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▼その他:
G・ライアンは疑わない 牛獅子

ジャスティスデーとは、シュテルンビルトならではの祭日である。日頃から賑わしい雰囲気の街ではあるが、この日ばかりは全ての市民が沸き立つといっても過言ではなかった。
しかしここ数日はこのジャスティスデーの伝説にかこつけた犯罪が次々と起きており、街と市民を守るヒーロー達は日々駆けずり回っていた。

ついにジャスティスデーが明日へと迫る中、ヒーローであるファイヤーエンブレムがNEXT犯罪者によって、悪夢を見せられる能力をかけられてしまった。
ゴールデンライアンことライアン・ゴールドスミスは、まだこの街に来て数日しか経っていないが、今回の事件がただの愉快犯の仕業ではないことは理解していた。
しかしここシュテルンビルトではしっかりと根付いている女神伝説は、余所者であるライアンには馴染みのない話だ。

「は?知らないの?」

「知らねーよ、この街の人間じゃねーんだから」

アイドルとも呼ばれる少女から意外そうな声が飛ぶものの、本当に何も知らない。彼は相棒であるバーナビーに伝説の顛末を聞くが、これと言って興味があるわけでもなかった。
ただ、話を聞いている中で、これは疑われているのだな、ということは理解した。



とあるバーにて。
ウィスキーの美味しい店だと聞き足を運べば、そこには他社のロートルヒーローがカウンターで一人、瓶を煽っていた。

「よお、オッサン」

「?ああ、お前か……」

「んだよその気の抜けた態度!」

軽口を叩きながら隣に掛けると、一瞬顔をしかめるも何も言わなかった。
バーテンダーにウィスキーのロックを頼んでから、身を乗り出すようにヒーロー・ロックバイソンことアントニオ・ロペスの方へ顔を寄せた。

「何、あんた一人?」

「座る前に聞けよ」

「細けえことは気にすんなって!」

「モウ……まあ、一人だからいいが」

それから好きな酒の銘柄や好みのタイプの話、当たり障りのない話題を探りながら、ライアンはアントニオの警戒心を解いていく。ライアンはバーナビーの前の相方と話したことはないが、この男と話していると大体のことはわかるような気がした。類は友を呼ぶともいうが、どちらも真っ直ぐで正直者なのだろう。後半は、バーナビーにも言えることかもしれない。
そう考えると、ライアンはおかしくて仕方なかった。突然肩を揺らしながら笑い出したライアンに、アントニオは訝しげな表情を隠しもしない。

「何だ?」

「いやー、ジュニア君もそうだけどさーあんたも相当だよな!」

「だから何がだ」

「あんた、顔に出やすいって言われねえ?」

ファイヤーエンブレムの病室でも思ったが、どちらも疑っていることを隠しもしない。それをライアンは不愉快とも思わなかった。

コンチネンタルエリアで活動していた頃は、シュテルンビルトでの救助活動のような大掛かりな仕事もあれば、要人の護衛といった目立たない内容もあった。
しかし目立たないとは言っても、ライアン自身が誇る容姿はとても人目を惹くものであり、ヒーローという職業柄、どこへ行っても悪意というものはついて回るもので、羨望が嫉妬へ、憎悪が殺意へ。そう言ったものに晒されていく中で、ライアンは自分が持てる全ての魅力を信じるようになった。自分を磨けば磨くほど、惹きつけられる人がいるのと同じくらい、ライアンを良く思わない人間が出てくるのだと。

だからライアンは人を疑わない。

「別に疑われてるからってあんたへの態度が変わるわけじゃねーし、俺様ってば小悪魔〜って感じぃ?」

「……ギュウ」

ただ一言、アントニオは否定するでもなく、そう呟いた。もっと慌てるだろうか、とライアンは考えていたが、この反応は意外だった。

「……オッサン面白いな、まだ時間あるよな?」

今夜は時間が許すまで、この男と語り明かしてみたい、ライアンは二本目のボトルをおろしていた。





くっつくまで……を書けたらいいなあ。こんな牛獅子の始まり方もいいじゃない?というネタでした。

 

  
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