激しい戦闘が繰り広げられている最中、妖気に当てられて苦しむ田沼と視えない多軌は隠れて見守るしかできない。
正直、歯痒い思いではあるが、自分達には戦う術はない。
「…っ…俺たちだって夏目を助けたい…」
「…田沼君…うん、私もだよ…私だって夏目君を助けたい」
顔面蒼白にして頭を抱えている田沼を支えながら多軌は彼の言葉に頷く。
もしも視えるなら、力があるのなら、皆と協力して夏目を助けたい。
「夏目君は私たちの大切な友達なんだから……」
「…っ…ああ…」
助けたい思いがあっても現実は何もできない。
夏目を助けるために傷つき倒れては向かっていく名取やニャンコ先生、誘宵のように戦えるわけでもない。
今はただ、彼らを信じるしかない。
式紙を黒い影に向かって飛ばす名取だが、届く前に放たれる妖気に阻まれてしまう。
無残に引き裂かれていく式紙たちを目にして、名取は小さく舌打ちをした。
そんな彼の横を斑が駆け抜けて、黒い影に飛んでいく。
「貴様に夏目を渡すつもりはないっ!!」
黒い影に食らい付こうとする斑だが、寸前の所で避けられてしまう。
斑に意識がいっていることを良いことに誘宵が攻撃を仕掛ける。
「美幸を返してもらうっ!!」
『……こざかしいっ!!』
もう少しで攻撃が当たると思いきや、黒い影が素早い動きで態勢を直し、誘宵を妖気で吹き飛ばす。
不意打ちで飛ばされた誘宵は受け身も取れず地面に転がった。
『これはもう我のもの!貴様らに渡しはしないぞ!!』
耳障りな咆哮が響き渡る。
ザワザワと揺らぎ始める木々たち。辺りに不穏な空気が立ち込める。
護られてばかりで何も出来ない自分。
皆が必死に戦っているのに、この手は、足は、微動だにしない。
戦いの音が聞こえる。
身体に痛みが走る度に誘宵が、皆が傷ついていることを知る。
(…いつも俺は…何も出来ない…)
戦うことも、抵抗することも、出来ない。
自らの身体に乗り移っている美幸も心を痛めて涙を流している。
―――……ごめんなさい…私が無力なばかりに…。
違う。無力なのは君じゃない、俺の方だ。
どんなに悔やんでも状況は変わらない。変えられない。
ろくに抵抗する力もないが、何とかしたい。
(……君の、力を貸してくれないか…?)
一人で駄目なら、二人でこの状況を変えれば良い。
涙を流していた美幸がゆっくりと顔を上げて瞬く。
―――…私で、いいんですか?
(……君しか、いないんだ…)
このまま何もせずにいるよりは、少ない確立とはいえ実行するべきだ。
躊躇いがちに頷いた美幸はゆっくりと手を伸ばしてきた。
―闇への誘い16―
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