話題:自分の気持ちがわからない
いくら会いに行けたとしても、500kmの距離を近いと言えるほど、私の神経は図太くなかったようだ。
一難去って、また一難。
たかひろさんは本当にメンヘラちゃんを呼び寄せるのが得意だ。
彼のバイト先の後輩ちゃんが彼を溺愛しているのは、前から知っていた。
彼が私の話をするせいで、なぜか会ったこともない後輩ちゃんに嫌われているのは、この間知らされた。
どうやら、私が誕生日を祝いに行くのを、何かの拍子に知られてしまったようで、一昨日の夜中に《ちょっと修羅場る》と届いたLINEを最後に、結局丸一日連絡が返ってこなかった。
さすがに心配になって、今朝私からLINEを送った。
《生きとる?》
《なんとか》
《修羅場で逆上されて襲われたりしたのかと思ったよ》
《まあ似て非なるものかな》
《私誕生日あなたと過ごせないかも》
どうせそうくると思ってた。いやな勘はやっぱり当たる。
《んー》
《やだ》
と、送ってから、自問自答。
どうせ後輩ちゃん絡みだ。ごねたってしょうがない。
《んーん》
《しゃーないか》
大人だから、と、自分に無理に言い聞かせて、気持ちとは真逆の言葉が出てくる。
《バイト先の後輩さんがね》
《鬼の束縛ちゃんなんで》
《付き合ってないのによくわからん話なんですけどね》
《束縛される筋合いないやん》
《そうなんですけどね》
きっとたかひろさんのことだから、断りきれなくてずるずる…ってパターンなんだろうな、って察しはつく。
顔もかっこいいし、話はおもしろいし、底抜けに優しいし、好かれるのは当たり前のことだ。
でも正直なことを言ってしまえば、そんな話は聞きたくないし、私にとっておもしろくも何ともない。
だからといって私は、その子と関わるのをやめてと言える立場でもなければ、その子よりたかひろさんの傍にいてあげられるわけでもない。
《まあ大事やんな》
《毎日会える子のほーが》
自分で言っておいて、大ダメージ。
"毎日会える子"には、なれない。どうがんばっても無理だ。
《大事とかそういうわけではないねん…》
《私だって本当はあなたに祝ってほしかったよおおお》
《ふーん》
《むっちゃ考えてんけどなー》
《ちょっと今日から後輩さんと距離とる練習します》
《むりやろ》
《やさしいもん君》
《ぐぬぬ…》
こんなことを言えば困るのは分かっているのに、たかひろさんのことになると、私はほんとに余裕がない。3年前からずっとそうだ。
あまり"怒"の感情を出さない私でも、彼には素直に全部を言ってしまう。
けれど今の感情は、"怒"というよりも、どちらかというと"哀"に近い。
彼は絶対に、後輩ちゃんよりも私のことを好きでいてくれてるのは分かっているのに、この距離がどうしようもなくもどかしくなる。
遠くても愛しい存在と、
近くの都合のいい存在。
どちらも切り捨てられないのは痛いほど分かる。
それでも切り捨ててくれない彼が憎くて、切り捨てられない私が憎くて、どうしようもない気持ちが混濁する。
優しい彼の言葉も全てつっぱねて、出てくるのは天邪鬼な言葉ばっかりで。
《すきやけどきらいや》
《君のやさしいとこ》
《そんなんくだらんやん》
《くだらないですか…うぅ》
《どうしたらいいんか全然分からんくなってきた!!!》
傷付けたいわけでも、困らせたいわけでもないのに、性格の悪い言葉がどんどん出てくる。
彼のことになると、"なりたくない私"になる。
私のこの気持ちが理不尽なことはよく分かってる。嫉妬や独占欲を抱いていい立場なんかじゃない。
だけど、付き合ってもいない女の子、いわば私と同じラインに立っている人間に、会う会わないを咎められる筋合いはないと思う。
それでもやっぱり、誕生日は私が祝いたい。
彼の地元で一番仲の良い友達にプレゼントの相談をしたり、京都の友達におすすめのお店を聞いたり、人生初のサプライズを企てていただけに、ここはどうしても引けない。引きたくない。
きっと心のどこかで、最後は私を選んでくれることを期待しているのかもしれない。
浅はかでもいいから、期待するのは自由だよね。
拍手コメントありがとうございます。
追記でお返事です。
モバイル用のサイトにも、拍手コメントボタンを設置したので、何かあればメッセージください。