘…。」
「いらない。俺には必要無い。」
要の顔を見ないように、要の声を聞かないように、俺は昇降口を出て行こうとする。
「ま…、待って!」
その俺の腕を、要は掴んで引き留めた。
「ほ…、ほら、傘ならあるから、一緒に帰ろう…?」
そう言って、にへらと笑う。
俺は、その手を振りほどいた。
「いらない。一人で帰る。」
「え…、で、でも……。」
「ほっといてくれよ。いいから。じゃ。」
「でも!じゃあ、傘を……。」
「いらないって言ってるだろうがっ!!」
怒鳴った俺に、要はビクッとその体を震わせる。
………あぁ。泣きそうな顔で俺を見るな。
「………頼むから、放っておいてくれ。……じゃあ。」
俯いてしまった要に背を向けて、俺は勢いが強まってきた雨の中を駆け出した。
雨の中を走りながら。
でも、自分が泣いているのはわかった。
もう、嫌だ。
アイツの側に俺は居てはいけないんだ。
たとえ、今のアイツが俺に拒絶された事で傷付いたとしても、未来のアイツにとっては幸せな事なんだ。
俺がアイツに嫌われる事なら、別に構わないから。
俺が、アイツの未来を奪ってしまいたくない。
アイツが誰かの隣で笑っていてくれるのなら、俺は雨にズブ濡れになったって構わない。
でも、アイツの隣に俺が居てはいけない。
俺は泣きながら、濡れながら走った。
神さま。
この赦されない恋は。
いったい、誰に謝れば赦されるのですか?
end
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