今日はSSって奴?ですよ
コツ、コツ、コツ。
石造りの通路を歩くとよく音が通った。静かで暗くてほのかにかび臭い、大人でも踏み入ることを躊躇する重苦しい空気が漂う空間を、彼は歩いていた。
「はぁ……無駄に広いなあ。子供の足で歩く事を考慮しなかったのかな。掃除とかしたら一生掛かるんじゃないかなあ。……ん?」
そうぼやいて、彼は今まで休めなかった足を止めた。自分以外の何か、に気が付いたから。距離は遠くない、位置を確認するとまた歩みを再開した。
「しまった……何も見えねー……。何だよ、明かりとか何で無いんだよ……」
何か、の程近くまで来てみれば、まだ幼い子供が座り込んでいた。
「くっそー……。日が昇るまでは動けねーかな、これじゃ」
「ここは昼も夜も変わらないよ」
「!? だ、だれだ!」
「君こそ誰だよ」
思わず声を掛けてみると、子供は態度こそ威勢が良かったが、暗闇に独りでなくなった事に少なからず安堵したようだった。
「おれさまはセイラセイム。セイって呼んでいいぞ!将来は大泥棒になってるぜ!」
「あはは、泥棒ね……」
「何だよ、こんなとこに居るんだ、お前も似たようなもんだろ?っていうか、夜目すげーのな。明かり全然ないのによくおれさまに気付いたなー」
「……まあね」
実は夜目ではない。が、しかし上手く説明できそうになかったのでそういう事にしておく。夜目は確か星等の微かでも光が無いと見えなかったはずだ。ならば完全に光を遮断しているこの場所では働かないだろう。
「明かりは……点いてたんだけど、私が消してしまったんだ。今日は新月だから、この体じゃ制御出来なくて」
「は!?お前が消したのかよー!どうしてくれんだよ、このままじゃ帰れねーじゃん!」
「なら外まで送るよ。着いて来て、セイラ」
「セイラって言うな!女みたいじゃん!……って待てよ、見えねーってば!」
手を繋いで元来た道を辿っていく。セイラセイムは石の窪みに足を取られたり壁にぶつかったりと慌ただしかったが、彼は淀みなく歩き続けた。
また外に出るとなると、また通路を通っても朝までに自室に戻れそうにない。これは朝方、正面から入った方がいいかもしれない。
やっと外に出れば、もう夜が明けかけていた。
「ああー、新鮮な空気美味いなー!何はともあれ、助かったぜ!ええと……」
「ん、ああ、私は名乗ってなかったんだっけ。アークっていうんだ。宜しくセイラ」
「セイラっていうな。……ま、よろしくしてやらんこともねーよ?」
セイラセイムは、アークに見送られてねぐらへ帰ってから反省点を見直していた。いや今回は視察だっただけだし。あわよくばお宝を頂こうとは思っていたが本来の目的じゃなかったし。次に侵入するときは明かりを持っていこう。そういえば、アークは何を狙っていたのだろうか。また次にあったら聞けばいいか。そこまで考えると、眠気に襲われそのまま眠ってしまった。
「あああアークさま、またお部屋を抜け出されて!皆あなたを捜して大騒ぎでしたよ。夜遊びは程々にお願いしますよ」
「……次は抜け出したこと見付からないようにします」
「反省の色ないじゃないですか!」
そしてアークは城門と喧騒を潜って、自分の部屋へ帰っていった。そして机に突っ伏する。
「まーたフラットの捜索命令出されちゃったよー、もー……。今は、どこに居るのかなあ」
数ヶ月前に会ったきりの旧友を思い返し、温かい日差しの中ゆっくりと目を伏せた。